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成長産業で消えない消さない

就職活動をしている時に「成長産業に身を置くべき」とアドバイスされたのを覚えている。成長産業は市場が伸びるので若手にチャンスが多い。会社自体が伸びるので自分も成長しないと置いてかれる危機感をもてる。だから経験が積めるし実力が付く。そんなことを聞いた記憶がある。そしてサイバーエージェントに新卒入社した。2013年スマホ爆伸び市場だ。

入社して待っていたもの。目まぐるしく現れる「何が分からないのか分からない」仕事たち。ワークフローとか説明書なんてない。だれもやったことない仕事だから新卒にもチャンスがあるのだ。コツコツやるしかない。昨日できなかったことを、今日できるように。自分に言い聞かせて頑張った。そして慣れたらまた別の新規事業へ。参入障壁が低いインターネット業界は、他社との競争も激しい。時間をかけて信頼を得てやっと軌道にのりはじめたチーム。急遽解散することも日常茶飯事だった。そのたびに悔し涙でお酒を飲んだ。ゲームアプリを閉じる時のエンジニアの悲しい表情。今でも目に焼き付いている。

そんな日々で身に染みたことがある。ビジネスに直結する要素に向き合う重要性だ。周りから嫌われようが、休日がなかろうが、ビジネスが伸びないと事業として存続ができない。努力とか関係ない。ビジネスで負けたら事業は消える。この「事業を消さない」「チームを消さない」「ユーザーを裏切らない」が心の芯に深く刻まれている。どんなに成功してもいつも不安だ。福利厚生よりも楽しいランチよりも、ビジネス目標を達成した一体感でしか強固な組織を作るイメージが湧かない。

ビジネス目標はだいたい売上。売上を伸ばすこと。私の業界だと「売上 = MAU × ARPU」で分解されることが多い。MAUは月間アクティブユーザーの数で、ARPUは1人あたりの収益額を意味する。つまりビジネスに直結する要素は「MAU:ユーザー数を伸ばす」「ARPU:収益性をあげる」と言える。もちろんブレイクダウンしたらキリがないし、同じアプリ業界でもビジネスモデルで違ってくる。けど大きい数字はMAUかARPUだ。

競合の数値はどんな具合か。自社の優位性はどこにあるのか。年間戦略と相違がないか。App Annieやニールセンを呪縛のように毎日見ている。SDKツールも管理ダッシュボードも自分で設計しないと気が済まない。そして「自分の仕事でMAUかARPUをどれだけ伸ばせるか」毎日問いただしている。MAUかARPUが伸び続けないと給料は払えなくなるはずなんだけど、このシンプルな数式の共通理解を得ることが意外と難しい。

永遠に成長し続ける産業はありえない。伸びる産業もあれば、停滞する産業もある。消える事業もあれば、消えない事業もある。つまるところ外部環境がどう変わったとしても、事業を伸ばすことに軸足を置くのは変わりない。スマートニュースに入社して3年が経とうとしている。ユーザー数は2倍以上に伸びた。両親も会社名を覚えてくれた。合コンで貴様と言われるようになった。けど明日消えるかもしれない。今日も不安な気持ちを抑えてパソコンに向かう。私はこのサービスを消したくない。

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