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自分の好きをととのえる「ふもと」をデザインする

「銭湯と本屋プロジェクト」に関わることに決めた。なぜ関わりたいと思ったか考えているうちに、自分の今までとこれからに向き合うことになったので、改めて整理した。



分断と向き合う

人と人とのつながりが分断され、情報が共有されないことにより、理不尽が生じ、良くない結果が生まれる。「サイロ化」とも呼ばれるが、それと向き合うことが、今のライフワークだ。

きっかけは、自身が高校時代に体調を崩したこと。最初に受診した医師の治療方針に従っていたが、改善せず、自身で別の治療方針を調べた。

新しい治療方針があることを知り当時の主治医に相談したが、その病院では対応することができなかった。その治療方針を採用している医師を探し、手術を受け結果として日常生活を送れるようになるまで体調が改善した。

情報へのアクセスや治療法の選択に、組織の違いなど、様々な力学が働いていることは当時の僕には新鮮で、組織のサイロ化の影響を強く感じる初めての出来事であった。


分人主義との出会い

社会人になっても、さまざまな状況でサイロ化を感じた。年齢、性別、職種、部署、役職、会社など、人の状況の違いにより、共通言語が見つからず、コミュニケーションをとることが難しく感じることがあった。

コミュニケーションがうまくとれた、と感じることもあった。趣味が共通だった場合だ。

出版社に10年以上勤め実感したのだが、出版社には小説や趣味のアクティビティが共通な人が多く、共通言語を持ちやすく、自身にとって信頼できる他者と出会いやすい環境であった。信頼がベースにあるので、新しい試みにも積極的になれた。

理由を考えている時、平野啓一郎さんの書籍「私とは何か――「個人」から「分人」へ 」を読み、「分人」という概念を知った。

「分人」とは外的要因によって生成する自己のパターンの単位。分人主義的に社内で感じた信頼を解釈すると、同じ趣味を理解する人がいたことで、小説、サーフィン、山登りが好きな自分でいられたからだ。


フィンランドにおける寛容と信頼

昨年度「ケアと公衆浴場-はだかで考えるコミュニティ」を企画した。フィンランド在住のサウナ文化のエキスパートである、こばやしあやなさんと、高円寺にある銭湯、小杉湯3代目である平松佑介さんの対談イベントだ。

フィンランド・サウナや社会全体のキーワードは=寛容さと信頼。

こばやしあやなさんから、フィンランド・サウナを切り口に、フィンランド社会全体のキーワードを伺った。

フィンランドの人たちは、人を信じるとか、人に対して自分の価値観を押し付けない、ということが前提になっている

まずは他人を信頼する、他人がどう考えているかをさりげなく感知しつつ、基本的には放っておく

フィンランドの公衆サウナに感じた居心地の良さは、他人を信頼するからこそ、成立している。

自身が向き合ってきた、「サイロ化」解消の一つの回答だと感じ、フィンランドの方々が他者を信頼する姿勢を、自身のフィールドで実践したいと感じた。


寛容と信頼に満ちた社会の実現

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では、サイロ化と向き合い、寛容と信頼に満ちた社会の実現のために、どうすれば良いか。そのためには、人が人を信頼しやすい仕組みづくりが必要だ。

世の中の「好き」を増やす

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出版社で勤務していた際に実感した、自分が好きな自分のままで、人とつながれる仕組みを、社外で再構築したらどうか。一人の中に複数の分人を持つことで、共通の分人をもった人との共通言語が生まれ、寛容と信頼が増えるのではないかと感じ、実践することにした。

1.何かを複数好きになる
2.同好の士でつながる

アウトドアが好きな人を増やす

自分が好きなものが実感を持って考えやすいので、「アウトドアが好き」な人を増やすことにした。

正直、僕自身山登りやサーフィンを定期的に行っているが、好きか?と言われるといまだに分からない。ただ、ふと思い出し、何となく継続的に行っている。

「ふもと」をデザインする

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自身が山登りを続けている理由を振り返ると、「ふもと」が大きな役割を果たしていると感じた。

山登りが好き、という分人は大きくなっり、小さくなったりする。まちにいる時は、山との接点が少なくなり、小さくなる。山登りを始めた頃は、まちにいるときに山に登ることを考えることが、自分から遠くにあるように感じ、ハードルが高いものだと感じた。

ところが、ふもとに行くと山登りが好きな分人が大きくなることに気づいた。ここ数年、アウトドアサウナも好きになり、山登りとは別にふもとに行くことが多くなったが、山登りに行くつもりでなかったのに、ふと、山に登りたくなっている自分に気づいた。

本来山登りと関係のなかった「サウナ」が、ふもとに行くきっかけを提供し、結果的に山登りが好きな自分でいることの要因となっていた。

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物理的なふもとと、精神的なふもと

物理的に山のふもとへ行くことはもちろんだが、精神的に山のふもとへ行くこともできる。

それは山に関する書籍や雑誌に触れることだ。僕自身「ランドネ」という雑誌に出会ったことで、高校時代にやめた山登りを再開した。今でも、山に行けない時期には、書籍や雑誌に触れたり、読者と話すことでまちにいても山が好きな自分を感じるきっかけになっている。

松本において、自律分散型の企業としての求心力にもなっていると感じらる「栞日」「藤原印刷」と、フィンランドの寛容と信頼といった環境づくりを実践している「小杉湯」との、「銭湯と本屋プロジェクト」は、ふもとをいかにデザインするか、考えていた僕にとってヒントが満ちていると感じ、参加することに決めた。

物理的、精神的なふもととの関わりしろが、好きに通じ、他者を信頼するきっかけになれば嬉しい。このプロジェクトを通して、そんな環境をつくり、学びながら、新しい場所や、同じようにアウトドアを好きな人達と出会うことで、新たな景色に出会う自分を、楽しみたい。