【音楽コラム】カナダ人が歌うアメリカ / ニール・ヤングと「我が祖国」

2012年。この時点で『ボヘミアン・ラプソディー』のフレディ役はサシャ・バロン・コーエンが予定されていました。初出はヤマハサイト。


9月に日本公開となる映画『ディクテーター/身元不明でニューヨーク』は、サシャ・バロン・コーエン主演のブラック・コメディ。来年公開予定のクイーンを題材とした映画でフレディ・マーキュリー役を演じるコーエンだが、本作では架空の国家の独裁者を演じている。
金正日やサダム・フセイン、カダフィ大佐など独裁者たちのパロディであるのと同時に、アメリカの”民主主義”の欺瞞への痛烈な風刺が込められたこの映画は世界各国で大ヒットを記録しているが、興味深いのは、イギリス人であるコーエンのアメリカ批判を、当のアメリカ人たちが笑って受け入れていることだ。出演する作品ごとに国籍の異なる役柄を演じる彼ゆえ、イギリス人としてのアイデンティティが希薄に映るのかも知れないが、「余計なお世話だ!外野は黙ってろ!」という声はほとんど聞かれない。さまざまな国からの移民で成り立っている国家ゆえ、”内側”と”外側”の境界線がぼやけているのだろうか、意外と(?)外部からの批判に寛容なのがアメリカ合衆国なのである。

カナダのトロント出身であるニール・ヤングがアメリカン・ロックの御意見番として認知されているのもまた、それと同じようなものかも知れない。
1966年、21歳のときにアメリカに活動の基盤を移したニールゆえ、世界中をツアーしてきたとはいえ、半世紀近くをアメリカで過ごしてきたことになる。クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングやソロ活動でアメリカの魂を歌い、カリフォルニアで『ブリッジ・スクール・ベネフィット』コンサートを行ってきた彼は、もはやアメリカ人以上にアメリカ文化を代表するアーティストの一人であり、アメリカの音楽ファンの中にも、彼がカナダ人であることを知らない人が少なくないほどだ(さらにいえば、グラハム・ナッシュがイギリス生まれということを知らない人もけっこういたりする)。

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