T-OST 3枚目に優勝した話

 T-OSTで優勝してしまった。
 いまは、打ち上げのあとで激安ホテル(1人3000円で泊まれる)でこの文章を書いている。激安ホテルは見た目はすごくきれいで清潔感があるのだが、トイレに鍵がなかったり、お風呂のお湯がチョロチョロと出てきて全然たまらないのが玉に瑕。あと、クーラーつけようと思ったら設定温度18度だった。ペンギンでも泊まってたのかこの部屋。まあ、多分途中で飽きて書くのをやめてしまうと思うけれど、とりあえず書けるところまで書いておこう。お酒も入っているけれど、酔っている感じは特にない。まあ、大丈夫なんじゃないか。大丈夫だと思う。眠くもない。
 T-OSTという会は、羊狩りというガルパン部(ガルパンが好きすぎるキモいおっさんが3人でやってるLINE)の仲間とその友達が主催している大会で、仙台でしばしやってた東北大喜利会という会が停止してしまったため、その代替(と言ってしまうと角が立ってしまうかもしれないが)としてできた大喜利大会だ。仙台で行われている大喜利大会なので、基本的に東北で大喜利やってらっしゃる方々に合わせて僕ら遠征勢(主に関東圏から来てる人が多い)が交ざってできあがっているフシがある。
 第1回の優勝はATPさん、第2回の優勝は星野流人さん。僕はというと、第1回、第2回とも本戦進出止まりでした。で、今回は第3回というわけ。(3枚目という表現が正しいらしいが分かりづらいので念のため)第2回で優勝した星野流人さん、というか流人さんはネット長文時代からの友達で、同じくガルパン部(ガルパンが好きすぎるキモいおっさんが3人でやってるLINE)の仲間で、いままでずっと一緒に大喜利やったり旅行したり動物園行ったり美術館行ったり漫喫でゴロゴロしたりしている感じの友達だ。その流人さんが、人生で初めて大喜利の大会で優勝したのがT-OST2枚目だった。僕にとっては「羊狩りが東北のために人生を捧げてやってる流人さんが初めて優勝した大会」だったわけだ。言葉にしてあらためて実感するけれど、そういう意味のある大会だった。
 そんなわけで、僕は第3回のT-OSTに参加した。
 最近の関東の大喜利界隈には「わいわいブーブー」という文化があって、それはつまり何かというと「みんなでレンタカーを借りて地方の大喜利大会に遠征しよう」というものだ。僕は今回、わいブーの出発する6月9日はおちごとがあったので「行けないなあ」と思っていたのだけれど、話を聞けば僕のおちごとはお昼に終わるし、その日の夜にわいブー組で旅館に泊まってわいわいするから来なさいよというありがたいお誘いがあったので、今回はそのご相伴に預かることになった。ただ、僕は完全に「いつおちごと終わるか分からんし、前日適当に行く時間決めればええやろ」みたいなゴミの発想で激安バス(すごくやすい高速バス。3500円くらいで新宿から仙台まで行ける)を取ったら、宿の夕飯に間に合うの間に合わないのみたいな話になって激鬱になってドタキャンしかけてしまった。羊狩りマジでごめん。また誘ってクレメンス。
 わいわい宿泊はやばく楽しくて、ご飯うまうまだったしお風呂がラドン天然温泉でウルトラ良くて(3回入った。深夜1時くらいにアオリーカさんと入ってメチャメチャ大喜利の話した楽しかった)、やたらアイス食う時間あったりゴロゴロしたりしてて楽しかったです。話の途中に出てきた「サザエさんの新キャラクターのシャコ田くんというゴミクソの後輩と、なぜかその横暴を全部受け入れてしまうマスオさん」というおもしろすぎるやつがおもしろすぎました。
