24/08/23 【感想】曹操残夢 魏の曹一族

陳舜臣『曹操残夢 魏の曹一族』を読みました。以前読んだ『曹操 魏の曹一族』の続編です。

曹操を主人公として彼の生涯を描き彼の死で終わった前作に対し、本作は曹操の死後から曹魏王朝が終焉するまでを描きます。
曹操という主人公を失った本作は群像劇としての趣きを増し、また曹魏王朝の落日を描く切なさも帯びます。僕は案外こっちのほうが好きかも!
また歴史に邪馬台国が登場するのも魏王朝になってからで、倭や邪馬台国がストーリー上に面白く絡められているのが読んでいて楽しかったです。

詩が残っているが故に「肉声の残っている人」であった曹操を、彼の文章から膨らませて書いた秀作が前作でした。
曹操と彼の息子たち、曹丕と曹植は「三曹」として傑出した文学者として知られますが、本作においても詩が残る曹丕と曹植が主役級に据えられて話が進みます。特に筆者の陳舜臣がかつてよりその詩を愛読していたという曹植は深い情をもって描かれているように感じられ、その最期もドラマチックに彩られています。

曹一族を主役に据える一方で、そこから王位を簒奪する司馬一族を悪玉として描いていないのが本作の懐の深いところです。司馬一族の「持続するクーデター」については『裏切り者の中国史』で読んだところでしたが、そのクーデターに至るまでの政権全体の力学のようなものをすくい上げたところに妙味を感じました。

そして本作は「あとがき」と「解説」が非常に良かったですね! 実はこの感想もだいぶ解説に引っ張られているというか、読み方を助けてもらっています。
特に漢末で「古代」が終わり三国時代からを「中世」とする時代区分説を取り上げた論は興味深く、なるほどと思わせるものでした。

曹操が死ぬまでの乱世は、英雄待望論の時代だった。豪傑は、身分や出自に関係なく、おのれの知力や武力で台頭することができた。…(中略)…だが三国時代に入ると、世の中の空気は変る。劉備の死は、英雄時代の終わりを象徴していた。

漢王朝のピークは6000万人いた人口が三国時代には三国合わせても800万人に満たなかったというのもすごい話ですが、人口800万の世界で10万対10万の合戦を連発してるのもとんでもない話ですよね。