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信は力なり💪

はじめに

皆さん,こんにちは.慶應義塾大学の青木です.この度,お声がけいただきまして,cvpaper.challenge Advent Calendar 2023[Link] に参加させて頂くことになりました.ここのところ,毎日配信されている記事を読ませて頂いて,皆さんの若く熱いエネルギーをひしひしと感じ,良い刺激となっております.私は今年でちょうど50歳,自分の研究室を立ち上げてから21年目,という節目の時期でもあります.これまでの研究室運営SSIIなどの学会での仕事の経験を踏まえながら,大学教員という立場から,いまの時代における,CV分野の研究コミュニティのあり方について考えてみたいと思います.

研究室黎明期(芝浦工大青木研)

 2001年に早稲田大学橋本周司研究室で博士学位を取って,2002年に運良く公募選考をクリアして,芝浦工業大学工学部に赴任し,そこで研究室を立ち上げました.橋本研で助手として画像処理の研究グループの後輩の指導を少しやっていた経験はありましたが,いきなり学生10名が配属され,自分が責任者となって学生を指導する立場になってしまったのです.それまで,自分本位でして考えていなかった論文や学会での情報収集における目線も変わり,学生さんが興味を持てるか,卒論テーマとして適切か,発展性はどうか,など,色々と試行錯誤しながらスタートしました.とにかく,若さと体力を活かして動き回りながら,がむしゃらにやっていた気がします(飲み会もかなり多かった 笑).
 この当時は,大学院進学率が平均で3割行かないくらいの状況だったので,とにかく研究活動の楽しさややり甲斐を感じてもらって,大学院進学まで行ってもらえる環境作り,研究室のブランディングを意識していました.その結果,数年でほぼ全員が院進学するような状況となりました.そうなると,自然と学生同士で自主的な勉強会をやったり,大学院生が学部生の手助けをしたりと,研究室の運営が軌道に乗ってきました.ここが研究室の面白いところで,基本的なポリシーとフィロソフィーが出来上がってくると,それに共感するメンバーが自然と集まるようになり,互いに切磋琢磨しながら成長していくんですね.私は,この立ち上げの時期に,多くの学生さんが研究活動を通して,研究者としても人間としても大きく成長していく様を見てきました.この時に大学教員として感じた充実感,やり甲斐のようなものは,20年経った今でも全く変わっていませんし,これを毎年,様々な場面で感じられるのが大学教員の最大の魅力と思っています.

研究室発展期(慶應大青木研)

 2008年に,学会活動でのご縁をきっかけに,現職(慶應)に移って再び研究室を立ち上げました.それまでにようやく研究室としてのかたちを整えてきたところでの異動となり,最初は苦労しましたが,特に大きくやり方を変えることなく,スムーズな立ち上げが出来たと思います.一方で,年々増えていく学生に対応するため,外部資金獲得や共同研究の連携先確保に尽力し,研究環境の構築と,成果をあげた学生が国際会議で発表する際の旅費などを潤沢に準備できるように走り回っていました.国際会議発表を経験した後の学生の研究に対するモチベーションや姿勢の変化は大きく,国際会議発表などの未知の刺激的な経験を多くさせてあげたい,と思っていたからです.私自身も,修士1年のクリスマス〜年始に,実家にも帰らず仕上げて投稿した初の国際会議投稿論文があっけなくリジェクトされたことが博士課程への進学になりましたし,苦労して通した初の国際会議発表の緊張感と達成感は今でも忘れられません.
 そうなんですよね,学生さんが研究していく過程において,適切なタイミングで,適切な刺激(学会発表や留学などの機会)を与える,というのが,研究室を運営する大学教員にとっては大変重要な役割で,それが上手く出来るかどうかが,研究室全体のアクティブさや研究成果にも大きく影響してくるんですよね.これをしっかりやるには,メンバー個々の研究の状況やモチベーション等をよく把握していなければなりませんので大変ですが,今でも大事にしているところです.
 また,慶應に移ってからは特に,研究の社会的意義・多様性についても意識するようになりました.研究室のテーマの決め方としては,特定の領域のテーマに多くの学生を割り振って,集中的に得意分野で勝負する,というのが良いのだと思うのですが,私は以前からそのやり方がちょっと苦手でした.折角,個性的で多様性に富んだメンバーが常時30名以上,集まっているのだから,個々の興味や特性に合わせて,研究トレンドや社会的意義を意識しながら,面白いと思えるテーマを広く扱っていく,というスタンスで現在はやっています.
 そうなってくると,研究テーマの選定はむずかしくなりそうですが,不思議と研究テーマが尽きることはありません.むしろ,やりたいテーマに対して,人が足りないくらいです.私自身が考えたもの,企業との共同研究,学生発案のオリジナルテーマ,産総研との連携テーマ,などなど,いろいろなテーマがあり,研究室立ち上げ時代に研究テーマの選定に苦しんだのが嘘のようです.これは,私だけの力ではなく,研究室のメンバーがcvpaper.challengeのような研究コミュニティに所属することによって,CV分野の研究トレンドを的確に把握しつつ,自らの研究の興味を拡げながら研究室にも還元してくれていることが大きいと感じています.

