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デッド・ゾーン・ポリス

はじめに

アドカレ用の企画写真があまりにも集まらなかったため、急遽創作でお茶を濁すことにしました。

この創作物はニンジャスレイヤーと水戸黄門と古畑任三郎とジョジョとさまざまなカルチャーコンテンツをスピリタスで限界まで煮詰めた作文です。

ハートアタックや頭痛を誘発させる可能性があります、よろしくお願いします。

続きは気が向いたら書きます。


デッド・ゾーン・ポリス 1



深夜のサイタマ・トコロザワ・ストリート、重金属を含有するかの如く、どす黒い雲から雨が降りしきる。

道ゆく市民たちの表情は乏しく、誰もが何かに耐えているかのよう。

「安い、安い、実際安い」「アカチャン……」「オハギ…オハギだ、安全です」

疑心暗鬼にかられた声、車輪付きの屋台、接触不良でバチバチと音を立て明滅するネオン看板、それらが不協和音を奏でる。

しかしひとたび裏路地へと入るのならば、不協和音はおろか、生き物の気配すらもはや無い。

『肩凝ってしまう』『カニ無料』『安心安全』『ほとんど合法』

無法地帯と化した裏路地に、欺瞞に溢れたネオン文字が宙に浮かび、闇が淡い赤色に照らされる。

血のような、炎のようなその光景はまさに地獄だ、かつて美しい国と呼ばれていた帝国は地獄と化していた。

混沌、ドラッグ、マクラ、オハギ、死。

これは電子的・物理的に鎖国された帝国の首都の、あまりに見慣れた光景だ。


◆ ◆ ◆


帝国が鎖国を行い106年の月日が経った今、独創性の高い技術の繁栄とともに帝国は新時代を迎える。

精神ネットワーク接続やアンドロイド手術、バイオ技術、クローン技術による食料の完全自給、しゃべる猫、など。

しかし上場企業による人体動物実験や給料未払いなどが蔓延り、トーキョーはミュータントやサイキッカー、イッキウチコワシ隊に溢れることとなる。

トーキョーは首都機能を維持することができず、デッドゾーンと化した。

それを合図に貧富の差は国中に広がり、裕福層はマフィアとカチグミと汚職政治家が支配、それ以下の層にはドラッグと犯罪が蔓延する恐怖のピラミッドが出来上がった。

緊急事態を受けた政府はサイタマへと首都機能を移した、そして未来への希望を託し、特殊ポリスレジスタンスを設立した。

新時代を迎えたことにより世界各地で発生する犯罪や超常事件から市民を守るため。

デッドゾーンと化したトーキョーの奪還を目指すため。

時には命をかけてマフィアやミュータントと死闘を繰り広げたりもする。

もはや市民達は特殊ポリスに縋るしか無い、殺伐としたこの新時代では、分かりやすいほど強い力が希望の光となるのだ。


◆ ◆ ◆


暗闇で動く複数の影があった、そのうちの1人の男は若者に囲まれ、棒で叩かれているようであった。

その男の胸元には、特殊ポリスのエンブレムが入っていた。

しかし戦闘用ビジネス装束スーツはところどころに傷がつき、目にかけてる強化カーボン製保護眼鏡にもヒビが入っている。

「ヒャッハー!」「モウカッタ!」「ヒッヒヒ!」

若者たちは卑劣な声で叫ぶ、まるで目の前の男を、マグロのイポンヅリをしたかのように。

「今の気持ちはドウダ?ヒーハハハハハ!サイコーだろぉ!?オイ!」

下劣なインタビューが始まった、そのあまりにも哀れな男…新米特殊ポリスのジャック・ヒサヨシ。

ジャックは血にまみれた頭を手で押さえながら、目の前で嘲笑うヤングジャンキー達を睨みつけた。


◆ ◆ ◆


新米ポリスのジャック・ヒサヨシは真面目で屈強な男だ。

