No.4 - シルバー株式会社
一緒につくりたいもの
暮らしの中に「火」というゆらぎを取り戻すプロダクトアイデア
どんな会社ですか?
シルバー株式会社を一言でいうと、「適切に燃える・もしくは燃えない」繊維の加工をする会社です。具体的には、耐熱性・耐久性・安全性に優れたガラス繊維を扱い、編み・織り・縫製などの加工を施しメーカーに出荷。八尾市に2つの工場をもち、石油ストーブの灯芯をはじめ、FF式石油暖房機/給湯器の配管用の耐熱カバー、石油ファンヒーター内臓のポンプなどを製造。前身である平松金属工業所を経て1953年に創業された歴史ある会社で、2019年には石油ストーブの灯芯が国内シェア100%に到達しました。
ここがスゴイ
1. ガラス芯を世界で初めて開発、国内で唯一製造
日本では1960年代から普及が始まり、古いものでは90年以上、変わらぬ基本構造で人々を暖め続けてきた石油ストーブ。石油ストーブを愛用していながら筆者も全く知らなかったのですが、この石油ストーブのは長らく綿素材が主流だったそう。それが、平松社長曰く「灯油が尽きてカラ焼きになると600度の高温になり芯が徐々に燃えてちびって(減って)いくので、最終的に灯油のところまで火が到達し、火事が多発していました。そこで、耐熱部に耐熱性の高いガラス繊維を用いたガラス芯を世界で初めて開発したのが先先代の社長です」。現在、国内で製造するのはシルバー株式会社のみ。また、この形は世界のスタンダードにもなっているそう。
2. 自社の設備・機械はほとんど自社で
国内で唯一製造する会社とのことで、設備・機械の大半が生産技術部門による自社製というのも納得。シルバー株式会社の強みは、それらを使った一貫生産です。もちろん修理も自社で。メーカーさんの要望に合わせた調整・アレンジにも幅広く、スピーディに対応できるのも、長年の蓄積と知見があってこそです。
持っている技術
・ガラス繊維を使った「バルキー加工」で、適切に燃え、かつ耐熱性の高い糸を製造。それを編んで製品にできます
・耐熱性・難燃性を兼ね備えたアラミド繊維を使って筒状の編物をつくれます
・一貫生産のため織物の多様な調整・アレンジができます
※アラミド繊維 ガラス転移点270度で250度でも60%の繊維性能を保持する
苦手なこと
・繊維の素材自体をつくること
・幅100mm・厚み4mm以上のもの(バルキー加工の糸を用いた編物)
・直径35〜200mm以外のもの(アラミド繊維を用いた筒状の編物)
つくっている主なプロダクト
1. ガラス繊維を編んでつくる石油ストーブ用の灯芯
耐熱部にガラス繊維を使った石油ストーブの灯芯を、国内で唯一製造。「ガラスの特性上、カラ焼きになっても、灯油が完全に尽きると火は自然に消えていきます」と平松社長は言いますが、これは、ガラスが800度で溶けるのに対して、カラ焼き時の温度は600度程にしかならないからだそう。
2. 耐熱繊維を編んでつくる配管カバー
高機能繊維を筒状に編み、高温になる石油給湯器/暖房機の配管に被せる筒状のカバーです。ガラス繊維も使いますが、主力はなんと250度まで(!)耐えられるアラミド繊維です。確かに、これがあれば配管にうっかり触れてしまった際のやけどを防げます。
工場の様子
1. バルキー加工でふわふわのガラス糸をつくる
数ミクロンという細さのガラスの糸を撚り合わせ、1本の糸をつくる工程です。そもそもこのバルキー加工とは、空気を含ませながら弾力性のある糸をつくる加工で、アパレル業界などではお馴染みだったりします。シルバー株式会社では、そこにガラスの繊維を用いることで、平常時には適切に燃え、カラ焼き時にもちびらない芯を実現させているというわけです。
2. ガラスの糸を用いて灯芯の耐熱部を編む
ガラス繊維でつくった糸を寄せ集め、ベストな燃焼になるように帯状に編む工程。では、そもそもベストな燃焼とは何か?平松社長に訊ねると「商品によってはもちろん、気温、湿度、気圧によっても異なるので、それらを考慮しながら、糸の本数や間隔などを調整しながら編んでいきます。基準値はありますが、微細な調整には職人の経験と勘が不可欠です」との回答。火の燃焼をミクロな世界で操っていく。目がクラクラしそうなお話です。これを不織布や綿素材の吸い上げ部と縫い合わせ、カットし、ロール状に成形して灯芯の完成です。
3. アラミド繊維を使った筒状の編み加工
アラミド繊維を用いて、配管に被せる筒状の編物をつくります。機械の制約で、サイズはある程度決まったなかから選択しますが、商品に合わせて直径35mm〜200mmまでつくることができるそう。
紹介映像
つくり手の想い
「火は、原始の時代から人々の生活に欠かせないものです。火がなければ、人類はここまで発展していないし、そもそも生命をつなぐこともできなかったかもしれません。その意味でも、こうして燃える火をダイレクトに感じられる製品が今も生活に密着しているのは、とても自然なことに感じます」
「私自身、石油ストーブを使っていて気づいたのは、「無音が生む安らぎ」です。現代生活では、自宅にいても何かしらの人工音が耳に入ってきますね。そんな時代において、石油ストーブは、暖かい上、ただただ静かに燃える。焚き火や石油ストーブで癒される、という方が増えているのも、火が、加速する社会に生きる私たちの、どこか心の拠り所になっているのかもしれません」
「そもそも灯油ストーブは、本来コントロールの難しい火を自ら扱うという点で、荒っぽい商品といえます。特に、「アラジン」さんのように90年前から構造が変わっていないものだと青火を出すのに空気と灯油の調整が難しかったり、毎年芯を替える必要があったりと、一見手間がかかりますが、むしろそれが楽しみという人が多いのが事実です。そういった燃焼機器と長く付き合うことで、まるで友人のように愛情がわくようにも思いますね」
「今回のYAOYA PROJECTでは、弊社の若手メンバーに思う存分アイデアを発揮してもらいたいと思っているんです。弊社は一言でいうとアットホームな会社。みんな真面目で、長く働いてくれている人も多いです。創業以来、独自の技術を大切に受け継いできたのと、灯芯では競争相手が国内にいないのもあって、同じものを長く安定してつくるのは得意ですが、一方、ゼロから何かを生み出すのは少々苦手としてきました。ですので、今回のプロジェクトが会社が新しい一歩を踏み出すきっかけになるよう願っています」(平松社長)
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