24/05/26 【感想】君のクイズ

小川哲『君のクイズ』を読みました。
言わずと知れた去年の話題作です。そして話題に違わずこの小説、めっちゃ面白い!!

物語はとある早押しクイズ番組の決勝最終盤からはじまります。ひたすら7マル3バツ形式の早押し勝負でクイズ王の称号、そして賞金1000万円の行方を決めるというストイックな番組。
「早押しクイズの技術」を磨き上げてきた主人公が対するは、クイズの技術は発展途上ながら圧倒的な知識量を武器とする「世界を頭に入れた男」本庄絆。
両者6問正解でリーチをかけ、次に正解したほうが王者となる最終問題。

ライバル本庄絆は、問題文が1文字も読まれないうちにボタンを押し、そして正解したのです。

 僕はこれからクイズを解く。
「Q. なぜ本庄絆は第一回『Q-1グランプリ』の最終問題において、一文字も読まれていないクイズに正答できたのか?」

小川哲『君のクイズ』

このあまりにも魅力的な冒頭、あまりにも魅力的な謎!
しかもこの謎にはちゃんと解決が用意されます。本作は極めて魅力的なミステリでもあるのです。

主人公はTVで生中継されていた映像を見返し、1問1問彼との対決を振り返ります。本作のほとんどはこの振り返りが占めるのですが、それなのに物語は四方八方へと展がっていきます。
なぜかというと、クイズの1問1問はこの世の事物についてのものであり、世界と結びついているからです。

クイズに本気で取り組むようになってから、日常の中で目にするすべてのものがクイズに結びつく知識として捉えられるようになった、ということが作中で語られます。市販品の成分や組成の表記、街で聞こえる何気ない会話、生きているすべてがクイズと紐づいている。
そしてそれゆえに、クイズの勝負が、向かい合う二人のライバルそれぞれの生きてきた人生と結びついてくるのです。まるでドストエフスキーの小説における対話のように、二人のクイズ対決は二人の人間が人生と人生をぶつけあうものに見えてくるのです。

こうしてみると本当にこの作品は話の流れというか、結末への持って行き方が流麗だなあ…とても読みやすいので、ぜひ読んでみてほしい! 傑作でした。