190センチの高身長で学生時代はラグビーをやっており、カラテもできるし、つよい。

しかし見た目に反してその信念は光り輝いており、犯罪を許さず、世界平和を願う男だった。

それはマフィアの抗争に巻き込まれ命を落とした父の信念だった、ジャックは父の信念を受け継ぎ、ポリスとなり日々奮闘しているのだ。

しかしポリスになってから3ヶ月のジャックは、カロウシ寸前の度重なる仕事量に押し潰され残業続きであった。

人間関係は良好、上司は優しいし、気の合う同僚もいる、給料も良いし、市民からの評判も、キャリアも悪くない。

しかし組織としての秩序維持こそ出来ているものの、止むことのない犯罪の数々により超過勤務が常態化している。

昨日知り合った同僚は次の日には死んでいる事もあり、殺伐とした帝国では、ポリスの仕事は石油のように溢れ出てくるのだ。

精神的にも、肉体的にも疲労困憊めいていたジャックは咄嗟にカラテが使えず、ヤングジャンキー達に大勢で囲まれてしまい、頭を負傷してしまったのだ。


◆ ◆ ◆


「アイサツも無しに一度のみならず、三度もアンブッシュを行うとは、なんたる卑劣な行為……!!」

ジャックはアオムシを噛みしめめいた声で呟いた、ジャックは礼儀にはうるさかった。

しかしヤングジャンキー達は高らかに笑い声を上げる。

「ヒャッハー!ニュービーがくっせえコト言ってるぜ!」

「公務員は大人しくドーナツでも食ってな!それとも透明なコーラの方がいいか!?オイ!」

拳銃を持ったヤングジャンキーは、ネイビースラングで恐喝しながらジャックの頭を蹴りつけた、保護眼鏡が無慈悲にも何処かへ飛んでいく。

道徳意識のかけらもないヤングジャンキーは、芸能界のカチグミや貴族の息子であり、地位だけはとにかく高い。

金にものを言わせカチグミの座に就いていおり、カチグミが故に法に縛られることは無く、汚職政治家に賄賂を注ぎ込むためポリスも迂闊に手が出せない。

そんな彼らにとってニュービー・ポリス狩りは最もホットな競技だ、ドキョウ試しとして、有能なポリスを潰す目的としても楽しまれている。

「ヒャッハー!目んタマがまる見えだぜ!なあ!ドリルやれよ!そのドリルを食らわしてやんな!」

「ガッテン!ヒーヒヒヒ!!」

電気ドリルを持ったヤングジャンキーがドリルのスイッチを入れる。

ギュイイイインと不吉めいたモーター音が鳴り響き、回転するドリルがジャックの目の前に突きつけられた。

「馬鹿な真似はやめろ!くそっ…!」

ジャックは抵抗したが、クギバットに後ろから羽交い締めにされ身動きが取れない。

「ヒーヒヒヒヒ!すっごいぜ!やっばいぜ!緊急手術だ!!」

笑いながら、ドリルの男はドリルをジャックの眼球に近づけていく。

「オハギのやりすぎだぜオマエ!オイ!しっかり狙いな!」

「ヒーヒヒヒ!ヒーヒヒヒ!!」

ナムアミダブツ!だがこの地獄絵図は、新時代においてはありふれすぎた「チャメシ・インシデント」なのだ!

モハヤコレマデー!ジャックは失明を覚悟!奥歯に仕込まれた遺言マイクのスイッチを押そうとした!


◆ ◆ ◆


KRAAASH!!その時!後方から爆発音とともに無数の弾丸が新幹線めいた速さで飛んでくるではないか!!

ヤングジャンキー達は各々バク転を5回行い弾丸を躱し、戦闘態勢を取る!

そして暗黒から小柄な影がゆらりと姿を現した!ヤングジャンキー達はリンチをストップし、その影を睨みつける。

その影もまた戦闘用ビジネス装束スーツに身を包んでいた、だがその姿はジャックのそれとは大きく異なっていた。

暗闇に光るのは胸元の特殊ポリスのエンブレム、そして黒いショートヘアにつり目の…女性だ!そして…おぉ!見よ!彼女の左腕はガトリング砲となっている!

