りかさとりか短文妄想(2021/9/10)

お題『ルチーアで付き合っているさとりかが過ごす夏休み』

※質問箱にて提供頂いたお題です。ありがとうございました!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あぁ~!せっかくの夏休みなのになぜこんな毎日勉強しなくてはなりませんの…」
「みー、誰かさんが夏休み前のテストで赤点を取って補習になったからなのですよ」

梨花からの鋭い指摘で苦い顔をする沙都子。
二人は今聖ルチーア学園の図書室で勉強をしている。外は雲ひとつない青空が広がっていて、蝉がうるさいくらいに鳴いている。幸い図書室には冷房がきいているので涼しいが、窓から降り注ぐ日差しと蝉の声で、外はうんざりするくらい暑いのだろうなぁ、と沙都子は目の前の課題から目をそらすようにぼんやり考える。

「沙都子、早くやらないといつまで経っても夏休みを迎えられないのですよ」

沙都子の補習は補習用の課題を提出することで終了する。梨花は補習の対象にはなっていないが、沙都子に付き合い、隣で勉強している。

「それにしても、夏休み中ですのに図書室には結構な人がいますわね」
「そうね、人によっては実家に帰ることもせずに自主的に勉強したりする子もいるみたい」
「自主的に…随分ご立派なお嬢様ですこと」

中には沙都子と同じように補習のため学園に残ってる生徒も一定数いるが、実家との関係性や実家の方針などで学園に残る生徒も何人かいる。そのため、夏休み中でも図書室はなかなかに賑わっている。
沙都子はよし、と気合いを入れ直し、机の上の課題に再び向き合う。梨花はその真剣な横顔を見ながら微笑む。最初こそ、自分の夢のために無理やりにこの学園に沙都子を連れてきたことは間違いだったのではないかと思ったこともあったが、『私が梨花と一緒にいたいから頑張ったんですのよ』という沙都子の言葉に救われた。梨花は沙都子とこの学園で一緒に過ごすためならどんなことだってしてあげたい、沙都子が闇に堕ちないように…そう強く思っていた。

*****

「さて、あと少しで提出できますわ」
「沙都子、頑張ってえらいのですよ」

沙都子がそう口にした時には既に図書室から見える空はすっかりオレンジ色に染まっていた。気付けば賑わっていた図書室にも人は少なくなっており、梨花と沙都子を含めて5人程度しかいなかった。

「よし、終わりましたわ!」
「お疲れ様。でもこの時間だから提出は明日ね」
「そうですわね。梨花、付き合ってくださりありがとうですわ」
「いいのよ、ねぇ、それより…」

沙都子が机の上に広げていた筆記用具を片付けたのを確認した梨花は、沙都子の右手に自身の左手を重ねる。
最初はふんわりと重ねるように、それから徐々に指の間に自身の指を挟み、梨花自身の存在を手を通じて沙都子に感じさせるように。

「り、梨花、急にどうしましたの…?」

今度は椅子ごと身を沙都子に寄せ、沙都子の肩に頭を預けつつ、足も沙都子の足にぴったりとくっつける。

「ちょっ、梨花!」

顔を真っ赤にした沙都子が勢いよく立ち上がる。周りを見回すとその勢いに驚いた少数の生徒たちの目線がこっちに向いていることに気付いたが、コホンとひとつ咳払いをすると、生徒たちは慌てて視線を外す。

「梨花、こっち」

生徒たちの視線が外れたことを確認し、沙都子は梨花の手をひいて歩き出す。到着したそこは本棚と本棚の間、ちょうど残ってる生徒たちの座っているところからは死角になっている場所。
沙都子はぎゅっと梨花を抱きしめる。

「沙都子…」

沙都子の突然の強引な行動に梨花の鼓動は早くなる。そっと、抱きしめてくれた沙都子の背に腕を回し、そのぬくもりを確かめる。

「梨花、急にあんなことずるいですわ…我慢できなくなっちゃう…」
「いいのよ、今なら誰にも見られていないわ」

お互いの耳元に、周りには聞こえないような声で囁く。
梨花の承諾の合図で、沙都子は梨花の唇に口付ける。

「んっ…」

キスの合間に二人の声が漏れる。死角になってるとはいえ、周りには何人かの生徒がいることを考えるとこれ以上はいけない、そう思うのに、その背徳感が二人を加速させてしまう。

「ふぁ…んっ…さと…」
「りふぁ…ん…」

気付くと二人はお互いの舌を味わうキスをしていた。
もっと、もっと感じたい…二人は指を絡ませながら、息が苦しくなるまでキスをし続けた。

「沙都子…大好き」
「梨花、私も大好きですわ」

二人がキスを終えて、勉強していた机に戻るといつの間にか図書室には生徒は残っていなかった。そういえば、窓から見える空もオレンジ色から紺色に染まりかけていた。

「梨花?私たち、どのくらいの時間ああしてた…?」
「みー、分からないのですよ…」

二人はぷっ、と吹き出し、誰もいないことをいいことに声を出して笑う。お互いに夢中になりすぎて、時間の感覚まで分からなくなるなんて、なんて幸せなんだろう。
聖ルチーア学園に入学して初めての二人の夏休み、かけがえのない思い出がまたひとつ刻まれた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?