24/07/10 【感想】犯人IAのインテリジェンス・アンプリファー ―探偵AI 2―
早坂吝『犯人IAのインテリジェンス・アンプリファー ―探偵AI 2―』を読みました。以前感想を書いた『探偵AIのリアル・ディープラーニング』の続編です。
高校生の主人公・合尾輔のスマホに入った「探偵AI」相以が探偵役となり事件を追うというのは前回と同様ですが、前作は短編連作形式だったのに対して本作「2」は長編になっています。
それに伴って事件も「ゴムボートで漂着した死体、密室で殺された漁協長、首相公邸内殺人事件」と複合的なものになっています。
ただ読んだ印象として「この作品は短編向きだなあ…」と思ってしまったことは否めません。
前作は言ってしまえば「一発ネタ」が多かったのですが、ちゃんとその一発ネタで支えられる長さしか書かずに片付けていたという美点が作品全体の質を担保していました。本作「2」は一発ネタをいくつか組み合わせることで長編にしようとしていましたが、組み立てや見せ方があまりうまくいっていなかった印象があります。魅力的な謎はあるもののそこに深く関わらないまま次へ次へと進行してしまうため密室殺人や漂着した死体など魅力的な謎があまり活きていませんでした。謎とトリックの対応は結構面白いだけに、見せ方で少し損をしてしまったのがもったいない!
「短編をツギハギしたような長編になってしまう」というのは短編でデビューした推理作家が長編に移行しようとするときによく見られる傾向であり、長編を何作か書くうちに長編慣れしていく例を多く見ています。本作も過渡期にあるのかもしれません。
本作で印象に残ったのが、天才的な高性能AI・相以と秘書AI・keikoのやりとり。相以は「ちょっと天然な人間」くらいの感じで自然に会話できるのですが、本書に登場する秘書AIは応答を返すのに10秒かかったりと相対的にローテクです。この両者で会話らしきものができてしまうこと、そして会話するだけで露骨に性能差が出てしまうことの残酷さがやけに心に響きました。
これまで本シリーズに出てきたAIはどれも会話ぐらい普通にできる高性能なものばかりだったのですが、ここへきて初めて「超高性能ではない」AIが出てきたことで、当たり前になってしまっていた探偵AIのオーバーテクノロジーぶりと、そこに向けられる様々な感情の存在を改めて思い出させる演出だったと思います。
この下はネタバレ。
ここからネタバレ
韓国から対馬へどのように短時間で移動するかというアリバイトリックと密室殺人のトリック、そして地上に落ちている謎の物品の数々が熱気球という一発で繋がるのは面白い。大阪圭吉あたりの昭和前期の「探偵小説」で書かれそうな素朴で魅力的なネタです。ぶっちゃけ短編か中編で違った書き方をしていれば結構評価されたんじゃないかと思うんですが…!
でも本作にとって大事なのは、それとトロッコ問題を結びつけたことですよね。実際ここと結びついたことで昭和の物理トリックから令和のミステリへと一皮むけていたと思います。
上で書いた性能の異なるAI同士の会話の演出なども含めてパーツはいいものがあるだけに、組み立て方が惜しかったと思わざるをえない1冊だったと思います。