24/01/20 【感想】逆転裁判123 成歩堂セレクション

「逆転裁判123 成歩堂セレクション」をクリアしました!
逆転裁判は昔初代をやったことがあるだけだったのですが、それから十数年を経ての再会です。いやー面白かった!ハッタリのきいた推理ADVというだけで最高なのですが、そのクオリティも非常に高い。また推理モノだから描ける「構図の萌え」みたいなものがそこかしこにあって、これがたまらなかったですね。

主人公が弁護士で、その助手がいて、ライバルとなる検事がいて、と人間関係ができていくのですが、その彼らが時として容疑者になったり被害者になったりと大胆な役割のスイッチングが行われます。
また物語を読み進めていくと、登場人物たちがそれぞれバックグラウンドとして感情的な負債を持っていることがわかってきます。過去のトラウマ、人間関係の因縁、未解決の謎などなど。それらを解きほぐし、カタルシスへと昇華させるための「場」として法廷が実によく機能していました。
また推理ADVとしてミステリの要素も大きく持っている作品なのですが、普通のミステリなら作品の質を損ねてしまいかねないような突拍子もない真相であっても、証拠品を集めてムジュンを指摘して積み重ねていくという逆転裁判の「手続き」によって明かされることでなんだか受け入れられるんですよね。ミステリにおける謎解きって登場人物よりも何よりも読者を説得することが求められるのですが、その点でプレイヤー自身の操作によって真相にたどり着くというシステムは読者を言いくるめる仕組みとしてとてもよくできていたと思います。

とにかく出し惜しみのない「やりきった」ゲームという感じで、完走した今は非常に清々しい気分です。

せっかくなので、特に好きだったエピソードを5つ選んでネタバレ感想を書いていきます。(と言いつつ、実はプレイ中に都度書いてました)
以下はネタバレ感想です。


ここからネタバレあり


5位:[2] 第4話 さらば、逆転

「逆転裁判2」の最終エピソードにあたる本編の魅力は大きく分けてふたつあると思います。

まずは、ゲームとしての出来のよさ。
証言をゆさぶりわずかな矛盾を突いて話を拡げていくという逆転裁判の根源的な語りのシステムが縦横に機能していますし、ひとつの証拠品の持つ複数の性格がたびたび「つきつける」で活かされる面白さも見逃せないところです。
探偵パートにサイコ・ロックを配置してアクセントをつけるという趣向もちゃんと生きています。特に「対象が嘘をついている場合にサイコ・ロックがあらわれる」というある種の"仕様"を逆手に取った演出は見事。「藤見野イサオを殺害したか」という問いに「いいえ」と答えた王都楼にサイコ・ロックは現れないのですが、これは彼が直接手を下してはいないからでした。

ただ、初代の頃から特定の証拠品を「つきつける」ことで話を聞けるようになるギミックは探偵パートに実装されていましたし、サイコ・ロックは常駐システムにするほど必要だったかなあと今でも思っています。
複数ターンでいくつも「つきつける」しないといけないサイコ・ロックを途中でやめた場合に次回は最初からやり直しになるのが本当に面倒…。
あと依頼人が無実かどうかをサイコ・ロックでシステム的に確認できてしまうようになると、成歩堂の「依頼人を信じる」という弁護士としての矜持が安っぽくなってしまうと思うんですよね(もちろん今回のエピソードは例外ですが)。「依頼人を信じる」と「(サイコ・ロックが出ないので)依頼人を信じる」ではだいぶ気高さが違います。

閑話休題、もうひとつはシリーズの約束を逆手にとって深堀りしたシナリオです。
ここまでのエピソードは全て成歩堂の弁護する依頼人は無実でした。しかし、今回弁護する王都楼は殺し屋に殺人を依頼した、いわゆる共謀共同正犯です。事件を読み解くにつれて浮かび上がってくるこの真相に、弁護人としてどう向き合うか。このジレンマが掘り起こされてくるのがいいんですねえ。真宵の命を諦めて王都楼を有罪とするか/真実を諦め無実の人に罪を着せて無罪とするか、という究極の二択をも迫られる。これをプレイヤーに選ばせるというのがアドベンチャーゲームの実装として最高にふるっています。


4位:[1] 第4話 逆転、そしてサヨナラ

弁護対象はなんとライバル検事・御剣!しかも犯行時、湖上のボートで被害者と御剣の二人きり!という構図萌え・不可能犯罪萌えがフルスロットルで叩き込まれ、のっけから萌え萌えなエピソード。

本作で繰り返し語られる「DL6号事件」に遂に切り込むというのもプレイしていてめちゃくちゃテンションの上がるところで、ボート屋の管理人が飼っているオウムのサユリさんが「DL6号事件を忘れるな」と言ったとき身震いするような興奮を覚えた方は多いのではないでしょうか。

現在の事件を追ううちに過去のDL6号事件が「逆転」していくというストーリーテリングも抜群で、登場人物たちのカタルシスが一気に昇華される大逆転ぶりは最終エピソードにふさわしいものでした。15年前の事件が時効ギリギリで明るみに出る展開は定番ながらやっぱり気持ちいい。
いまでも狩魔豪は一番好きなラスボスです。シリーズを通してプレイすると、逆転裁判では「犯行計画は綿密で証言はヘタ」が一番カモだという傾向が見えてきます。そしてそうなると狩魔豪はさすが長年この世界で裁判を勝ち続けているだけあって事件全体を通じたコントロールが上手かったと感じましたね。

またこのエピソードに登場するボート屋の管理人・灰根は、個人的に3作品で最も好きな証人です。
過去の冤罪によって社会的地位も婚約者も失い、指紋も人格も捨てさせられていた彼から手がかりを引き出す一連の流れにはぞくぞくしました。サイコ・ロックのなかった初代だからこそ描けた造形だと思います。


3位:[1] 第5話 蘇る逆転

移植版の追加エピソードとは思えぬボリューム!
多くのゲストキャラおよびそれらが描く構図のスケールの大きさなど、このエピソードはとっても「劇場版」。レインボーブリッジ封鎖できません!

