24/09/25 【感想】三国志名臣列伝 後漢篇
宮城谷昌光『三国志名臣列伝 後漢篇』を読みました。
タイトルに列伝とある通り、三国志において後漢に仕えた名臣たちの生涯を描いた一冊です。
小説やマンガにアレンジされた三国志って三国が立ち上がってからが本番という感じで、黄巾の乱のあたりの頃ってどうしても影が薄い印象があります。本書は三国志のなかの後漢にスポットが当たっているだけあって黄巾の乱あたりの人物、および彼らの生い立ちを描くためにその以前の話が出てくるのが面白かったです。
何進、朱儁、皇甫嵩あたりって今まで僕が読んだ三国志モノだとサラッと流される、もっと言っちゃうと噛ませポジとすら感じるんですが、後漢視点で見ると英雄なんですよね。みんなこんなに器の大きな大人物だったんだなあと不明を恥じるばかりでした。
文官も取り上げられており、慮植あたりは「劉備の師で、役人に賄賂を渡さなかったので檻に入れられて運ばれてる人」という横山三国志の印象しかなかったのですが、そこに至るまでの波乱万丈の人生も大変に面白い。劉備が脇役で出てくるというのがこの手の歴史列伝モノの醍醐味ですね。
読んでいて非常に感じたのが、この頃は「エピソードの時代」だなあ、ということ。
本書に登場する人物は、後世の小説をちょっと読んだだけの僕ですら名前を知っているような人なので時代の上澄みも上澄みのような人たちです。読んでいると非常に強いエピソードを持っています。
本書の中でたびたび言及されますが、儒教に基づいて統治を行っていた後漢において抜擢は能力ではなく「孝」を重視していました。どこどこの誰々は孝心にあふれた仁の人らしいぞ、という噂が立ち、すると役職へのお招きが来る。
ここからは僕の勝手な想像なんですが、そうなるときっと強い「孝エピソード」があったほうが絶対に抜擢されやすいですよね。なんなら孝の噂ってエピソード単位でしか伝わらないんじゃないか。より強いエピソードを出した者が成り上がる、そんな咲-Saki-のようなシステムなんじゃないか。(咲-Saki-は回想で強いエピソードを出すと大きい手を和了できるというシステムで成り立っています)
そう考えると、本書で扱われている後漢時代を登りつめた英雄たちが歴史に登場する遥か前の若い頃から読み物として抜群に面白いエピソードを持っているのも納得です。エピソード基準で成り上がるのですから。そしてエピソードが残っているのも納得です。エピソードによって人事が行われるのですから。
かように「エピソードの時代」だったことがこれだけ面白い読み物を後世に残した要因なんじゃないか…と思いながら楽しんだ読書でした。