キャラクターの背中を押す

#この仕事を選んだわけ

私はキャラクターレタッチャーをしています。
知る限りでは、そのような役職の仕事は世の中にありません。
ただし、そのように名乗る必要があり、便宜上考案しました。

2つの世界がある

仕事の内容を書く前に、大前提を共有させてください。
日本というキャラクター大国において
ネットやテレビ、ゲームの世界で数多のキャラクターがファンを魅了しています。
その全ては、ほぼ間違いなくRGBという鮮やかな世界です。

一方で、キャラクターを採用したグッズを量産するためには違う世界に移動する必要があります。
クリアファイルやアクリルスタンドを始めとした印刷を主とするグッズは、
CMYKという名前のルールを採用して量産されます。
が、一つ問題があります。
キャラクターが最も輝いているRGBという世界が再現できないのです。

比較で見て頂くのが早いと思いますので、ご覧ください。

画像1

赤・黄緑・青の鮮やかさが無くなっているのがお分かりでしょうか。
また、ピンクや水色はもはや別の色になっています。
大なり小なり、ファンの皆さんが購入するグッズは
このように鮮やかさを失った状態が普通です。
今をときめく、それこそ電車内のつり革広告で展開するようなキャラクターであっても例外はありません。まったく違う色で印刷され、全く違った印象で広告展開されています。2022年の今現在も、です。

※このノートではCMYK=鮮やかさを失うと簡潔にまとめていますが、ラバー材料など素材自体が鮮やかなグッズや、インクジェット印刷、特色インキを使った場合など例外は多々あります。
以降の説明もポスターやクリアファイルなどの平面印刷物を想定して話を進めます。

当たり前から量産されるゴミ

この大前提の前で、私がキャラクターレタッチャーという仕事を生み出す経緯に入ります。

グッズにする際にキャラクターが鮮やかさを失うのは、制作をするデザイナー、発注するクライアント、キャラクターの権利を持っている会社の共通認識です。

また、支給されたキャラクターの色味を勝手に変えることは御法度です。デザイナーは受け取った状態を維持してデザインを行い、グッズにしていきます。

この時に大きな問題が起こります。
印刷された状態ではキャラクターの色味が違いすぎて、量産化の了承を得られないのです。先ほど図に示したような大前提が例外なく発生するためです。
データは間違いなく支給された物であっても、いざグッズになった時の”印象”がかけ離れていては元も子もありませんが・・・。

もしかしたらノートをご覧になっている方で、
「あのグッズは随分と色が違ったなぁ」なんて浮かぶ方もいるのではないでしょうか。

さて。
グッズにするにあたり権利元からは大体1回は修正指示が入ります。
量産前に言われるのであれば、まだ救いはありますね。直せばよいのですから。
しかし、私が経験したのは量産後に不認可を貰い、大量のゴミを積み上げるものでした。誰も間違いを犯していないのに、キャラクターのクオリティは損なわれている。そして、ゴミが生まれる。それも家庭ゴミのレベルではありません。立派な産廃としての物量です。
このサイクルを何度か経験をする内に、私の中に沸々と湧き上がる思いがありました。

覚悟を、決めよう。

特性を理解する

印刷の色味を決定づけるのは「データ」「仕様(ポスターなのかクリアファイルなのかetc)」「印刷方式」と、おおざっぱに言えば3つに分けることができます。

・データ
昨今は印刷の精度が上がっているため、データ通りに出てきます。
印刷された状態で顔が青白くなっていれば、データでも同じです。
この精度を理解した上で、キャラクターの頭髪、瞳、肌、衣装に至るまで元の色味に可能な限り近づけることを目的に、個別の調節を行います。
また、色味と同様に視認した際の”立体感”が同じようになっているかをデータ上で調節をします。

・仕様
印刷をする物体が青白いコピー用紙であれば、印刷されたキャラクターも同様に青白さが足されます。このようにグッズの仕様(基礎)が要因で色味が変わることがあります。
であるならば、データ上でその分を逆算しておくことで、本来の色味を維持することが可能です。

・印刷方式
ご家庭にあるインクジェットプリンターやオフィスにあるレザープリンターでも印刷方式が違いますが、インキメーカーの違いでも色味が別物になります。
もしも傾向が見えてきたら、事前にデータ上で余分に足されてしまう色味を減らしておけばよいのではないでしょうか。

お気づきでしょうか。
御法度であるデータ調節を、3つの要因を考慮して行っています。

メリットは次の通りです。
・キャラクターが、ファンが見た印象に近い色味になる
・量産前後で不認可を受けるリスクが軽減される
・量産時の個体差を狭めることができる

次に、デメリットです。
色味で指摘が入った場合、責任が一手に迫ってくる

デメリットの方が計り知れないですね。
もちろん各メーカーさんも何もしないわけではありません。
やれる範囲での微調節はやっています。じゃないと商品化はできないでしょう。

ただし、やっていることと、キャラクターの魅力が最大限活かされたグッズであるかは別の話です。
現に黒髪のキャラクターがシルバーアッシュになっていても、全国展開されています。なので、徹底的なこだわりは本来必要ありません。商品化のハードルもそこまで高くないからこそ、世の中に同じキャラクターのグッズが数多販売されています。

じゃあ、なぜキャラクターレタッチャーを名乗ってまでリスクを背負うのでしょうか。
社会人を経験されている方から、自ら取りたくない選択だと思います。
最大の理由は、私が元データを見られる立場だからです。

あなたはもっと、ファンを魅了できると思うから

私は仕事上、もっとも画質が高い状態のキャラクターデータを見ることが出来ます。これはファンの立場では見ることが出来ません。大なり小なりレベルを落としたデータになってグッズやウェブサイトに展開されます。
その際、アニメーターの方や漫画家の方の筆跡が再現しきれていない部分も出来ています。

この1点を知っているからこそ、グッズ仕様の範囲で、最大限キャラクターの魅力を発揮して欲しいと願ってしまうのです。
それほどまでに様々なキャラクターは細部まで描かれ、こだわっています。

あなたはもっと輝ける
ファンを魅了できる
美しく(格好よく)見てもらえる

私がリスクを負う理由は、関わっている方々への尊敬の念が背中を押してくれるからです。

キャラクターファンの方で何らかのグッズを購入されている方は、こんな長文を読んだ後に
「立ち絵を載せるだけグッズ」の中にさえ、最大限の努力を行ったグッズがあるらしいとだけでも思って貰えたら幸いです。

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