【音楽コラム】北欧神話・巨岩遺跡・日本ロック...ジュリアン・コープの進む”異端の道”

初出は2012年、ヤマハサイト。

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ジュリアン・コープの2012年の最新アルバム『Psychedelic Revolution』は、どうやら日本盤発売の予定がないようだ。

近年の彼のアルバムは大作志向が続いているが、今回も2枚組。CD-1がキューバの革命家チェ・ゲバラ、CD-2が元パレスチナ解放人民戦線(PFLP)の活動家ライラ・カリドを題材にした、コンセプチュアルな作品となっている。“歌もの”メインの作りで、日本の音楽ファンにも支持されそうなサウンドなだけに、歌詞対訳などをつけた日本盤が出ないのは残念だ。

ジュリアンの新作は1995年の『20マザーズ』を最後に国内盤がリリースされていないため、日本のファンにとって彼は1980年代から90年代前半、『アイランド』レーベル時代のイメージが強い。もちろん当時の作品も優れたものが多いが、それ以降も充実したアーティスト活動を続けているジュリアンゆえ、近年の作品が聴かれないのは実に惜しいことである。

最近の日本においてジュリアンの存在がクローズアップされたのは彼のアルバムでなく、2008年、彼の著書『JAPROCKSAMPLER ジャップ・ロック・サンプラー/戦後、日本人がどのようにして独自の音楽を模索してきたか』邦訳が刊行されたときだった。史上初の英語による日本ロック研究書として海外でも注目を集めた本書だが、1960年代後半のニュー・ロックを徹底的に持ち上げる一方で、はっぴいえんどを”堅物なMORのキャロル・キングもどきのソフト・バラード・ロック”と切って捨てるなど、かなりバイアスのかかった視点が話題を呼んでいる。ちなみに本書には”日本ロック・アルバム・ベスト50”リストが付けられているが、1位がフラワー・トラベリン・バンド、2位がスピード・グルー&シンキ、3位が裸のラリーズという偏りぶりは、もはやあっぱれと言うしかない。

同志社大学を”ドシシ大学”と誤表記したり、よど号ハイジャック事件について「9人のテロリスト達がパイプ爆弾とサムライ・ソードを手に『We Are Ashitano Jeo!』と絶叫しながらコクピットに乱入した」と脚色するなど、日本においては”奇書”扱いされたりもする本書だが、目を開かされる記述も多く、ぜひ読んでおきたい1冊だ。

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