記録040
仕事をやめて一か月が経つ。なんにもしていない。何にも。書けることがほとんどない。書こうと思うこともほとんどない。新しいゲームを買ったとか、お金が底をつきそうとか、そういう些末でなんでもないことしかない。
母は厳しく古式ゆかしい人なので、「金の切れ目は縁の切れ目」なのだという。一言言わせてもらうと、そんなわけあるかい。金がなくなったくらいで友達は減らないし恋人と別れたりしない。そんな資本主義の権化みたいなことが起こってたまるか。素直に「あなたに帰ってきてほしいのよ」となぜ言えないのか。(いや、実際には「そっちでうまくいかないなら帰ってくればいい」とは言われているが……)実家には、わたしがやるべき仕事はない。ひとつとして。劇場もなければライブハウスどころか、本屋すら一軒もないあの土地に、わたしがなにをするというのだろう。小さな温泉産業と、ひそやかに閉じていく限界集落の末路を見届ける勇気は、わたしにはない。そういうのは土着の個人が負うべきものではないのだ。もっと外の、なんの関係もない人か、公共によって看取られていくのがいいのだ。芭蕉も愛したわが故郷。美しい渓谷。匂い立つ湯気。鳴りやまぬ民謡。そういうものたちよ、どうか一秒でもいいからながくいきいてほしい。わたしと、わたしを取り巻くさまざまな人々のために。心を一度でもわが故郷に寄せてくれた人々のために。どうか。
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