 そんなわけで、6月10日を迎えるわけですが、6月10日なのだが???と思うぐらい寒くて雨が降ってて寒かったため、ユニクロでオレンジ色のパーカーを購入してダッシュして時間ギリギリになってしまった。あとでOGAKUZUZさんに聞いたら買ってきたパーカーサツマカワRPGさんと同じ奴らしい。そうなん。
 さて、そんなギタギタに疲れた状態で会場に辿り着いたわけだけど、開演ギリギリだったのでもはや流人さんと並んで座るところもない。何しろ会場キャパギリギリの50人を超える人がいるわけで、僕らは会場最後方の地べたに座り込んだ。行儀悪いよね、ごめんね。でも前回のT-OSTでもギリギリで流人さんと一緒に大喜利見られなかったから、どうしても並んで大喜利を見たかったんだと思う。最終的に僕らをあんまり哀れんでくれた人が椅子を恵んでくれた。ありがとうございます。そんな訳でT-OSTの3枚目が始まった。羊狩りは喉が撃滅していて、ルール説明があまりに粛々としていて葬儀屋の挨拶に聞こえた。くじ引きが始まって、ブロック分けが終了。大喜利が始まった。
 Aブロックで流人さんが頓死した。
 実際、Aブロックはこの大会でも強烈にヤバいブロックだったと思う。ほぼ関東圏の大喜利キチガイ。虎猫・田野のワンツーフィニッシュ。さらに星野流人、ステイゴールド、ひろちょび、J・ナカノという他のブロックよりも1人多いブロックだった。
 ついでに、3位は敗者復活に回れるのだけれど、その発表は全ブロック終わってからというルールになっていた。何そのルール当事者にとっては絶望しかないやんけ。
 ただ、その、負けるだけなら大喜利をやっている人ではままあることだけれど、その敗北は流人さんにとっては大きすぎるものだったんだと思う。結果、流人さんは結果を聞いて、号泣しながら出て行ってしまった。マジ大丈夫? と思ったけれど、ディフェンディングチャンピオンというのはそういうものなのだろう。その時は、ちくしょう、カタキはとってやるぜ!ぐらいに思っていた。Hブロックが始まるころには流人さんは僕の隣に帰ってきていて、精神は不安定ながらも拳を突き合わせてくれた。
 詳細は省くけれど、僕は勝てた。予選での最多得票だったらしい。うれしいンゴね~。やっている間のことはよく覚えていない。お題は、「ギャンブル幼稚園」と「媚薬を飲んだ芸能人」だったはずで、芸能人お題は前回考えてたアントニオ猪木がうまいことハマったな、というのは覚えている。時折、左側(僕は一番右側に座っていた)から爆受けの音が聞こえていた気がする。それでも勝つことはできた。終わってから、どこかから「強い」という声もした。多分、その言葉は僕にはあまり似合わないものだ、とは思ったけれど今回は負けるわけにはいかなかった。結果、僕は勝利を聞いたときにウッシャー!と叫んでガッツポーズをしていたのだった。僕はあんまし大喜利では感情を出さないようにしていたし、ガッツポーズをしないほうなので、終わった後、虎猫さんに「あんだけ勝っててそんなガッツポーズする?」と笑われた。でも、僕は勝つしかなかった。勝つしかなくて、やるしかなくて、戦って、勝ったから、ウッシャー!になった。
 そうして、予選のすべてのブロックが終わった。予選が終われば、運命の敗者復活戦進出者発表だ。流人さんが敗者復活に行けるか、きょうの大喜利がこれで終わりかどうかが決まる。それまで、流人さんはずっと客席で、目の前で行われている大喜利のお題の答えを考え続け、スマホにメモしては僕に見せたりしていた。来るべき敗者復活で生き返るために、その爪を研ぎ澄ましていた。そして、敗者復活者の読み上げが始まった。流人さんは五体投地の体勢で祈っていた。そして、告げられたAブロックの3位は流人さんではなかった。
