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【現役競走馬烈伝】絶望から復活した三冠牝馬【デアリングタクト】

ーー史上初、無敗の三冠牝馬

このまま続くかと思われた栄光の道は、
最悪の故障によって突如閉ざされる

しかし彼女は絶望から蘇った
1
年余りの時を経て女王は再びターフに帰還するーー

【現役競走馬烈伝】
デアリングタクト編

これまで紹介してきた競走馬たちは全て牡馬(オスの馬)でしたが、今回は初めて牝馬(メスの馬)の紹介になります。

彼女の名前はデアリングタクト
牝馬のための三冠路線(桜花賞、オークス、秋華賞)の全てを無敗のまま制した歴史的名馬の蹄跡を見ていきましょう。


デビューから 素質を見せた2戦

菊花賞馬エピファネイアの初年度産駒として生まれ、「大胆な戦法」という意味の名をつけられたデアリングタクト。
デビューは2019年11月の京都1600mでした。

鞍上には以降の全てのレースで松山弘平騎手を迎えると、直線で鋭く抜け出しデビュー戦を快勝。

続く2戦目は明けて3歳になった2020年2月
エルフィンステークス。

ここは3番人気になるも、後方3番手から直線に入ると
外から一気に他馬を突き放し4馬身差の圧勝。
1分33秒6のコースレコードも記録しました。

2歳で既にG1を獲ったレシステンシアなどに続きG1級の強さを見せつけたデアリングタクトは、牝馬三冠レース初戦、桜花賞(阪神 芝 1600m)への直行を選択します。


一冠目 桜の舞台で大胆に舞う

当日は2歳女王レシステンシアが1番人気、デアリングタクトは差のない2番人気に推されました。

朝から降り続けた雨で状態が悪化した重馬場の中、
レースが始まると先団はレシステンシアとスマイルカナの逃げ争いに。
一方のデアリングタクトは中団につけて脚をためる展開。

先行した2頭は最終直線まで馬体を併せ、このどちらかで決まると思われた矢先でした。
最終コーナーを回って外に出したデアリングタクトが
別次元の末脚で急襲。
レシステンシアを差し切るとなおも1馬身半離して
先頭でゴールを通過しました。

雨で足元が緩い中、圧倒的なパフォーマンスで
無敗の桜花賞馬に。
陣営は俄然勢いに乗って二冠目のかかるオークスに
挑みます。


二冠目 止まらない連勝街道

無敗のまま迎えた二冠目、優駿牝馬(オークス)(東京 芝 2400m)。
前走の驚異的な走りから当日は単勝1.6倍の1番人気に支持されました。

その人気ゆえ、他馬の厳しいマークを受けながら
デアリングタクトは中団後方の内に位置取ります。

スマイルカナが前走と同じく逃げを打つ中、最終直線に入ると馬群に包まれて進路が開けず絶体絶命の位置取りとなったデアリングタクトでしたが、馬場の中央に進路をこじ開ける松山騎手の好騎乗で一気に進出。
最後は2着のウインマリリンを半馬身差差し切り見事二冠目を手中に収めました。

掴んだ栄光、三冠の華が咲く

その後夏の休養を挟んで牝馬三冠最終戦・秋華賞(京都 芝 2000m)に直行。
三冠がかかるレースでファンの期待も最高潮、単勝1.4倍の圧倒的1番人気でレース本番を迎えました。

淀みないペースの中いつも通り中団のポジションを取ると、前半1000mを過ぎたあたりからジワジワと進出を開始。
最終直線の入口で前が開けた好位置に着くとスパートを開始し、そのまま他馬を振り切り1着でゴール。
見事、史上初の無敗の三冠牝馬の座に上り詰めました。

キャリア5戦目の三冠制覇は2018年のアーモンドアイによる6戦をも超える最少記録。
その上翌週には牡馬のコントレイルが菊花賞を勝利しディープインパクト以来の無敗三冠馬となったことで、同一年度に2頭の三冠馬が誕生することになりました。


三冠馬3頭による世紀の一戦・ジャパンカップ

これまでの勢いのまま、次戦としてG1・ジャパンカップの出走を表明。
しかしここで過去最大の難敵が立ち塞がります。

1頭はここがラストランとなる先輩の三冠牝馬アーモンドアイ
牝馬三冠を制した後、2018年の同レースを2分20秒6の世界レコードで駆け抜け、さらにシンボリルドルフが打ち立てて以来破られることのなかった日本G1最多勝利8勝を挙げた最強馬です。

もう1頭は同期の無敗三冠馬コントレイル
父・ディープインパクト以来の無敗で牡馬クラシック三冠を達成し、史上初の親子での三冠馬となった名馬で、こちらも今回の最有力候補です。

上記にデアリングタクトを加えた3頭で上位人気を独占して迎えた本番、菊花賞キセキが大逃げを打つ中、アーモンドアイが先団に取りつき、その後ろにデアリングタクト、さらにそれを見る位置にコントレイルが控える展開に。

