【音楽コラム】GOTH概論

2004年に書いたボツ原稿。まあかなり大雑把なので、今やるなら下調べをもっとちゃんとやります。これを元にしたムックの可能性もあったけどやはりボツに。

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近頃、よく耳にする"GOTH"という言葉。イギリスやアメリカはもちろん、ヨーロッパ大陸のカルチャーにおいてもGOTHは一大ムーヴメントを形成しており、日本でもビジュアル系バンドの女性ファンを中心に"ゴスロリ"ファッションが流行している。"GOTHメタル"と呼ばれるEVANESCENCEが音楽リスナーの枠を超えて話題を呼び、映画『アンダーワールド』『GOTHIKA ゴシカ』が公開されるなど、GOTHは世界規模でブームとなろうとしているのである。
一言でGOTHを説明するとしたら、"闇の美学"となるだろう。GOTHたちは死や破滅にロマンを感じ、死人を思わせる白いメイクと黒いファッションに身を包み、ボードレールに代表される陰鬱な文学や音楽を好む。彼らはスタイリッシュな耽美イズムを愛し、古典ヨーロピアンな文化に憧れ、自己陶酔していることも少なくない。GOTHの中には自傷癖やリストカット癖のある人もいるのは、死への欲求と耽美志向によるものだ。
元々GOTHとはゲルマン民族の一部族である東西ゴート族のこと。4世紀に西ヨーロッパに侵入したこの民族は、末期ローマ帝国にとって大きな脅威となっている。12世紀初めに北フランスで発生、西欧全土に拡がって15世紀まで流行したゴシック建築様式は実はゴート族とは関係ない("ロマンチック"が語源であるローマ帝国と関係ないのと同じ)のだが、いかにもゲルマン的で重厚な様式美ゆえにゴシックと呼ばれるようになり、パリのノートルダム大聖堂やミラノのドゥオーモなどが代表的ゴシック建築と言われている。
14世紀にイタリアで興り、15世紀にヨーロッパ全土に広まったルネサンス(文芸復興)のせいでゴシックは鳴りを潜めていたが、1764年、ホレス・ウォルポールの小説『オトラント城奇譚』によって一大"ゴシック・ブーム"が勃発。ウォルポールはイギリスの首相だった父の遺産を手にするとゴシック様式の大邸宅を建て、その家に閉じこもって『オトラント城奇譚』を書き上げたのである。荒廃した古城で起こる怪奇現象と亡霊、閉ざされた空間で苛まれる美女など、後にGOTHと呼ばれるものの原点はこの小説にあったと言っていい。一過性のブームではあったものの、ヨーロッパ、そして新大陸アメリカに拡がったGOTHはメアリ・シェリー『フランケンシュタイン』(1818)、エドガー・アラン・ポー『アッシャー家の崩壊』(1839)、ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』(1897)などの文学に受け継がれていった。
1895年にフランスのリュミエール兄弟がパリで『リュミエール工場の出口』を公開したことにより、20世紀には映画がエンターテインメント媒体として急速に成長していく。翌1896年には早くもジョルジュ・メリエスが史上初のホラー映画ともいわれる『悪魔の館』を制作しているが、1920年代のドイツ表現主義映画における白と黒のコントラスト、特に『カリガリ博士』(1919)や吸血鬼を題材とした『ノスフェラトゥ』(1922)は、後のGOTHのヴィジュアル・イメージの礎となる作品だった。

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