ジョギングで鉄道と街を愛でる


ジョグ鉄とは

ジョグ鉄とは、鉄道趣味の一つ。鉄道路線に沿ってひたすらにジョギングするものです。ただ鉄道を見るだけではなく、駅周辺や国道沿いの街並みを眺めたり、街にいる人々の様子を見たりして、街そのものを楽しむことができます。
私はこの「ジョグ鉄」を2016年から7年間楽しんでいます。乗り鉄や撮り鉄と違い、実際にやってみないと活動を想像することができないと思います。私が今まで蓄積してきた知見を整理整頓し、ジョグ鉄のノウハウと楽しみ方がお伝えできればと思い、冊子にまとめた次第です。

ジョグ鉄に至るまでの経緯

私がジョグ鉄をやるようになった経緯を説明します。まずは鉄道に興味を持つようになったきっかけから。
25年ほど前の話です。私は高校卒業後、進学のために故郷静岡を離れて京都に引っ越しました。静岡(特に私が住んでいた島田市周辺)で鉄道というと、JRの普通列車が10分間隔で行ったり来たりするだけの乗り物でした。そのため、当時の私は鉄道に興味を持っていませんでした。引越し後は買い物や行楽等で近くの阪急電車を利用することになったのですが、快速運転をする電車と各駅に停まる電車の組み合わせの妙に感動したのです。運賃だけで駅を飛ばす立派な列車を使えることが、当時の私には衝撃でした。
その後、運賃の手頃な私鉄を中心に「電車に乗ること」を目的に遊びに出かけるようになりました。当初は乗り鉄だったのです。

鉄道に興味を持った私が線路沿いをひたすら走ることになったきっかけはいくつかあります。
ひとつは自動車で電車と並走する楽しさを知ったこと。まだ関西に住んでいた頃で、12〜3年くらい前の話です。新御堂筋という高架の道路をクルマで走っている時、隣に地下鉄御堂筋線が並走してくるタイミングがありました。自分で運転する乗り物で電車を味わえる楽しみを知った瞬間でした。私はドライブが好きではないので並走するためだけにクルマで出かけることは思いつかなかったのですが、その時「電車と並走」に可能性を見出しました。
ふたつめは東京の人のツーリングの楽しみ方を知ったこと。電車と並走することの可能性を発見した時と同じ頃です。飲み屋かどこかで聞いたのですが、当時東京のお金持ちの間で自転車が流行っていたそうです。高級自転車で東京駅から新幹線の路線に沿って体力が続くまで走り、疲れたら温泉に入って新幹線に乗って帰るという遊びに興じているとのことでした。当時の私はお金が無く、ツーリングできるような自転車を買うことができませんでしたので、この楽しそうな遊びを他の方法で楽しめないか考えていました。自転車が無くても人力で走る方法はただひとつ、ジョギングです。家に帰るまでの電車賃と着替えさえあればすぐに始められるため、お金の無い当時の私でも楽しむことができるのではないかと考えたのです。実際に「鉄道路線に沿って電車とジョギングで並走する」ようになるのは、そこから数年経った後になります。

どのような目的でジョグ鉄を始めるか

私は紆余曲折あってジョグ鉄を始めましたが、他人にこの趣味を勧めるために軌を一にしてもらうことはできません。そこで、ジョグ鉄を始めるためのインセンティブを紹介します。

①路上観察
珍しい風景や構造物、看板などを観察し、スマホなどで写真撮影したり眺めて愛でたりするのが楽しいです。私は小さい頃から路上観察が好きでしたが、ジョグ鉄をすることで効率的に楽しめました。

②エクササイズ
長距離を走ることになるので、良い運動になります。例えば京王井の頭線全線(渋谷から吉祥寺まで)走ると、その走行距離は17〜8kmくらいで、ラーメン二郎1杯分くらいのカロリー消費が期待できます。

③新しい鉄道趣味
鉄道旅行が好きな人にとっては新しい発見をする良い機会です。車窓から見られない風景をゆっくり眺めて楽しめます。鉄道開業までの苦労を自分の足で体感できるのも感慨深いです。

④災害時の帰宅経路を認識する手段
これが最も意義深い目的です。自分が通っている学校や職場から自宅まで、いつも使っている電車を使わずに徒歩で帰ることで、災害時に帰宅難民になることを防ぐことができます。徒歩で帰ると、自宅に帰るまでの経路がいろいろあることに気付かされるはずです。災害時は道路の支障や帰宅者の集中で通行が困難になる場合もあるでしょう。そんな時、普段から徒歩で帰宅していれば、比較的負担無く帰宅が可能になるはずです。

ジョグ鉄を楽しむために設定する目標

目的を認めたら、早速ジョグ鉄を開始しましょう。ただ闇雲に線路沿いを走っても心身がつらくなるだけですので、ある程度の目標を設定すると楽しめます。

①日が明るいうちに帰りの電車に乗る
自分が走った軌跡を電車で遡ることになるので、思い出深い風景を車窓から眺めるには外が暗くてはいけません。明るいうちに帰ることでジョグ鉄の満足感が大きくなります。