 正しい表現かは分からないけれど、全財産失った人みたいだった。その後、流人さんは会場を飛び出してしまい、僕はさすがに放っておけなくて、その後に続いた。そんなわけで、僕は敗者復活は見ていない。梶本さんとナカノさんの激闘は録画を楽しみにしている。さて、その間何があったかは強いて書かないけれど、結論として僕はさらに勝たなくてはいけなくなった。

 以上が、打ち上げの後、宿で書いた内容だ。上の文章を流人さんに見せたところ、「宿でちんぽを舐めてもらいました」と書くことを代償にネットに載せていいと言われたので、書くことにする。僕は宿で流人さんにちんぽを舐めてもらい、上下関係をしっかりたたき込みました。

 さて、東京に帰ってきたので、少し腰を据えて続きを書く。
 そんなわけで、僕と流人さんは休憩時間の間に会場に引き返した。引き返す前、ネイノーさんがやって来て「Rの人さん凄かったですよ」と言われて、解答を聞いた。かなりおもしろくて、さっき同じブロックの人だったよな、よく勝てたな俺、と思った。思えば、前回も同じブロックだったのでRの人さんはちゃんと見たことがない。次はちゃんと生で大喜利を見たいな。
 帰ってくるなり、羊狩りさんとすれ違った。「やるじゃん」と褒めてもらったけれど、僕は狩りさんの顔を見るなり「流人さんが…」と言ってしまった。僕は僕で追い詰められていたんだと思う。そのまま本戦は最終ブロックで、ぺるともさん、アオリーカさん、OGAKUZUZさん、Jナカノさんと同じブロックだと知った。とりあえず、流人さんのことはあるし「Jナカノさん倒そう」とは思った。いつもの大喜利会だと、ぺるともさん、アオリーカさんのどっちかのワン・ツーフィニッシュかな、とは思ったが、もう後には引けなかった。A~Dブロックの間はとにかくコーヒーをがぶがぶ飲んでトイレに行きまくっていた。僕はカフェインを摂取すれば摂取するほど頭が回転すると本気で思っているので。本戦の中では、メチャメチャ正答派の集まったBブロックが印象的だった。僕は特にないとくんさんの大喜利がメチャメチャ好きなのです。
 さて、Eブロック。一番最初に名前が呼ばれた。この大会は本戦に進んだ人はみんなかっこよさげな前口上とキャッチフレーズで名前を呼ばれるのだけど、なぜか全然聞こえなかった。なつきちのやつだったらしい。またあとで録画見よう。なつきちに準えたキャッチフレーズなら、なおさら……。
 祈るような気持ちで前に出て、座った。隣でOGAKUZUZさんが何やらいろいろ小刻みにギャグをやって僕にアピールしてた気がするけれど、とにかく気にしないようにしようと思った。逆に冷静になれた感じ。
 大喜利が始まった。潔癖症の軍人だらけの戦争。つかめない。潔癖症が自分の引き出しにない。自分なりの解答をこね回す。「せっかく皆殺しにしたのに誰も占領しない」「雑巾がけの体勢で玉砕する」、大喜利らしい大喜利はできたような気がするが、この戦いはいかにインパクトのある大喜利ができるかだ。発想の角度が足りない大喜利モドキにとどまってしまっている。最後に戦地からの手紙の解答で、解答の0.5秒ほど頭が真っ白になってしまって破滅しかける。緊張がかなり悪い結果をもたらしている。2問目、軽い会社員。開始15秒くらいでぺるともさんが「何が弱冷房車だ~」と叫んで爆ウケしたのが耳に入る。僕は集中力全振りの大喜利しかできないので、人の大喜利が耳に入る状態は調子が悪くなってしまう。書いては消しを繰り返して、クリティカルヒットは出せないまでも水準を上げて食らいつく大喜利が続く。終わる。