逃亡

分かってた。
ただ、君が羨ましかった、いっそ妬ましく思っていた。
強く、強く憧れていた。
君は暗闇に光るただ一点の、この身を引き裂くような、それはそれは強い光だった。

君の身にナイフを突き立てて心臓と脳みそでも喰らえば少しは君に近付けるのだろうかと、いつも君を殺す夢を見た。
君の根幹を奪って私のものにしたかった。
私は君になりたかった。
絶望を知りながら、絶望を知るからこそ光り続けられる君が、君のそれが、楽に手に入ればいいと思った。

何かの間違いで縺れ込んだベッドの中で、喰らうように噛み付いた。
その美しい歌声を作る喉に、どうしていいか分からない程感情的にさせる歌詞を書く指に、鼓動をやめない心臓がある胸に。
君に近づこうとすればするほど、君の光に照らされ私自身の醜悪さが露になるようで、ただただ苦しかった。
いっそ君を殺せてしまえば良かったと、ひどく泣きたくなった。

遠くで揺らめく星は手を伸ばしたって届かないと知っているのに、どうしてか届く気がして手を伸ばす自身の愚かさを許せなかった。
月に手を伸ばしたところでこの手が触れることは無い。
そして選ばれぬ私は宇宙船に乗ることも無い。
そういうことなのだ、そういうことなのだと、自傷気味に諦めるような言い訳をした。

少し体温が上がった君を見て、受け入れも拒みもせず、ぐちゃぐちゃにならない君を見て、どうしたって手に入らないことを心臓の奥まで飲み込んだ。
諦めと言い訳ばかりの逃亡者には当然の報いだった。
いっそ世界がひっくり返って、私が星になれればよかった。

夜風の冷たい星空で、どうしても涙が止まらなかった。
少しでも星に近付きたくて登った階段も、空に届かないのがどうしても寂しくなった。
心臓から全身へ拡がった痛みがどうも私に残された唯一な気がした。

近付けないのならいっそ遠い所まで落ちてやろう。
そうして重力に従うのは、とても楽だった。

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