cvpaper.challenge との関わり

 cvpaper.challenge 主宰の片岡裕雄君(2014年 青木研博士卒)とは,芝浦工業大学時代に出会いました.確か2007年だったと思いますが,まだ研究室配属前の学部3年時から,青木研に頻繁に訪ねて来ました.「画像処理をやりたい!」「世界で活躍する研究者になりたい!」と,目を輝かせながら熱く(いや,もう本当に熱く笑)語っていたのを今でも覚えています.学生時代から,とにかくストイックでアグレッシブ,複数の研究テーマをこなして学会論文発表多数,後輩の指導も担当,卒業時にはその活躍が認められて学内最高の業績賞である藤原賞を受賞しました.その後,海外留学なども経験され,世界で活躍する研究者になること,そういう研究者を育てること,を深く考えた結果,現在のcvpaper.challengeに繋がる活動をスタートさせたと聞いています.当時,そのようなコミュニティを作りたい,という話を聞いた時,まだ日本では大学研究室の枠を越えた連携コミュニティはむずかしいかな,と正直感じていました.しかし,片岡君だったらやれるかも,と大きな期待をしていました.彼の持つ熱量が,多くの学生,若手研究者に伝われば,きっと面白いコミュ二ティが出来るのでは?と.実際,青木研からもこれまで,多くの学生がcvpaper.challengeに参画し,彼らが大きく成長していく様子を目の当たりにしてきました.一人の研究者に出来ることは限られており,コミュニティを活用して戦っていく,その中で自分の研究者としてのアイデンティティを確立していく,正に今の時代において必要な戦い方だと思います.また,cvpaper.challengeの方向性は,青木研のテーマ設定の方針とも合致しており,今後も連携しながら,共に学生諸君の成長を促したいと思っています.

筆者と片岡裕雄氏(2008年,お台場でのBBQ時の1枚)

おわりに

 先日開催されたKEIO TECHNO-MALL2023で,「AIフロンティア:基盤モデルが切り拓く未来」というテーマでシンポジウムを企画しました.言語,音声,画像のそれぞれの分野から,若手で活躍中の研究者に登壇いただく,という話の中で,画像分野では真っ先に片岡君が候補に挙げられました.当日,壇上でCV分野の将来展望を語る片岡君の眼差しは,「画像処理をやりたい!」「世界で活躍する研究者になりたい!」と話していた当時と変わっていませんでした.そして,彼に続く熱量を持った次世代の研究者が,後に続いて出てきている現在の状況を見ていると,非常に頼もしく,今後も陰ながら応援していきたいと思っています.
 タイトルの「信は力なり」は,私の好きな言葉で,青木研のスローガンとして長年使用してきたものです(最近の学生は知らないかも).スクールウォーズというドラマの元となった伏見工業高校の山口良治氏の言葉で,意味は読んで字のごとく,です.自分を信じ,相手を信じ,...それが色々なことを成し遂げる原動力となる...とても簡単な言葉ですが,色々な捉え方も出来て,人生の様々な場面で役に立つものだと思っています.
 最後になりますが,大学教員人生あと15年,SSIIなどの国内学会の改革や活性化,フルマラソン3時間切り,CVPR/ICCV/ECCVでのAward獲得...と,いろいろやりたいことが残っています.「信は力なり」を心に刻みながら,片岡君やcvpaper.challengeの皆さんと共に,気持ちと身体を整えながら,これからも頑張っていこうと思います!




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