あとで聞いたらアオリーカさんが試合を決める「目線」という解答を出してほとんど勝ちを決めていたらしい。僕はまったくそれを耳にしていなかったので、たぶん集中自体はできていたんだと思う。だけど「軽い」の上限を突破できなかった。空気より重い人間ばかりで、空気よりも軽い人間にイメージが到らなかったのもある。1位のみの突破。アオリーカさんの名前が呼ばれ、敗れる。2位は2問目でかなりの爆風を持って行ったぺるともさんが、または隣でかなりウケていたOGAKUZUZさんに票が集まっているだろうと肌で感じる。
 僕はT-OSTでも、ほかの大会でもそうだが、予選で調子が良かったときは、それ以降の対戦はズンズンと調子を下げてあっけないほどに簡単に死ぬ。何なら、いままでのT-OSTもずっとそうだった。僕の大喜利はそういうスタミナの持続しない大喜利だったし、僕自身手を変え品を変え、という大喜利ができないのもある。
 ここで終わりだ、流人さんごめん、と考えながら肩を落として席へ戻る。流人さんが「まだある、まだある」としきりに声を掛けてくれた。客席は票数が分かるからそう感じるのかもしれないが、2問目の失速がかなり痛いと思っていたので、ほかの人に2位は奪われたと思っていた。
 名前が呼ばれる。
 ガッツポーズ2度目。やるしかない、叩き潰すしかない。ここでウケないと僕は流人さんに何も与えられない。もしかすると、友達でいられなくなるかもしれない。いつも以上に落ち着こうと思って、かなり念入りに呼吸を取り戻す。僕は、いつも大喜利の前に手を合わせていて「やばい宗教やってんのかな」とみんなに思われていると思うけれど、あれは478呼吸法というもののオリジナル版です。実際にアレが効くかどうかは分からないけど、そうすることで落ち着ける(頭を切り換えられる)のならば、鰯の頭でも信じていたい。
 対戦相手は田野さん、ネイノーさん、ウズマキさん、かさのばさん。ここから正真正銘の1人だけ。正直、いま思うと客席で見たいくらいのメンツだと思う。
 不思議なもので、追い詰められているのに、なぜかここらへんから「きょうの主人公はひょっとして僕なんじゃないか」という妙な自信があった。さっきの大喜利ではイート止まりで、うまくお題をバイトできなかった。だけど、次は1問だけだ。1問だけなら、それだけ追い詰められているなら、内側から抉る大喜利ができるような自信が、なぜか、あった。
 お題は『ギャル神様の呪い』。ギャル。即座に浮かんだ「~しろし」というフォーマットを切り落とす。この大喜利はギャルが主体になってはいけないお題だと決めてつけて、呪いからアプローチを仕掛ける。
 僕は、お題を見たときに要素というか、「土台」を探す癖があって、この場合は「呪いあるある」のフォーマットからギャルに当てはめる作業に徹していた。それを続けていると、まるでお題に沿っているように見えるのだ。
 そんなこんなで、とにかくお題に沿い続けようとした。遠くにいるネイノーさんの調子が悪いのが何となく分かった。ネイノーさんは回答スピードがやたら速くて、全ウケするときは1答目から全ウケし続けるけれど、このお題に関してはアップダウンがあった。それは、食らえてないときだ。そう感じて、自分の中の思考に、余白が生まれる。
 全回答でウケれば、たぶん僕でも勝てるだろうという変な自信が出てきた。なので、そのあとは精度のみを追求して答え続けた。「携帯が何もつけていないのに重くなる」「体中にラメが浮き出る」「見るものすべてりゅうちぇるに見える」。最後の最後に、これだ!と思って「あんなに真面目だった娘がギャルになっていた」という回答を出した。滑った。俯瞰が失敗したパターン。これは致命傷になりかねないな、と思った。