最終直線に入るとアーモンドアイがキセキを捉えにかかり、内からデアリングタクト、外からコントレイルが追走。
同期2頭が死力を尽くして追い縋るも、アーモンドアイが先頭でゴールを通過しました。

アーモンドアイはこれにより自身が持つG1最多勝利記録を更新して有終の美を飾り、ここまで無敗だったデアリングタクト、コントレイルは初めての黒星を喫しました。

とはいえデアリングタクトはこれまでの実績が評価され、JRA賞最優秀3歳牝馬を満票で受賞しこの年を終えました。


4歳春 狂い始めた歯車、そして…

4歳になったデアリングタクトは香港G1・クイーンエリザベス2世カップに出走登録し、その前哨戦として金鯱賞(G2から始動。

しかしこれまでの実績から勝利は確実視されていたものの、最低人気で逃げを打ったギベオンに先着され2着となり大番狂わせを許してしまいます。

とはいえここは叩き台。
当初の予定通り、本番となるクイーンエリザベス2世カップに向けて香港への遠征を敢行しました。

このレースでは日本勢はデアリングタクトの他に
ラヴズオンリーユー、グローリーヴェイズ、キセキらが出走。
レースでは3番手に先行し順調にレースを運んでいたものの、終盤でラヴズオンリーユーにキレ負けし、グローリーヴェイズにも差されて3着に敗れました。

らしくないレースが続き失意の中帰国、それでももう1勝が欲しい陣営は続く宝塚記念に向けて調整を始めます。ところが…

5月に右前脚に繋靱帯炎を発症していたことが判明。
まさかの故障によりこの年は休養、治療のため全休となりました。


繋靱帯炎について

繋靱帯炎は馬が走行する際に脚が地面に着地する際の衝撃を和らげるクッションの役割を持つ靭帯が炎症を起こす怪我です。

過去にもこの故障で引退を余儀なくされた競走馬が多数おり、シンボリルドルフやメジロマックイーンの他、
デアリングタクトの父であるエピファネイアも繋靱帯炎により現役引退となっています。

長期間を治療に要し、復帰しても再発の可能性が高いことから競走馬にとっては不治の病に近く、発症すると現役続行は絶望的となります。

この怪我に対しデアリングタクトは復帰に向けた治療を選択。患部の幹細胞移植手術を行いました。


ファンの祝福を受けた復帰戦

休養中には同期コントレイルの引退なども挟みつつ、
術後の経過は良好。
復帰を見据えて少しずつですがトレーニングが再開されました。

5歳となった2022年3月に復帰のアナウンスが入り、
G1・ヴィクトリアマイルへの参戦が表明されました。

同期でコントレイルに土をつけたレイパパレ
白毛の桜花賞馬ソダシなど実績馬が顔を揃える中、
デアリングタクトは当日5番人気に。

仮にここを勝てば385でのG1制覇となり、
トウカイテイオーが有馬記念で打ち立てた364日の
記録を塗り替えることになります。

しかし何より嬉しいのはレースに戻ってこられたこと。久しぶりの実戦に、本馬場入場の際には
ファンからの暖かい拍手で迎え入れられました。

レースではソダシのすぐ後ろ中団につけると、
最終直線で一瞬は1着を窺う好位置に。
しかしながら最後は伸びきれず、ソダシがG1 3勝目をマークする後ろで6着でこのレースを終えました。

結果こそ残念でしたが、長期のブランク明けでも見せ場を作ったこと、そしてなにより絶望的な怪我から復帰を果たし、無事に走り切ったことでファンにとっては嬉しい一戦になりました。


宝塚記念 高速決着の中見せた最強の勝負根性

休養明け初戦を無事に終えたデアリングタクトは
次走をG1・宝塚記念に定めます。

昨年は回避せざるを得なかった春の大一番。
完全復活への期待やタイトルホルダーエフフォーリアといった歳下の有力馬とどのような勝負をするのかにファンの注目が集まりました。

レースでは先頭パンサラッサが繰り出す超ハイペースをエフフォーリアをピッタリマークしながら追走。
最終直線でも止まらないタイトルホルダーとヒシイグアスには追いつけないものの三冠牝馬の意地と勝負根性を見せつけ、ディープボンドをギリギリかわして3着に。

着順掲示板が表示されると勝ち馬の他にデアリングタクトの入着を喜ぶ声もあがりました。

ここでも完全復活とはいかなかったものの、
良化の兆しを見せ秋への期待が膨らんだデアリングタクト。

秋はG2・オールカマーからの始動を予定しており、
ジャパンカップまたはエリザベス女王杯を目標にすることが既に報じられています。

絶望の淵から復活し、再度のG1勝利にも手が届く位置まで戻ってきた三冠女王。
いつかの完全復活に夢を見ずにはいられませんね。


次回、
レジェンドに6度目のダービーを贈った食いしん坊。

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