「こんばんは、ヤングジャンキーの皆さん、夜な夜な公務執行妨害だなんて、良いご身分ですね、本当に」

冷淡な口調で話す彼女…そう、ジャックの同僚であるガジェット・コシミズは、ヤングジャンキー達を睨み返した。

「ファック!半アンドロイドだ!!厄介だなあ!!オイ!!」

拳銃の男が叫ぶ、そう、ガジェット・コシミズは半アンドロイドなのだ。

半アンドロイド、精神や脳、頭や一部の内臓を除き、身体をほぼ機械へと組み換え改造手術を行った者の事を指す。

身体は鋼のように硬く、正に全身甲冑と言える、しかし外観は人のそれとほぼ見分けはつかない、食事もできるし、髪の毛も伸びてくる、人の精神や心も失うことはない。

カラテに精通せずとも、華奢な身体と油断した相手に確実にカウンターを与えられる、故に半アンドロイド化手術を行うポリスは少なくないのだ。

思わぬエントリーに拳銃の男は取り乱す、しかしヤングジャンキー達は冷静に、そして狂気に満ちた声をかける。

「ヒーヒヒヒ!落ち着けよ!一匹増えたんだぜ!?ヒーヒヒヒ!!」

「ダブルスコアだぜ!ヒャッハー!!」

そう、彼らにとってポリスのエントリーはポイントアップに過ぎなかった、フォアグラがキャビアを乗せてやって来たも同然なのだ。


◆ ◆ ◆


ガジェットは一度ジャックを見る、血は止まったようで命の危険は無い、少し安心したガジェットは、ヤングジャンキー達に意識を戻す。

「全員動かないでください、武器を離して、ハンズアップです、ポリスに対する暴力行為は、とても罪が重いので、逮捕は避けられません、しかし、大人しくしていれば優しくします、暴れられると、私たちも、あなた達も、困ると思いますので、それに…」

「うるせえ!公務員の話は長くてキライだ!ビジネスは要点を簡潔に話して取引するんだよ!!」

ヤングジャンキーは、狂気に侵されてもビジネスマンであった。

「まだ私が話しています、お互いヒートアップしても、話になりませんから、ですので、今はとにかく、落ち着いて…」

「うるせえっつってんだろ!オマエと話しても金にならねえ!オマエからやっつけてやる!ヒャッハー!!」

確かに話の長いガジェットの言葉を遮り釘バットがシャウト!そして迷うことなくガジェットの元へ走り出す!!

バッファローめいたパワを秘めた釘バットのターゲットはガジェットの頭だ!無慈悲にもそのバットでガジェットを頭ごと吹き飛ばすつもりだ!!

「オレは差別はしねえ!オレのバットは老若男女いかなる時でも平等だぜ!ヒャッハーッ!!」

「受け身を取れ!ガジェット!!そいつらに常識は通用しない!!」

ジャックは叫んだ!いくら半アンドロイドといえど、釘バッドをまともに食らったらネギトロは免れない!

しかし、ガジェットは何故か棒立ちだ!!何を血迷っているのだ!?釘バッドに威圧され、動けないのか!?

「何やってるんだガジェット!早く…」

「判断がスローだぜオマエ!ホームランだ!!ヒャッハー!!」

ジャックの叫びも虚しく、イビツなクギバットがガジェットに振り下ろされる!


◆ ◆ ◆


グワアキーン!闇の中で鳴る鈍い音、「肩凝ってしまう」のネオンサインがバチバチと光った。

ジャックは反射的に目をつぶってしまう、ガジェットがネギトロになってしまった、ガジェットは……否!おお!見よ!ガジェットは釘バッドを頭で受けるも、なんと無傷だ!!

「あれえ?何かおかしいぜ?」

「こんなのテストに出ないぞ?」

ヤングジャンキー達が顔を見合わせる。

ガジェットの頭を粉砕するはずのクギバットは、まるで飴細工のように、頭の輪郭に沿って歪んでいた!

「すごいでしょう、頭部の強化カーボン移植手術、先程してきたんですよ、まだ認可は降りてませんが…これは、上部には内密にお願いします」

「認可が……!?…まぁ、無事でよかった、あまり心配させるなよ…」

ジャックはそっと胸を撫で下ろす、公務員の違法行為には目が余るが、今はとにかくガジェットのネギトロを見ずに済んだのだ。

「見ての通り、私に打撃は効きません、大人しく、ホールドアップをお願いします」

ガジェットは再度忠告をする、しかし…

「チッ!めんどくせーなあ!オイ!ズルしやがって!スッゾオラー!!」

「ヒーヒヒヒ!解体されたいか!?ナァ!?そのキュートな顔は俺好みだしよ!!」

「それならバラバラにして政治家のエロジジイどもに売り飛ばしてやろうぜ!ヒャッハー!!」

もちろんガジェットの忠告に耳も傾けず、ヤングジャンキー達はネイビー・スラングでガジェットを恫喝する。

「本当に、常識が通用しないみたいですね、面倒ですが、ボディーランゲージが、とても必要のようです」

ガジェットは溜息を一つ、首をポキッと鳴らし歩み寄った。


◆ ◆ ◆


「イーヒヒヒヒ!俺達にボディーランゲージだとよ!!」

「オワライバングミだぜ!なあ!オイ!!」

ヤングジャンキー達は笑う、彼らもカラテに精通しており、並大抵のボディーランゲージは通用しないだろう。

「ランチェスター・ローズ知らねえのか!?オイ!!カラテのパワが互角の時は、数が多い方が強いんだよ!!」

拳銃の男のスゴイ級戦闘知識により、ポリス側の劣勢は明らかだ!実際ヤングジャンキー3人に対しポリスは2人、しかもジャックは負傷しているのだ!

