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水素ステーション業界サイドからみたENEOSという企業について

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これって何の数字だと思いますか?
こちらは、計画を含む現在の水素ステーションの数のうち、ENEOS の件
数を表しています。全体の 29.3%。日本の約 30%の水素ステーションは、ENEOS なんです。
今回は、そんな ENEOS について水素ステーション業界という観点から説
明したいと思います。

ENEOS について

さて、皆さんENEOSってご存知ですよね?
簡単にENEOSについて説明をさせて頂くと、持株会社 ENEOS ホールディングスの傘下である石油製品の精製及び販売などを行っているのがENEOS 株式会社で、この社名の ENEOS はガソリンスタンドのブランド名になっています。

多くの場合、ガソリンスタンドのブランドとしてだけではなく、このENEOS ホールディングス傘下の企業全体を指して ENEOS という言い方をされますので、今回もその様に話を進めさせていただきます。「ENEOS」とは、「エネルギー(energy)」とギリシャ語で新しいを意味する「ネオス(neos)」を組み合わせた造語ですが、2008 年頃流れた CM のキャッチコピー「エネルギーを、すてきに」という願いも込められているそうです。

1999 年に日本石油と三菱石油が合併し日石三菱のブランド名を経て、新日本石油になり、その後 ENEOS となりました。ENEOS ブランドになってからも、九州石油やエクソンモービルなどと吸収合併をすすめていき、現在石油元売りとしては、最大手です。
現在石油販売国内シェア 50%であり、他の元売りと比べると売上高でもガソリンスタンド店舗数でも倍以上になります。海外企業と比べると、ロイヤルダッチシェルやサウジアラムコと比べて、3 分の1くらいの規模感になります。これだけざっくりと数字を見ただけでも、大企業であることはわかります。

そして、その ENEOS の HP を見てみるとトップには

  • 「ENEOS は、いつまでもエネルギーの安定的に供給します~アジアを代表するエネルギー企業へ~」

  • 「ENEOS は、地球にやさしいエネルギーに取り組みます~低炭素・循環型社会への貢献~」

  • 「ENEOS は、新時代のエネルギーに挑戦します~点炭素・循環型社会への貢献~」

書かれています。
これだけを見ても、石油元売というイメージが強い ENEOS が、石油元売としてだけではなく脱炭素に積極的な企業であるとか、石油だけの会社ではないという、イメージを戦略的に考えているという事も読み解けます。

ENEOS の水素ステーションについて

現在、約 160 ヵ所の商用水素ステーションのうち、ENEOS は 47 ヵ所を設置運営しています。一番多いのが首都圏で、全部で 31 ヵ所の運営を行っています。うち、移動式水素ステーションが 12 ヵ所です。最初の商用水素ステーションの開業は、2014 年 12 月の「Dr.Drive 海老名中央店」で、商用でないモノを含めるとかなり昔から水素ステーションを運営してきているのがわかります。

また、ENEOS のガソリンスタンドとの併設が 17 ヶ所あるのが、特徴的です。東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、福岡県で、ガソリンスタンド併設型で水素ステーションが設置されています。

他の元売は、出光興産が 2 ヵ所、コスモ石油がいまだ0という水素ステーションの設置状況を考えると圧倒的に先行していることが見て取れます。これに対抗できるのはもう、岩谷産業くらいのものでしょうか。

神奈川県の水素ステーションについて

そんな圧倒的な水素ステーションの数を誇る ENEOS ですが、立地的に見てみると移動式 7 ヶ所を含む 13 ヵ所の水素ステーションを神奈川県内に設置しています。

ENEOS 全体の約 27%の水素ステーションが、神奈川県にあることになり、神奈川県全体では 16 箇所の水素ステーションのうち 13 箇所がENEOS の水素ステーションということになり、ほとんど ENEOS の水素ステーションで占められていることがわかります。

具体的には、海老名市伊勢崎市藤沢市に 1 箇所づつ、川崎市相模原市に 2 箇所、横浜市に 6 箇所となっています。

この中で、特筆すべき水素ステーションは、やはり「横浜旭水素ステーション」ではないでしょうか。こちらの水素ステーションでは、太陽光発電がおこなわれそこで発電される電気で水素を製造されるという今までにない形での水素製造がおこなわれています。但し、この再生可能エネルギー由来の水素のみで賄っているのかと言うとそうではなく、この後説明する水素製造供給センターからの供給も受けているようです。

そして、この神奈川県に多くある ENEOS の水素ステーションですが、そのうち 11 箇所が 2016 年までに運営を開始しています。そして、2017 年に綱島水素ステーションを開業した後は、2021 年 6 月に開業した川崎高津水素ステーションまで数年間神奈川県では開業されていません。

神奈川県に ENEOS が集中的に水素ステーションを展開している事や、2016 年までの開業がほとんどであることには、実は理由があるのではないかと思われます。

その理由とは、2016 年に開業した ENEOS の水素製造出荷センターです。

ENEOS の水素製造出荷センターについて

ENEOS は、2016 年 3 月に神奈川県横浜市中区に水素製造出荷センターを開所しました。こちらでは、LPG を原料に水素を製造し、トレーラー、カードル、移動式水素ステーションに充填されるようです。