 しかし、票数は1位。3度目のガッツポーズ。貯金で上回れたんだと思う。僕の大喜利ができたか、と言われれば「自分の大喜利は、できた」と思う。だけど、それ以上を越えないと、この先の壁は乗り越えられない。
 決勝。僕の隣にアオリーカさんが座って「倒したと思ったのに」と笑った。きのうの夜中に、2人きりの温泉で大喜利について語らった人がこの決勝の舞台にいた。僕の存在が誰かの脅威になっているのだ、という空気が少し伝わってきた。
 決勝は手すり野郎さん、虎猫さん、けうけげんさん、ファイナルエースさん、アオリーカさん。だけどもう、相手はどうでも良かった。お題を叩きのめす、それだけだった。決勝進出者のマイクパフォーマンスがあって、虎猫さんが家が取り壊される話でウケていたのを覚えている。最後に僕にマイクが渡されて、「勝ちたいです。頑張ります」とだけ喋った。声が怯えているみたいに震えていた。脳のリソースが全部大喜利に傾いていて、喋るモードになっていなかった。ただ早く大喜利がしたくてたまらなかった。
 1問目。「魔法使いとマジシャンの結婚式」。結婚式というフォーマットにかぶさる魔法使いとマジシャンという要素が完璧に背反するお題。超絶にムズかしい。ひとまずケーキ入刀みたいな文字を書いては消す。リズムをつくるために「当たり前みたいな感じでキャンドルが灯る」みたいな回答を出すが、こんな回答は誰にでも出せるので気にしないことにしておく(「当たり前みたいな感じで」は、多分僕の捻り方なんだと思う)。そんなことをしながら、いろいろ結婚式のワードを取っ替え引っ替えしているうちに、急に俯瞰した絵が浮かぶ。さっき滑ったアプローチと同じ方向。だけど、やるしかない。「誰の余興も盛り上がらなかった」、ウケる。ひと安心。しかし、結婚式のイメージがグルグルしつつも、なかなかまとまらない。ラスト1答。ひとまず手を挙げるが、なぜか指名されない。よっぽどあとのほうに手を挙げたのか、と思いながらほかの人の回答を聞く。と、ファイナルエースさんの回答に異変が生じる。話す。話す。話す。……話す。
 ああ、これは爆ウケするやつだ、という予感を肌で感じる。ファイナルエースさんの語りに会場が吸引されているのを感じる。これはすごいオチが用意されてて、それでかっさらわれる奴だ、と直感した。
 でも、その時点では「出したい」という気持ちが強かった。いつもなら引っ込めるかもしれないし、ファイナルエースさんの回答を楽しみにいっていたかもしれない。その爆ウケで終わるのが一種の美しい幕切れだということは分かっていた。だけど、流人さんのためだとか、誰かのためとかではなく、ただ、「出したい」という気持ちで、出すと決めて、深呼吸を繰り返していた。持っている回答は決して自信作ではなかったけれど、おもしろいとは思ったので、出したかった。
 回答が終わる。ファイナルエースさんが爆風を引き起こす。笑い声と拍手で、会場がごうと揺れる。だけど、その余韻を残さない。手を挙げる。「ライスシャワーがひとりでにおにぎりになる」。多分、同等ぐらいにウケた。後から考えると、ファイナルエースさんがウケたからウケたのだと思う。前の回答と比べて落差のある回答だった、ということと、タイミングも良かったのかもしれない。