本編の魅力はなんといっても詰まりに詰まったストーリー。

まず「同時刻に二ヶ所で殺害された被害者」という魅力的な謎が登場するのですが、この込み入ったシチュエーションが1ヶ所目・2ヶ所目に区切られ順を追って議論されるため分かりづらい印象を一切与えないのは逆転裁判という「語りの仕組みシステム」の美点だと思います。謎の魅力に反して不可能性をあまり感じさせなかったのがもったいなく感じてしまうほど。

また、このエピソードでは遂に「真犯人が配置した偽の手がかりに操られ、主人公が無実の者を告発してしまう」という展開が描かれます。ミステリにおける僕の性癖であり大好きなギミックなのですが、本作はゲームであるがゆえに「自分自身の操作によって告発してしまう」ものだからその厳しさもひとしお。また更にその告発してしまう相手がパートナーの宝月茜とくるのですから最高に性癖。やってくれますねえ!

かように「逆転裁判のシステムに載せて描かれた豪華・肉厚なストーリー」には絶賛を惜しむところない本作なのですが、一方で「事件を読み解く逆転裁判というゲーム」としては物足りなさを覚えたかも。端的に言うと、ストーリーを読まされている感じが強かったです。
また本エピソードはこれまでのエピソードと違ってすべての証人がSL9号事件の関係者(早い話が警察関係者)で、一般人を証言台に上げた結果生まれるやりとりや思わぬところから思わぬ真相が見えてくるという逆転裁判の面白味は弱かったです。こういうところも含めてやっぱり特別編だなあ。

ところでこの回で語られる事件、失神が多すぎない?(原灰、青影、罪門弟、宝月茜)


2位:[1] 第3話 逆転のトノサマン

ノーマークでした。前述の通り僕は初代「逆転裁判」をGBAでクリアしたことがあるのですが、このエピソードに関しては「そういう話があったことしか覚えてない」レベル。
第1話「はじめての逆転」から第2話「逆転姉妹」でこのままシリーズ終わるつもりなんじゃないかというレベルの凄まじいアクセルの踏み方をしたその次のエピソードにこれが来たときは「ゆるんだなあ」と思ってしまいそうになったのですが…この話が面白い

このエピソードは犯人がいい。ゆさぶりからムジュンを引き出していく成歩堂の戦術に対して「最低限の事しかしゃべらない」というメタをやってくる最初の相手です。
また法廷で成歩堂に犯行を看破されたときに落ち着き払って「あなたは私に犯行が可能だったことを示しただけで私が犯行を行ったと証明できていない」と言い放つあたりなど本作品はもちろん多くの推理モノへのメタ。
この戦いを経て僕は「このゲームおもしれえ!もっと強敵と戦いてえ!」というバトルもののような高揚を覚えました。

この犯人は最終盤、「ケガしていた人を勘違いしている」というボロを出すのですが、隠し事をしている証言と違って勘違いしている証言は堂々と言うので気づきづらい。僕は最初迷いました。そういう意味でも思い出深い強敵です。
自分の好きなエピソードランキングを見てみると、「ゲームシステムと噛み合った強敵」の登場するエピソードを好きになることが多いですね。そして第1位もまさにそのパターンです。


1位:[2] 第3話 逆転サーカス

ストーリーが抜群に好きなエピソードです。

本エピソードの最大の魅力は何と言ってもその「やるせなさ」。
きらびやかなサーカスの裏にある疲れ傷ついた顔、条理と不条理の汽水域で生きる人々に入る捜査の手、そして最後に辿り着く過去と現在それぞれの事件における真相の救われなさ。
逆転裁判の犯人は根っからの悪党であることが多く、逆転裁判2もその例外ではないのですが、このエピソードに限っては芯から悪人といえるような人はいません。そのことが一層やるせない印象を残します。

またゲーム面では真犯人であるアクロの「精神力が並外れて高く、ゆさぶりがきかない」という特性がアツい。成歩堂のスタイル、ひいてはゲームシステムをメタってくる強敵。全3作品を通じて最も魅力的な犯人のひとりです。
そして上述の「犯行計画は綿密で証言はヘタ」の真逆をいく犯人でもあります。証言は言わずもがな、そして犯行計画としては被害者である団長を殺害するつもりでは本来なかったため、「団長を殺害する計画」は最初から存在していないのです。
強敵と戦うって…面白!!

さて、本エピソードを語る上では衝撃のバカトリックに触れないわけにはいかないでしょう(といってもバカな部分は犯人の計画でなく偶発的なものですが)。
明かされたときには笑ってしまったのですが、ただ可能性を絞り込んでいった結果「そうとしか考えられない」という引き算によって辿り着いたものなので、バカさの割には説得力があったと思います。
「ハウダニットものとして読むと荒唐無稽なバカミスにしかなりえないトンデモトリックが、目撃証言を元にしたロジックの手続きによって到達するようになっている」というのは個人的には「買いたい」ところです。
また本エピソードの舞台はサーカス。トンデモトリックといわず、アクロバットというべきなのかもしれませんね。