ずっとやりたかった事をした話
はじめに
18歳の春、私は上京した。
人の多さ、駅の広さ、騒がしさで頭の中の歯車がぎこちなく回るのがわかった。
上を見れば高層ビルや、マンションが
足元を見たら、路上で生活する人が
自分の街では見慣れなかった光景が広がっていた。
その中で私が気になったのは路上で生活する人々
彼らはいわゆる世の中でいうところの"普通"だとか "こうあるべきだ" とか、私の嫌いな世界とは違う世界にいるように感じた。
そこで私は、『人 対 人』として話してみたいと思うようになった。
対面
私はまず、池袋に向かった。
路地裏や公園という公園を歩いてみたものの、どこも綺麗に整備されていて時間もあってか、誰にも会えなかった。
そこで、渋谷へ向かうことにした。
渋谷へ着き、とりあえず宮下公園へ....と思ったのだが渋谷宮下公園はとても綺麗になっていてビルが建っていた。ここ周辺を探すのは断念。
そしてしばらくブラブラし、とある公園へ行ったところ青い住居が並んでいたのでそこで今回はお話しできる方を探すことに。
しかし、2,3軒声をかけたところ、誰もいない。
しかたなく公園内をフラフラしていたら、パラソルを立てて雨宿りする方が。
「こんにちは」
声をかけてみる。
夏物ハットに柄シャツにコーデュロイのセットアップを着たお洒落なおじいさん。
私はお茶と芋けんぴを手渡しながら
「いつもここら辺にいるのですか?」
と尋ねた。
おじいさんは優しい口調で
「そうだよ。私たちはここに住んでいる。大体この時間はみんな外へ出ているけれどね」
と一言。
彼の名前は林さん。とても博識な方だった。
その後、林さんは、お土産話にでもしてね。と、社会を騒がしているウイルスや、医者の話し、心理学、自分が冬山を登るのが好きだということをたくさん話してくれた。
林さんとお話ししているとお兄さんがスタスタやってきた。
食パンとナッツが入ったビニール袋を慣れた手つきで林さんに手渡す。
私には微糖のコーヒーを渡してスタスタまたどこかへ行ってしまった。
「彼はたまにこうしてきてくれるよ。初めはとても無愛想だったけれど、今はだいぶ愛想が良くなったよ」
ハハハと笑いながら林さんは嬉しそうにビニール袋を鞄に詰めていた。
途中から林さんのお仲間のゆうきさんも加わり、気がついたら2時間ほど話していた。
炊き出しの準備が始まるようで人が集まってきた。
林さんが時間を心配してくれたので、私はリュックに詰めてきたものを全て林さんに手渡して帰路へ向かった。
つづく