しかしガジェットは不敵に笑う、余裕の表情だ!まさか勝算があるとでも言うのか!?あまりにも不利なこの状況で!?

しかも負傷したジャックを護衛しながらの戦いになる!ジャックは……いや、待て!ジャックの姿が……無い!!

「アレ?さっきのゴリラがいねえぞ?」

「俺はゴリラじゃない」

突如後方から貫禄のあるボイスが轟く!ヤングジャンキー達は振り向き驚愕!!タフガイなジャックは一瞬の隙をつき、ハサミウチの陣形を取ったのだ!!

「ガジェットのおかげだな、これでランチェスター・ローズは通用しないぞ」

そう言ったジャックは上着を脱ぎ捨てる……おお!見よ彼の体を!!がっしりと鋼鉄めいた彼の肉体美を!!ジャックはボデ・ビルの構えを取った!!

ジャックは自身の超回復力によりパワマックス!更にハサミウチの陣形により、形勢は一気に逆転する!!

「ファック!こっちはボデ・ビルかよ!オイ!!」

「ヒーヒヒヒ!どうするよ!?あのゴリラのパワは相当エレファントだぜ!?」

分かりやすく狼狽えるヤングジャンキー達、しかし彼らも諦めたわけではなかった!

「オレがピストルで半アンドロイドをやる!オマエら2人はゴリラをやれ!!わかったか!?オイ!!」

「ガッテン!」

「ガッテン!」

ヤングジャンキー達は戦闘態勢に入った、2人のポリスも身構えている、彼らはお互いの中心点を軸にして、円を描くようにじりじりと歩み、間合いをうかがう。

こうして深夜の裏路地に、己の信念をかけたイクサのノボリが上がったのだ。


◆ ◆ ◆


「ヒャッハー!!!!」

先に仕掛けたのは、釘バッドだ!気勢とともに釘バットの腕がムチのようにしなり、遠心力を用いてバットを振り回す!そのエレファントレベルのパワを纏った一撃が、ジャックに炸裂した!!

「フンハーッ!」

しかしその1秒前に、ジャックはその場ですくっと立ちポージング、するとどうだ、ジャックの全身は文字通り鋼鉄のように硬くなり、釘バットを弾き返したでは無いか!

グワアキーン!金属同士がぶつかった時の独特の異音が裏路地のビルの間で反響する、これぞジャックが過酷な残業の末生み出した、ガマン・ジツであった!釘バットに隙が生まれる!

「アイエッ!?」

「これはカウンターだ、いくぞ!」

ジャックの右手はサニーパンチの構えを取る、そしてすぐさま、秒間10発の猛烈なパンチを叩き込もうとした!しかし…

「ヒーヒヒヒ!オレを忘れんなよ!ヒーヒヒヒ!!」

すぐさまドリルの男がリカバリ!自身の腕ほどある巨大なドリルに持ち替え、ジャックに襲いかかる!!

「ヌゥ!掘削機は厄介だ!」

「ロマンだぜぇ!ドリルは!ヒーヒヒヒ!!」

ジャックは後退の判断をとる!いくら鋼鉄の肉体を持ったジャックでも、肉体自体を削り取られてはダメージは計り知れない!

「フンハーッ!」「アイエッ!?」「イヤーッ!サニーパンチ!」「ヒーヒヒヒ!」

バットが振り下ろされ、ジャックが弾く、金属音が何度も響き、ドリルがリカバリ、釘バットとドリルの猛攻、ジャックのカウンター、何度も、何度も、何度でも繰り返す!

相手のコンビネーションは抜群だ!ジャックは手出しができない!しかし相手にとっても手出しができないのは同じ事だ!

これは無論長期戦の様相を呈する!サウザンド・デイズ・ショーギの古事を思い起こさずにはいられない!!


◆ ◆ ◆


一方その後方では、ガジェットと拳銃の男がお互いを睨み合っていた、双方とも遠距離プレーヤーだ、その様子は、ウェスタンのガンマンを彷彿とさせていた。

2人の間に緊張と静粛が走る……先に仕掛けるのは…ガジェットだ!

「ファイアッ!!!」

ZAAAAAAAP!彼女の左腕のガトリングが炸裂!秒間50発の弾丸が拳銃の男に降り注ぐ!