 投票。顔を伏せていたけれど、ほかの人より票を数える時間が少し長めだったかもしれない、と感じる。2問目。「悪いことをすると体が光る人の日常」。即座に「体が光る」を切り落として、「罪」から考える。きょう、徹頭徹尾繰り返してきたアプローチ。「120円の菓子パンを万引きして光らなかったので罪のハードルは低い」。多分ウケた。考えながら頭の端っこで、こないだの戦でしょっぱいパンさんがやってたコントを思い出していたけれど、臆面なく発想をパクった。そこにしか発想が収束しなかったし、何より勝ちたかった。美しさは邪魔だと思った。
 「光る」がどうしてもネックになる。そこかしこで回答がウケている音がするけれど、決勝だからみんなウケるのは当たり前だと思って気にすることを止めた。あとで聞いたけど、DNAすごすぎんな。あと、全員光人がすごいウケてたのも覚えている。
 「罪は瞬間的なものではなく、持続するもの」という発想が浮かぶ。「一度脱税してから死ぬまで光り続ける」という回答を出す。あと悪いことって何だろう、と思って、すぐにレイプが浮かぶ。レイプ好きだし。レイプ、レイプか。絵がおもしろいので、「レイプしながら道案内する」という文字をボードに書く。どうやって表現しよう。まだしっかりと思考は固まっていなかったけれど、手を挙げて、指名されて、立ち上がる。さっき戦地からの手紙で終わりかけた、セリフ前振りありきの回答だ。「お若いの、良く参られた、夜道は暗かろう、さあこちらへ。『レイプしながら道案内する』」。よく考えずに回答したら、なぜか駅弁でレイプしてるジジイになっていた。ウケた。回答の時点で出しようでウケるかな、とは思っていたのだけれど、自分の中では好きな出し方だと思った。しかし、あの動きがレイプだとは誰も思わなかったと思う。アンパンマンのときもそうだけど、前のセリフのときに動きで伏線張っておくの楽しいね。
 終了。審査の挙手の時間がほかの人より少し長めな気はする。気はするが、気を抜けない。僕は簡単にスタミナ切れを起こすし、1問で引っ繰り返されるのがこのルールだ。去年、チョム加藤さんがそうやって流人さんの喉元まで刃を突きつけていた。
 「あと1問だけ、あと1問だけ持って下さい」と机に突っ伏したまま何度も繰り返す。あと1問だけ。
 3問目。「闘病中の芸人だけ出られるM-1グランプリ」。ああ、これ全員ハネるやつじゃん、と思った。僕は周りの人が苦しんでいる中で正解を出す、みたいな抜け方はできるほうだけど、全員爆ウケしている中で抜け出すことは苦手なほうだ。
 開始0秒でM-1の出ばやしのメロディーで「医師ないないないない」という手すり野郎さんの回答がバチコーンとハマる。ほらやっぱり、全員爆ウケするやつじゃん、と確信する。だけど、この波に乗る、みたいなことをすると僕はすぐに浮ついてうわべで大喜利をしてしまう。落ち着いてお題を見て、漫才と病気について考える。このお題の土台は「漫才」だ。
 まず、レギュラーのネタを思い出す。思い出したが、「松本君が失神して最後まで目を覚まさない」と書いて「あんれぇ、失神するのは、松本君と違った気がするンゴねぇ~」と西川君の名前を思い出すまで15秒くらい時間が掛かったし、ウケもそんなではなかった。やはり逡巡は回答に出る。
 どうしよう。周りではバコバコウケているのが分かる。その中で、フッと立川談志師匠のテツandトモのコメントを使った回答が出てきたのを聞いて、「あ、そういうのもいいんだ」と思って、島田紳助のことを思い出し、即捨てる。僕は島田紳助に思い入れはない。
 直後、すぐにオール巨人のコメントを思い出し、「これじゃん」と思う。この場は大喜利が好きで、お笑いが好きで、だからこそ集まっている人たちだ。通じるに決まっている。
 「磁石くん、治ったらアカン」。気持ちいい、と思った。ウケた。やっぱり回答はロジックではなく、ひらめきが一番強い。ひらめきが一番強いのだ!