②帰りの電車に乗る前に到着地で一杯
運動後と入浴後のビールほどおいしいものはありません。適度に酔ったところで帰りの電車に乗ると、ジョグ鉄の思い出を脳内でスライドショーするような楽しみ方ができます。

③一杯やる前にサウナ・温泉・入浴
帰宅まで体力が必要ですので、入浴施設で休息を取ることをおすすめします。

④入浴前にラン終了(エイド摂取済)
ラン後、糖質を摂らずにそのまま入浴すると低血糖症で気持ち悪くなります。

まとめると、以下の要素が重要となります。
⇒できるだけ早く早くスタートする(自宅を出る時は始発がベスト)
⇒冬は日の入りが早いので距離を短めになる
⇒夏は暑いので午前の涼しいうちに走り午後は屋内で涼む

走っている時の心持ち

マラソン選手はレース中に何も考えない「無」の状態になると聞きます。ランニング自体は退屈で、日々のトレーニングやレース前の体調を調節することがジョギングの醍醐味なのかもしれません。しかし、ジョグ鉄は走ることそのものがプレジャー!これから挙げるポイントに注目するとトレーニングが娯楽に変わります。
・路線を通して路線距離以上の距離を走る
 ⇒駅間の距離は厳密に見ない
 ⇒複数日に分けて走ることもあり
 ⇒走りきった時の達成感が凄まじい
・ある程度電車にペースを合わせる気持ちで
 ⇒できるだけ走り続けることで自分が電車になった気分になる
・路線に住んでいる知人友人を思い浮かべながら走る
 ⇒「あいつの地元を俺は知っている」と思える
・電車の車窓からは見られない風景を見るつもりで走る
 ⇒いつも使っている電車の車窓から見える印象的な景色を間近に見られる喜び
 ⇒クルマで路線と同じ方向に走る幹線道路からも見られない路地で路上観察

やってよかったこと

ラン後にやって満足感の高かったことを紹介します。
・ラン後の入浴、入浴後の一杯、ほろ酔いで電車に乗って帰る
 ⇒「ジョグ鉄を楽しむために設定する目標」項目で述べた通り

・GPSを地図に落としてスケール感を味わう
 ⇒ランニングアプリだけではなく登山で使用するGPSアプリを使うと尚良し

・印象的な風景を写真に撮る(後のいぬくそ看板撮影につながる)
 ⇒特に車窓から見える印象的な風景を撮ると感動する

反省点

今までのジョグ鉄で失敗したと思うことや、気をつけたいことを挙げます。

・長い距離を走りすぎてしまい体調を崩す
 ⇒短期的にはラン後のフォローが悪くて街中で風邪をもらいがち
 ⇒中長期的には膝や腰を壊しがち

・休日が丸一日潰れてしまう
 ⇒最寄り駅を始発で出て終電近くに帰ってくると休日何もできない

・ハマるとお金がかかる
 ⇒イニシャルコストは安いが交通費は都度出ていく
 ⇒ラン後の入浴(健康ランドを選びがち)と食事(外食)が馬鹿にならない

・独特すぎる趣味なので誰とも話が合わない
 ⇒鉄オタもジョガーも共感してくれる人がいない
 ⇒「ジョグ鉄やってます」という人がまだ少ないから寂しい

実例 西武新宿線を走る

実際にジョグ鉄を実施した模様を紹介します。昨年、いぬくそ看板撮影の結果報告冊子として「いぬくそ看板観察報告 第002号」を作成しました。撮影はジョグ鉄の時に行いましたので、その時のことを述べます。背表紙も参照してください。

冊子は2023年4月現在、ハンドメイド作品売買サイト「マルシェル」で購入いただけます。
URL:https://marchel.goo.ne.jp/inuno_hun


7:09 ①西武新宿駅を出発
7:26 ②高田馬場の急カーブに合わせ、つつじ通りを左折して新目白通りを西へ。
7:57 ③沼袋付近の立体交差化工事の現場を間近で観察
8:56 ④上石神井から西進する際に線路脇から離れて富士見通りを走る
9:30 ⑤田無駅前のLIVINにセゾン文化の風を感じる
10:11 ⑥小平霊園を横断
10:33 ⑦東村山駅の志村けん銅像前で爆笑王を偲ぶ
11:35 ⑧新所沢駅に到達。線路の反対側にある「ぎょうざの満洲」本店を想う。
12:19 ⑨コーセー狭山工場を左に見る。疲労で一時的に走れなくなった。
12:57 ⑩国道16号線を外回りに北進。アメリカンな風景に感動。
13:19 ⑪ホンダ狭山製作所を右に見る。長く線路を並走できて元気が戻った。
13:54 ⑫間近に見る脇田信号場が印象的
14:04 ⑬本川越駅到着
この後近くの入浴施設で風呂に入り、家族への手土産を買って帰宅した。

西武新宿線(西武新宿駅~本川越駅)
路線距離: 47.5km(特急で45分の距離)
徒歩移動: 54.63km
移動時間: 6時間55分
平均ラップ: 7分36秒/km
平均速度:7.9km/h

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