「ファック!いいサスペンション積んでやがるぜ!オイ!!」

ブレの無いガジェットの銃撃はまるで槍の雨のようだった!弾丸はたくさん打つと実際当たりやすい、しかし拳銃の男はきりもみ回転ジャンプで弾丸を回避!ガジェットも追いかける!

ガジェットのガトリング!しかし拳銃の男は回避し続ける!あまりにも反射神経が良い!

「なぜ当たらない!?こちらは、ガトリングなのに!!」

「バカ!ガトリングじゃ精密な狙撃はできねえだろう!オイ!!」

ZAP!!拳銃の男は走り回りながらも正確に、ガジェットの関節部を狙って狙撃!!ガジェットのガトリングアタッチメントを、関節から吹き飛ばすつもりだ!!

「グッ…!」

カキンという音と共に弾丸は関節部にクリーンヒット!しかし、ガジェットの半アンドロイドボディは、銃弾を弾き返した!!

「ファック!いまのは関節当てただろ!何回か当てればバラバラになるのかよ!?オイ!」

「この男、狙いが正確すぎる!このままだと、私の身体が持たない!」

こちらのバトルもゴジュッポ・ヒャッポだ!互角同士のこのイクサ、お互いのスナミナや弾丸が底を尽きるのを待つしか勝算は無いのか!?


◆ ◆ ◆


このままでは本当に埒があかない、しかし、長期戦を呈されたこのイクサに一石を投じたのは……ドリルの男だった!

「アイエッ!?…ブ…ブッダ…!?」

「ワッザ!?オイ!しっかりしろ!何してんだ!」

ドリルの男が急によろめく、ジャックは戸惑いを隠せず動きが止まる!ジャックにポイズンやサイキックカラテは扱えない、ガジェットも交戦中、サポートは望めない、では何故ドリルはダウンしているのだろうか!?

「ブッダ……おお!ブッダよ!見ているのですか!?ブッダ!!」

「ハーッ!?オーバードーズだ!オマエ、あのオハギ全部使ったのか!?取りすぎだと言っただろう!このバカ!!」

ウカツ!ドリルの男はオハギ中毒に陥りオーバードーズした!!血液中のアンコ成分が限界値を超え思考がオーバーヒート!ブッダの幻覚に囚われてしまったのだ!!

ドリルの幻覚の中でブッダがロープを垂らす、ロープの先は天国だ、ドリルは幻覚の中で、ロープを上り始める!!

「ブッダ…おおブッダ…」

「しっかりしろ!ブッダはいねえ!オマエ、無宗教だろう!!」

釘バットが叫ぶが、その声はドリルにはもはや届くことはなかった、帝国中のボンズ達が過酷な修行を得てさえ辿り着けない領域に、ドリルは踏み入れようとしているのだ!

ジャックはその様子を怪訝な目つきで眺める、しかし、相手のリカバリはもう使い物にならない、絶好のチャンスだ!!

「イヤーッ!サニーパンチ!!」

「アバーッ!?」

秒間10発のサニーパンチがドリルの男の胸板を捉える!ドリルの男の身体が波打ち、衝撃波が内部に浸透!心肺に直接ダメージを与える!!

「アバババババ!ブッダ!ブッダ!!」

ドリルの男は吐血を許さざるを得なかった!幻覚の中でロープは千切れ、地獄の底でオニに棒で叩かれ始める!!

「イヤーッ!サニーパンチ!!」

「アバーッ!?」

ジャックは間髪入れずドリルの背中にサニーパンチ!ドリルは吐血!更に頭をボーリングボールのようにホールド!ドリルは必死に抵抗した!オニ達に、頭部を握りつぶされてしまう!

「トドメだ!サイドトライセプス!イヤーッ!」

BAAAAAANG!!ボデ・ビルの強化ポージングを行った後、ジャックはドリルの頭を壁に打ちつけた!!ドゴオという爆弾めいた音とともに、ドリルの頭は無慈悲にも壁へとめり込んだ!!

「アバーッ!?」

ナムサン!哀れ!オブジェと化したドリルの男は壁の中で泡を吹いて失禁!ブッダの幻覚が遠のき、ついに動かなくなった!戦闘不能!!


◆ ◆ ◆


「ファック!オネギ!オイ!!オネギがやられた!!」

拳銃の男はオブジェと化した仲間を見て驚愕!分かりやすく狼狽え足が止まる!!しかし、そこに一瞬生じた隙を見過ごすガジェットではない!!

