24/09/05 【感想】ケマル・アタテュルク

小笠原弘幸『ケマル・アタテュルク――オスマン帝国の英雄、トルコ建国の父』を読みました。

トルコ建国の父、ムスタファ・ケマル(1881~1938)。オスマン帝国が西欧列強からの脅威にさらされるなか救国の英雄として活躍し、帝国崩壊後はトルコ共和国を建国し大統領に就任する。民族主義と世俗主義を掲げて新国家の建設を進めたケマルは、議会からアタテュルク(父なるトルコ人)という姓を与えられた。今なお国民から敬愛される彼の実像を、愛する家族や、戦いを共にした同志との人間模様を交えて活写する。

ケマル・アタテュルク オスマン帝国の英雄、トルコ建国の父 -小笠原弘幸 著|新書|中央公論新社

本書はムスタファ・ケマル・アタテュルクの生涯を描いた伝記です。筆者はあとがきの中で、「アタテュルクを中心とした、人と人とのかかわり」「時代のさまざまな局面において、彼がどのような選択を選び取ったか」に焦点を当てたと語っています。
個人的にはこの生涯を通じて時代時代においてアタテュルクがどのような刺激を得ていたかが示されるのが読んでいて楽しかったです。学生時代から西欧の思想を学びオスマントルコ国家のあるべき姿を思い描いていたということを読んでいたからこそ、トルコ建国と改革に至ってからの活躍をより雄々しく感じられました。

それにしても、こうして大河ドラマの主人公のような描き方をされると、本当に理想の英雄像ですね。末日の帝国にあらわれ、少年期から青年期には野望をいだき学生時代には終生の盟友を得て、軍で地位をあげていき諸外国からの干渉や侵略を防ぎ救国の英雄となり、旧態依然とした体制を覆してカリフ制を廃し共和制へ移行、大統領となると次々に進歩的な改革を行う。養子は迎えるも結局子はもうけなかったところまで、まるでフィクションのような英雄の生涯です。ちょっと大河ドラマすぎる。

またオスマン帝国が終わりトルコ共和国ができるまでの主役であるケマル・アタテュルクとそのときどきにおける背景を描いた本書は、そのままトルコ近現代史を概観できる一冊でもあります。どうやら僕は「帝国の終わり」が好きなようで、その方面でも読み応えがありました。

あまりなじみのなかったオスマントルコを舞台とする骨太なノンフィクションでありながら、ケマル・アタテュルクの持つ圧倒的な大河ドラマパワーによってどんどん読み進めてしまいました。めちゃくちゃ面白かったです。