情報リテラシー論 其ノ玖

「いや改まって言わせてください、これは結構面白い話なんですよ、晴人先輩。危険を示す赤信号で世界が満たされたときこそ、いつもより安全な時間であり、逆に安全を示す青信号で世界が満たされたときは、世界のどこよりも危険な場所が出来上がってしまうという矛盾ーーー危険信号というのは度を越してしまえば安全地帯を作り、その反面、安全信号が度を越してしまえばただの無法地帯を作り、三秒どころか一秒だって生存することは難しくなるのです」

「・・・健康にいいものがまずくって、おいしいものは基本的に太りやすくて体に悪い、みたいな話か?」

「そうですね。その通りです。頭が悪いくせに理解は早いですね、晴人先輩は」

「お褒めにあずかり光栄の至りだよ」

「褒めてません、皮肉です。青信号を渡るときに、まるで神様に守られているような気持ちでいる人ばかりですけれどーーー自治は全然そんなことはないんですよね。単にリスクが半分に減っているだけです。全部が青よりはちょっとマシというくらいの話でしかないんです。危険な目にあいたくなかったら、横断歩道を渡らなければいいんですよ」

「そんなこと言い出したら、歩道を歩いていても、酔っ払い運転の車が蛇行してつ

んで来る可能性はゼロじゃないだろ」

「ええ。ゼロじゃありません。でもだからこそ、そんなことを言い出すべきなのですよ。誰かが、例えば私が、言い出すべきなのです。世の中というのはどんな危険な場所なのか。世界は平和で、夢と希望にあふれていて、救いに満ちていて、人と人は愛し合うために生まれてきて、仲良くするべきで、子供には幸せになる義務があるとかーーーそんなことをぺちゃくちゃ陶酔しながら言っているから、簡単に足元をすくわれるんです。戦地の子供達は、たとえ教育を受けていなくとももっとしっかりしていますよ。少なくとも人生に対しては貪欲です。彼らの目には、青信号ではなく赤信号ばかりが映り込んでいますからね」