【ライヴ・レポート】フランシス・ダナリー 2016年11月1日/東京・渋谷O-WEST

2016年11月、フランシス・ダナリーが来日公演を行った。
27年ぶりの来日、しかもセルフ・カヴァー・アルバム『ヴァンパイアーズ』に伴い古巣イット・バイツの楽曲をプレイする企画ライヴ“FRANCIS DUNNERY plays IT BITES”ということで、オールド・ファンが集結し、観客動員は上々。“プログレッシヴ・ロック冬の時代”といわれた1980年代に『ザ・ビッグ・ラド・イン・ザ・ウィンドミル』(1986)、『ワンス・アラウンド・ザ・ワールド』(1988)、『イート・ミー・イン・セントルイス』(1989)という3枚のアルバムでセンセーションを巻き起こしたフランシスの日本再上陸に、ちょっと高めの年齢層のファンたちは少年少女の目をして、興奮に顔を紅潮させてステージに見入った。
「おっぱいが出来て、髪の毛がなくなった。でもギターは今までで一番上手だよ」
フランシスの曲間のステージMCが、すべてを物語っていた。1980年代後半にブロンド長髪と物憂げな表情で少女たちの胸を焦がした青年はステージ上にはおらず、そこにいるのは鳥打ち帽を被り、ニコニコ満面の笑みを浮かべた丸顔の気の良さそうな イギリスのおじさんだ。だが彼がギターを手に取り歌い始めると、30年近く前の楽曲が一瞬にしてフレッシュなものへと蘇る。
1曲目にプレイされたのは「アイ・ゴット・ユー」だったが、I Got You Eating Out Of My Hand(君たちは僕の手のひらの上)というタイトルはまさにピッタリだった。
この日の演奏曲目はいずれも『ヴァンパイアーズ』で再演されている曲で、サプライズはなかったが、「コーリング・オール・ザ・ヒーローズ」を中盤、「スティル・トゥー・ヤング・トゥ・リメンバー」を終盤に持ってくるなど、この日会場を訪れた誰もが聴きたいであろう名曲をバランス良く取り入れたバランスの良いライヴは観衆をフランシスと同じぐらいニコニコ笑顔にさせてしまった。
日本のファンのバカ騒ぎと無縁な、やや控えめな反応に久しぶりに触れたフランシスだが、笑顔を絶やすことはなく軽妙な、時にイギリスギャグを交えたトークで会場を和ませる。それゆえに場内は徐々に暖まっていき、「スティル・トゥー・ヤング・トゥ・リメンバー」の「ナナ、ナナナナナー」というコーラスで一体となった。

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