水素製造能力が、1 時間あたり 600N ㎥ですので、1 台に充填できる水素量が 50N ㎥程度と考えると 1 時間に 12 台分に充填可能な水素を製造できる計算になります。そして、このスペックは神奈川県どころか関東中にある ENEOS の水素ステーションへ供給することも十分なスペックを有していると考えられます。

2016 年に稼働開始しているということを考えると、計画自体は 2014 年に「海老名中央」が動き出したよりも前から動いている気がします。そして、神奈川県下にこの数の商用水素ステーションを配置し、水素製造出荷センターからの供給をもって運用する計画を考えていたのだとしたら、ENEOS はガソリン元売りとしてだけではなく、水素の元売りになる考えをかなり以前から持っていることになります。

そして、この水素製造出荷センターを持っていることからも ENEOS が水素でも供給側にしっかりと立ち位置を作ろうとしていることがわかります。
ENEOS は愛知県に現状 8 か所の水素ステーションを運営していますが、うち外部から水素の供給が必要なオフサイトの水素ステーションは 2 ヵ所です。そして、その 2 ヵ所もステーション内で水素の製造が可能なオンサイトのステーションから供給をされています。

それに対して、関東圏全域で見ると全部で 31 ヵ所中ステーション内で水素の製造が出来るオンサイトのステーションは、たったの 6 か所と圧倒的に少ないのがわかります。この水素製造出荷センターの活用を積極的に行っていく方針であることがわかります。

ただ、問題なのはこの水素製造出荷センターが、原料に使うのが LPG であるという事です。カーボンニュートラルを進めたいと考えているENEOS にとって、この水素製造出荷センターが LPG から水素を作っているという事を必要悪と考えるのかそれとも、今後何かしらの転換があるのかは今後の ENEOS の動向に期待したいと思います。

ENEOS の新規水素ステーションについて

現在、一般社団法人次世代自動車振興センターの HP を見ると 4 件の新規水素ステーションが補助金申請をして交付を受けています。

オフサイトのパッケージ型が、神奈川県綾瀬市、愛知県丹羽郡大口町、
福島県福島市に 3 件。
そして、東京都中央区にバス対応しているオンサイトが 1 件です。

愛知県丹羽郡大口町の案件では、カジテック製の4段圧縮機が導入されるようです。これは、カジテックの2021年度に出した新しい製品となっており、今まで5段圧縮だったものが4段で圧縮が出来る製品のようです。導入コスト及び運用コストの抑制にもなるようです。

また、福島県福島市の案件には、現状多く使われているレシプロ型の圧縮ではなく、レシプロとブースター型の圧縮機が採用されているようです。低圧からの圧縮を得意とするレシプロと中圧からの圧縮を得意とするブースターの圧縮機を使うことで、中型のレシプロとブースターを併用することで導入コスト面の要請に繋がるようです。ただ、ブースターは電気の使用量が多いので、運用コストはどうなのでしょう?

因みに、実は茨城県つくば市にもオンサイトの計画がありました。現在でもつくば市では ENEOS が移動式水素ステーションを運用していますが、こちらをオンサイトの水素ステーションに変更する計画でした。ただ、現在申請を取り下げられたようです。こちらは元々LPG を利用したオンサイトで計画されていましたが、再生可能エネルギーを利用したオンサイトへの転換という事で、入札が見合わされ申請も現在は取り下げられているようです。

また、これはエビデンスのない与太話になりますが、ENEOS は 2025 年を目処に採算性の良い再生可能エネルギーを利用した水素発生装置を検討しているようで、再生可能エネルギーを利用した水素発生装置でのオンサイトを行いたいという意向のようです。

現在の原油高騰している状況ではない時期の判断ですので現在とは判断基準が違うと思いますが、思い切った判断だと思います。この話を聞いた当時は、2025 年は絶対に無理だと思っていました。しかし、原油高騰が続き、カーボンニュートラルを考えていく中においては英断であったのではないかと、今更ながら考えてしまいます。

ENEOS の水素ステーション以外について


そして、ENEOS は水素ステーション以外にも、石油元売りと言う立場からカーボンニュートラルへのシフトを強めています。

2021 年 10 月には、再生可能エネルギーの発電事業を手掛ける JRE の買収を発表しています。石油元売り大手による再生可能エネルギー新興企業の大型買収は初めてのケースになります。そして、三菱商事が圧勝した秋田県沖などの洋上風力がありますが、その第二戦に参戦する意向も示しています。
2022 年 4 月には三菱商事と再生航空燃料を共同線産する検討にも入ったと発表しています。

2022 年 6 月には、EV 事業強化を発表し、NEC から充電設備の運営権を取得しています。充電だけではなくリースや整備、蓄電池の回収など電気自動車全体の事業で収益を上げていく方針だそうです。

更に、水素と排ガスなどの CO2 から作る合成燃料の研究も進んでいます。合成燃料は、既存の航空機や自動車での使用も可能であるという事で 2040 年の商用化を目指しているようです。

まとめ

と言う訳で、原油高騰で脱炭素化が進むという様々なニュースソースがあります。一説には、現在の原油高騰化においては本来製造コストの高かった再生可能エネルギー由来の水素の方が製造コストが安くなっているという人もいます。

実際にそこまでの事が起きているとは思えませんが、それでも脱炭素への流れを後押ししていることには変わりません。

今後、ENEOS が水素でも元売としての立場を作っていく過程において、企業として脱炭素へのシフトをどれだけ強められるのかと言うのは一つの課題ではないでしょうか。

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