「捕まえましたよ、拳銃の、スナイパー!」

「アイエッ!?」

ガジェットは背後に回り込み、拳銃の男を背中から抱きしめた!拳銃の男はもがくが、半アンドロイドの強化パワによりガッチリとホールドされ、身動きができない!!

「これで、逃げられないでしょう、今から、電気ショックです!」

「ファック!離せよこのアマ!ヤメロ!オイ!!」

「やめません、電気ショックです!」

ガジェットは自身に備わる違法改造の心肺停止復帰システムを起動した!かかる電圧は…およそ300ボルト!!公務員の違法行為だ!!

『こちら心肺停止復帰システムです、こちら心肺停止復帰システムです、モード、とても強い、モード、遥かに強い、離れて下さい、離れて下さい』

機械音声が淡々とシステム説明を始める、その心の込もっていない冷淡な声は、正に死の宣告であった!!

「ファック!ヤメロー!オイ!オマエも感電するぞ!!」

「半アンドロイドなので、無意味です、やめません、電気ショックです!」

ナムサン!ガジェットに慈悲はなかった!拳銃の男はもがくが、半アンドロイドのパワには勝てるはずがない!もはや彼に勝ち筋などは無かった!!

『蘇生始まります、よろしくお願いします、カウントダウン、10、9、8…』

「ファック!ヤメロー!ヤメロー!」

「やめません、電気ショックです!」

機械音声が死のカウントダウンを行う!拳銃の男はもがくが無意味!ガジェットに慈悲はない!!

『4、3、2、1…』

「ファック!ヤメロー!ヤメロー!」

「やめません、電気ショックです!」

機械音声が死のカウントダウンを行う!!拳銃の男は更にもがくが無意味!!ガジェットに慈悲はない!!!

『GO』

BZZZZZZZT!!カウントダウンの後、およそ300ボルトの電圧が、バチバチと青い稲妻を纏い拳銃の男を襲う!!

「アババババババババーーーッ!?」

拳銃の男はすぐさま感電!痙攣を起こし失禁した!見るからに戦闘不能!カチグミが故に傍若無人の限りを尽くしていたヤングジャンキーは、無惨な姿となった!

『おめでとうございます、助かりました、ありがとうございました、シャットダウンします、シャットダウンします』

機会音声のプログラミング祝辞とは裏腹に、拳銃の男は痙攣したまま動かなくなった!!ナムサン!!!


◆ ◆ ◆


「ア、アイエエエエ…」

残骸めいた相棒達の姿を見て、釘バットは失禁した。

彼にはもう戦う意思はない、鍛え上げたカラテも、2人のポリスの前では無力、その厳然たる事実を再確認し、戦意喪失した。

「まだやるか、ヤングジャンキー?」

ジャックは貫禄のある、低く怒りがこもった声で、釘バットに問いかける。

「やらねえ!」

ジャックのただならぬオーラに気圧され、情けなくともホールドアップだ、オブジェと化した相棒達を見る限り、釘バットに勝ち目は無い。

「情報はやる!自首だ!命は助けてくれ!」

「命は助ける、だが情報はいらぬ」

「エッ?」

「これからやるのは、イッポーテキにカラテだ!!」

「ア、アイエエエ…!!」

ナムサン!釘バットは失禁しながら尻餅をつく!更に気絶!!恐怖により失禁と気絶を繰り返した!!

ジャックは悪は許さぬ!故に償える罪は己の手で償わせるのだ!!ジャックの慈悲なき宣告は、彼を絶望の淵へ追い込むには容易だった!!


◆ ◆ ◆


「サイドトライセプス!イヤーッ!」

「アバーッ!?」

ドゴオという爆弾めいた音とともにオブジェが増殖する、ガジェットは遠巻きにその様子を見ていた。

自分も生きている、ジャックも生きている、この殺伐とした新世界のイクサで生き残ったのだ、ポリスは死と常に隣り合わせ、いつ別れが来てもおかしくは無かった。

生きているという現実を噛み締め、ジャックの元へ向かう。

「お疲れ様でした、ジャック、無事でよかった、ジャックのシロボシがなければ、拳銃には勝てませんでした」

「こっちこそ助かったよガジェット、君が来なければ死んでいた、本当にありがとう」

お互いがユウジョウを交わし合い握手する、これはポリスが無事を確かめ合うローカルセレモニーだ。

「早く帰りたくて近道をしたらこれだ、ズルはするもんじゃないな」

「強化手術の帰りに、たまたまですが、救難信号をキャッチしました、運が良かった」

ポリスは命の危機に生じると、胸元のエンブレムが心拍数の変化を察知し救難信号を発する、たまたま無法地帯の雑居ビル街で違法改造手術を行ったガジェットの元へ、救難信号が届いたのだ!

