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テセウスのおでん

おはようございます。
「おでんと哲学」の時間です。今日は皆さんと、おでんを使って、アイデンティティについて考えていきましょう。

ええ、そうです、おでんです。あなたの聞き間違いではありません。アイデンティティについて考えるのに、我々はおでんを使おうとしています。
冴えたやり方ですよねえ。だって、哲学を嫌いな人はいても、おでんを嫌いな人はいないでしょう?

ハ~イ! 実存、唯物、プップクプ~!(ジングル)

では、いつものように、静寂のリビングでカウチに横になってください。
目を閉じて、あるいは天井の模様を気にしないようにして、心の中におでんを思い浮かべていきましょう。それが他ならぬ、あなたにとっての哲学的おでんです。

もしもこのとき、リビングに、すりよってくる猫がいるならば、その存在はあなたの人生にとっては重要ですが、今日の哲学に於いてはまったく無益です。合法的な方法で、彼ら、もしくは彼女たちを遠ざけてください。猫は、我々がカウチで哲学をするときだけは、愛すべき存在ではなく、思索の対極にいる知の敵で、今だけは単なる毛玉発生装置くらいに思うべきです。

では、私とあなたの感覚質を揃えるためにも、まずは、周囲の環境からイメージを起こしていきましょう。

季節は冬でしょうか?
あなたはティーンエイジャーですか?
それとも、初老の頃でしょうか?
自分で作ったのでしょうか?
コンビニエンスストアで買ってきたのでしょうか?
こたつで食べますか?
ダイニングテーブルで食べますか?
返事が聞こえませんが、カウチで寝こけていませんか?

常に想像は創造の核です。
リアリティをやわらかく固めて、次のステップにうつりましょう。

やはり、哲学的おでんにとって大切なのは、中に入れるタネです。
地方色豊かなおでんもあるでしょうが、今回は最大公約数的なイマジナリーおでんを創造していきましょう。

1.輪切りにして皮を剥いた大根
2.ハードに茹でて殻を剥いた鶏卵
3.糸こんにゃく(結ばれたもの)
4.昆布(結ばれたもの)
5.厚揚げ豆腐(適量でカットしてもよい)
6.ちくわ(適量でカットしてもよい)
7.薩摩揚げ(適量でカットしてもよい)

じゃがいも、巾着、はんぺん等、その他のタネを入れたい皆さんの衝動は、哲学的にはインコレクトです。
だめ。ノン。不適当。
今回は前述の七種類で哲学的おでんを作るのです。

今、私たちの哲学的思索の場には、あたたかな湯気をたてた、哲学的おでんがあり、哲学的取り皿・哲学的お箸・哲学的和辛子も用意されています。
お待たせをしました。やっと、皆さんに召し上がっていただくことができそうです。

しかし、思い出してください。我々の目的は食事ではなく哲学にあります。
ここで大切なルールをもうひとつ。私たちが哲学的おでんを食べるとき、先ほどの七種のタネの代わりに、後述の具材を入れていかねばなりません。最大公約数的タネを一種類食べたら、新たな一種類(仮にこれらを反的レーゾンデートル的タネと呼ぶことにします)を足すのです。

1’.ブロッコリー
2’.ピータン
3’.うどん(中太麺)
4’.ガーリックチップ
5’.納豆とキムチのかき揚げ
6’.セロリとレモングラス
7’.ポテトコロッケ(カレー味)

さて、非おでん的要素との新陳代謝がすすみ、我々の価値観が揺らいでいく中で、ひとつの疑問が出てきます。

おでんが、おでんであるための最小構成はどこにあるのでしょう?
換言すれば、おでんのアイデンティティはどこにあるのか?

皆さんの哲学的おでんを食べながら、おでんがおでんでなくなってしまうポイントを探してみてください。もちろん、七種類の構成要素がすべて代替され、最後まで、あなたにとっておでんであり続けることもあるでしょう。

では、来週のこの時間までごきげんよう!
次回は「アテナイ市民のための虻の殺し方」です。

ハ~イ! 実存、唯物、プップクプ~!(ジングル)

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#同時日記 #おでん


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