 そのあとも、お笑い芸人のアプローチを続ける。「『俺が入院』『俺が入院』『俺が入院』『俺が入院』『4人も入院患者おったらベッド足りなくなるやろ』」「ギリギリの状態のタイムマシーン3号の関太さんが『頑張れ心臓負けるな白血球』」。お笑いが好きな人たちが相手だから、このアプローチでいいのだと信じるしかなかった。
 駆け抜けた感じがした。呼吸を忘れるほどに書いて、出してを続けた。アドレナリンが体に充満しているようだった。投票。多分、ほかのひとより、長い、はず。これが勘違いでなければ、たぶん。だとしたら、虫のいい話だけれど、全部のお題で抜けられたのか。
 結果発表。名前が呼ばれていく。まだ呼ばれない、大丈夫、上位のはずだ。いつもの自分の大喜利ならば、競った中で負ける結果が多い。だから、勝てたなら、大差がついている、はず、逆かも。
 1位83票、2位20票。残っているのは僕の名前と、ファイナルエースさんの名前だ。祈る。ファイナルエースさんは「革命」でかなりウケていた。お題をそのまま反芻するような回答もあったはずだ。だけど、抜けてるはずだ、きっと、たぶん、ぼくは、勝たなきゃいけないんだ。

 名前が呼ばれた。
 優勝した。
 雄叫びをあげて、きょう4回目のガッツポーズをした。号泣するものだと思っていたけれど、それより前に周りのみんなが集まってきて、僕を祝福してくれて、訳が分からなくなってしまった。
 やがて、マイクが渡されて、なぜか僕は「しゃべるの?」と思った。普通は、なんかこう「コメントをどうぞ!」とか言わない?みたいに羊狩りの顔を見たが、彼奴は「ささ、どうぞどうぞ」みたいな感じの顔をしていた。マイクを持つ。言うことは決まっていた。「自分のためにもなんですが、流人さんの為に頑張りました」。
 やっと言えた、と思って涙が出て声が震えた。この言葉は優勝しなければ言えなかったことだった。とんでもなく危ない橋を渡っていたんだ、とあとになって思う。客席の最後方のお情けでもらった椅子から立ち上がった流人さんが、「おめでとう」と絶叫していた。
 羊狩りが賞品を手に僕の傍に来た。僕は賞品を受け取ると、一も二もなく抱きついた。羊狩りは大切な友達だったから、喉をぶっ壊しながらもこの大会を成し遂げたことは本当に誇らしかったし、その大会で友達の僕が優勝するのは出来過ぎなのかもしれないねという気もないわけじゃなかった。だけど、羊狩りは「大井町で寿司3人で食おうな!」と言ってくれた。
 ああ、僕は今度こそ寿司を手に入れたんだなあと思った。

 そこからは怒濤のようだった。優勝したことで流人さんを打ち上げに連れて行くことに成功し、いろんな人に祝福されて、虎猫さんたちと大喜利の話をした。何度も自分の名前で検索をし、Twitterに僕の名前があれば、即座にfavをつけた。エゴサの鬼と化し、縦横無尽にふぁぼ爆し、自己顕示欲の塊と化した。
 そんなわけで、打ち上げは終わり、いろんな人と話をして、思いつきで取った激安ホテルへ流人さんと入った。
 部屋に入ったあと、流人さんはなぜか「足舐めて良いですか」「あなたの靴を枕にします」「ちんちんをしゃぶらせてください、もしくは私のをしゃぶりませんか」といつもの下ネタキチガイから卑屈下ネタキチガイにパワーアップしていて、僕がいないときに時々泣いていた。いまは多分大丈夫だと思う。
 そんなわけで僕らは、翌日は電車を乗り過ごしたりしながら仙台城へ上り、羊狩りオススメのやたらうまい牛タンを食べて「打ち上げ会場で俺たちは食ってたのはむしろ何の肉だったんだ?うめえうめえ」と不安になり、仙台うみの杜水族館の完成度に親指を立て、駅でずんだシェイクを啜り、仙台市内を観光して新幹線で帰った。羊狩りは何か知らんが寿司を食っていたらしい。

 そんなこんなで、また僕は普通の日々へ戻る。たぶん以後も、仕事をしつつ、大喜利を時々やりながら、大喜利会を主催するおっさんになると思う。

 でも、それでも、たぶん1人だったら大喜利を続けていなかったと思う。
 ひとまずそれだけが言いたくて、この日記を書いている。書いた。ありがとね。また大喜利しようね。そんなことを考えながら、6月10日の僕はちんちんを死守して電気を消したのだった。