ヒニクにも、違法行為によってジャックは助かったのだ、しかしガジェット、違法行為を続けるガジェット、ポリスのお前はそれで良いのか!?

「いいんです、私は強くなりたい、強くなればなるほど、多くを助けられる、力が全てです、違法改造手術は好きです」

「お前、本当にポリスか?」

ジャックはため息をついた、彼女のただ重なる違法行為には目が余るが、それにいつも助けられているのだ。

その事実が余計にジャックを葛藤させる、ジャックの信念に反して、この殺伐とした新世界では、どんな手段を用いても、力が全てなのだから。


◆ ◆ ◆


「ハァ、運もいいが、悪運も相当に強いな……さて、ヤングジャンキー達の逮捕手続きをしよう、休んでる暇はない」

「ほうっておいていいですよ、そんな奴ら、どうせ、直ぐ出所します、カチグミですから、仕事が増えるだけです」

ガジェットは、あまり公務に励む気は無いようだ、ガジェットは違法改造は好きだが、仕事はそうでもなかった。

「あのなぁ…ガジェット、俺たちは税金で暮らしてるんだ、市民の為にも、仕事をハンコにはできない」

「ジャックは真面目すぎです、サボれるところは、サボらないとダメです、だから、いつも残業続きで、咄嗟のカラテが使えないのでしょう」

「ヌゥ…」

ジャックは言葉に詰まる、休んでる暇など無いのも事実だが、セルフ管理メントも仕事のうち、いざイクサに立ち会ったとしても戦えなければタダのコシヌケだ。

「オブジェにマルコゲ、彼らは相応の報いを得てます、市民もきっと、許してくれるでしょう」

「しかしだなガジェット、俺たちは…」

「ジャック、おかしいとは思いませんか」

ガジェットが言葉を遮る、そのただならぬ気迫にジャックは口を噤んだ。

これは怠け者のエクスキュースではない、いつにも増して、ガジェットは真剣な面持ちだ。

「ジャック、ヤングジャンキー達が、なぜ、こんな危険な裏路地で、集まっているのか、おかしいとは思いませんか?」

「ヌゥ…安直に違法取引だろうと言いたいところだが、別にここで無くても良いとは思うな」

ジャックの言う通りカチグミの違法取引は常習化しており、混沌にまみれたこの社会においては日常茶飯事だ。

「確かに俺がヤングジャンキーなら、ギロッポン・クラブハウスか高級スシ・バーでユウジョウを交わすだろうな」

そう、貴族でありビジネスマンであるヤングジャンキー達が、路地裏をツドイホームにしているのはあまりにも不自然だった。

ガジェットはその違和感を見逃さなかったのだ、しかし、それでは何故彼らは路地裏に、それも危険な深夜に集っていたのであろうか!?

「ジャック、先程の戦闘中、サーモグラフィーで地下を見ました、この辺り一帯、異様な空間が、地下に広がっています」

「何だと?この辺りに地下街や核シェルターは無いはずだ」

ジャックが思考を巡らせることわずか1.4秒!ジャックのスゴイ級マップ知識、ガジェットの違法改造サーモグラフィーによりこの裏路地が、あまりにも普通とかけ離れている事は明らかだった!

「プロテクトがかかってるので、中は分かりません、しかし、ヤングジャンキーの様子からして、無関係とは、思えません」

「成程…そうなると、どこかに入り口があるかもしれないな」

ジャック達はあたりを見渡した、しかしあるのは雑居ビルのみ、よくある裏路地に過ぎなかった。

「令状が出てないから家宅捜査も出来ないな…アジトを隠すなら雑居ビルの中、家に火がついていれば、泥棒してもバレにくい」

「しかし、このような人通りの少ない場所で、あからさまにビルに入れば、尾行されたら、バレてしまいます」

「となると、雑居ビルはカモフラージュか…?」

ジャック達は再度あたりを見渡した、しかしあるのは雑居ビルのみ、よくある裏路地に過ぎなかった。


◆ ◆ ◆



「長考だ、ガジェットは護衛を頼む」

「了解」

ジャックはゼンを組み、瞑想の体制に入った、これは一定の呼吸法を用いて集中力を極限まで高めることにより、新陳代謝を高め己にバフをかけることができる古代カラテのうちの一つだ。

