帰郷
***
4年間住んだ街との別れを決め、
父方の祖父祖母に借りた車に荷物を載せる。
借りていたアパートの引き渡しの前日、
両親がはるばる関西から6時間かけてやって来た。
荷造りを手伝いに来てくれたのだ。
洗濯機は捨てるのにもお金がかかる。
僕はリサイクル法という法律を知らなかった。
友達にもらった古いゲーム機と
ブランド物のバッグ、
初めて買ったジンバルと引き換えに
怪しい業者に即日無料で引き取って貰った。
一人暮らしの為にIKEAで買った机と棚を
父とバラバラにする。
締めつけたボルトを緩めるたびミシミシと木製の机が音を上げる。
怒りに身を任せ、殴り、穴の空いた机と棚を見ても両親は何も聞かなかった。
冷蔵庫、自転車、分解された棚と机
裸で持ち出したギター、
バッグに入った
商売道具のブラマジのポケシネカメラ
返されたスペアキー、
とてもじゃないけど全部は着れない服を見て
自分を強く、大きく見せたかったんだなぁ
そう思った。
使いきれなかった調味料を排水口に注ぐ
持ち帰れないから捨てよう、と
先月買い足したばかりのシャンプーもゴミ箱へ捨ててしまった。
***
踏み切りの音がよく聞こえる。
カーテンを外して丸見えになった窓の外には
ウザいくらい綺麗な青色が広がっていた。
この街との別れが刻一刻と迫る。
父方の祖父祖母から借りたアルファードに
無理矢理全てを詰め込む。
舐めてたわ、
こんな量の服、ほんまに着るんか?
父が放った言葉にきっとうまく答えられなかっただろう。自分でも着れないと理解していたからだと今になって思う。
母と選定しながらかなりの量を売りに出したのだが、さほど変わらず、乗り切らなかった服は集荷してヤマトにお願いすることになった。
ぷよぷよの世界大会レベルに計算され、
積まれた荷物の間に割って入り、
ギターを抱えて車窓を眺める。
思い出の散歩道から
苦虫を潰したあの歩道橋、
チラシ配りをした街、
景色と情景がありえないスピードで流れる。
サービスエリアで6回降りた。
何か美味しいものを食べようと
何処かで食べた。担々麺と唐揚げ。
男の〇〇定食。
久しぶりの家族との談笑。
最近あった弟たちのニュース、
荷解きの話、家族旅行の話。
そしていつの間にか眠りに落ちる。
うつろになりながら目を覚ますと
いつの間にか知ってる地名が増えていた
あぁ、そうだ。
目を瞑ると踏切が鳴る。
昨日まで当たり前のように歩いていた
一本道が蘇る。
トンネルの光がストロボのようにチラつく。
足元には命より大切なデータの入ったパソコンの箱。
「残り16キロ」ナビが鳴る。
無機質に放たれたその電子音には自分が追い求めていた空白さえ感じる。
明日は市役所に行かなくちゃいけない。
警察署に行って免許書の住所も変えなくちゃ
約束したから、パワーアップするから、って
最寄りのICまで残り1キロ
タイムリミットはもうすぐ、
「おかえり」「ただいま」「さようなら」
荷物で重く沈んだアルファードの車内でETC通過音が鳴る。
高額の代金が表示された電光版が眩しく、
苦しい。
あたりまえだ、
辺りに光を遮る灯りなど僕の地元にはない。
ゴールテープを緩くちぎり終わりと始まりを跨ぐ。
さよなら、東京。
ぼくはもう何処でも生きていけそうだ。
僕の目に涙はない。
何もなくて全てがある、
この町でまた1から、
世界征服やめた/Yameta
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