五感を研ぎ澄ますことで動物的本能行動力を高め、周囲の状況把握、身体回復力の促進、更にカラテの強化などが見込まれる。

その野生動物的な力はアンドロイドパワも上回ると言われる、並大抵のカラテでは無いのだ。

「スゥーッ!ハァーッ!スゥーー、ハァーー」

ジャックは呼吸を繰り返す、人気のない静かな裏路地に、呼吸が木霊する。

ジャックは五感を研ぎ澄まし周囲の状況を探る、ガジェットのアタッチメントが軋む音、風の温度、ネオン看板の光、砂埃の味。

目を閉じていても、ジャックはその周囲の様子を手に取るように把握していく、まるで超高性能サーモグラフィーを、それも何台も使用しているかのように。

ジャックはゼンを続ける、吹き抜ける風を感じ、ヤングジャンキー達が痙攣する音を聴き分ける、そして漂うほんのりと甘いアンコの香り………アンコ!?

このような場所で香るはずのない微量なアンコの香りを、ジャックは逃さなかった!そしてその香りから、周囲よりほんの少しだけ暖かい風の流れを感じ取る!!

「…ガジェット、アンコ、アンコだ…アンコの香りと、暖かい風が、どこからか流れている…地面、地面からのようだ…」

「了解、地面を重点、ジャックは、ゼンを解除してください、ありがとうございます」

ジャックはゼンの姿勢を終える、これ以上のゼンはハートアタックを誘発させるため、危険だ。

ガジェットは違法改造サーモグラフィーで地面を見渡した、冷たいアスファルトに散乱するゴミ、カラスの死骸…死骸にしては、妙に暖かい。

ガジェットはそれをかき分けた、どうやらカモフラージュの人形のようだった、そしてついに、一箇所だけ温度の違うマンホールを見つけた!!


◆ ◆ ◆


「ジャック、マンホールです!このマンホールが、おそらく、キンボシでしょう!」

「了解!よくやったガジェット!」

ジャックはその異様なマンホールをこじ開けた、同時に漂う温風と光、強いアンコの香り、そして…そこは、何らかの施設の入り口となっていた!

「まさか本当にアジトがあるとはな、それにこのアンコの香りは…」

「恐らく、違法オハギ工場でしょう、ヤングジャンキーを使ってまで、隠したかったのか」

オハギ、モチゴメにアンコを塗した、表向きは伝統的な甘味である、しかしアンコの過剰摂取はオーバードーズを誘発させ、異常興奮や覚醒をもたらす。

その成分を悪用し、アンコ成分を致死量ギリギリまで配合した違法オハギを販売する暗黒企業も少なくない、アンコ中毒に陥った哀れな市民は、違法で高価なオハギ無しでは生きていけなくなるのだ!

ブッダも恐れぬ倫理も節操も持ち合わせていない所業!これは裏社会ビジネスにおいて、あまりにもありふれた光景だった!

『出勤ドスエ、出勤ドスエ、1分以内にIDカード提示重点ドスエ』

施設管理電子マイコAI音声が機械的に出勤管理を行う、マンホールの下に、あるべきものでは全くない。

「やはり違法オハギ工場で間違いないようだ、これで令状の必要もなくなったな」

ジャックはオブジェと化したヤングジャンキーからIDカードを拝借し、カードリーダーにスキャンする

『オネギサン、ハヤブササン、おかえりなさいドスエ、見回り重点、オネガイシマス、ボーナス支給、ガンバルゾー!』

イヨォー、という電子音声と共に入り口付近の無機質な箱から、一般サラリマン2ヶ月分の金とオハギが支給される。

「やはり、ヤングジャンキー達は、ガードマンでしたか、彼らの目的は、このボーナスだ、それに、このオハギ、恐らくドリルの男が服用していたもの、違法オハギでしょう」

ガジェットは、そう言いながら金を懐に入れる、横領!!

「ジャック、これから、また残業になります、大丈夫ですか?」

「あぁ、残業は大好きだ、しかし金は置いていけ、上層部にバレたら面倒だ」

「む…」

ガジェットは不服そうな顔で金を戻す、なんとも奥ゆかしいやりとりを交わし、彼らは光の奥へ、暗黒アジトへと侵入していく。

私利私欲は多少はあれど、全ては市民を守るため、混沌にまみれたこの世界に、平和の光をもたらすため。

彼らポリス達は、暗黒企業に立ち向かうのだった。


続く。

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