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自分の心を抱きしめる

私が、心を壊さないために、崩れかけた心を優しくすくい上げて大切に抱きしめるために、ただそれだけのために書いたもの達。
歌をイメージしたり、祈るような気持ちだったり、ただ眠るような心地だったり、色んな感覚の中で書いているから、統一性は無いと思う。

自分とは関連性がない創作の話ばかりだけど、確かに自分を大切にするために、自分の心を抱きしめるために書いたもの。
こういうのはベッターに置くようにしているのだけれど、こちらにも少しだけ。





生命の夢


祝福されて生まれたはずだった
時間を戻せるのなら、違う私に命をあげる。
愛された時間があったことを、この名前を抱いて信じている。

悪夢を見ていた。あの胎の中で。
生まれて死んで、廻り環る命の悪夢を。
弾けて落ちて花が咲く、世界の巡りを焼き付けていた。

今日も目が覚めて、朝日がカーテンを貫いて、優しいフリして喉に心臓に杭を打つ。
世界に解けて消えることも、生き返ることを許さない。
それならば生まれることも許さないで欲しかった。

大地を駆けた日々があった。
天空を仰いだ日々があった。
大海に揺られる日々があった。
世界に抱かれて死んでいた。

誰かと手を繋いで、生まれなければよかったと穏やかに笑った記憶があった。
死ねないから生まれなかった未来を選択しようと幻を願った。
君が誰だったか分からないけれど、似た存在の、顔のない誰かに救われている。

重力に従って空を飛んでも消えない火が、いつかの胎の中くらい暖かければよかった。
今日も夕日が私を焼いて、その炎くらいは暖かくあって欲しかった。
いつかに私を包んだ水すら私を受け入れてはくれなくて、私に火を灯した炎も私を焼いてはくれなかった。

いっそ同じ夢を見よう。
知らない人の水の中で、もう一度同じ悪夢を見よう。
私を愛する私のために、私を愛さない誰かのために。
私はもう一度悪夢を見るために。





夏の温い海の温度を覚えている。
心地よく世界から音をかき消す波の音と、足を濡らす漣に揺らめく自分の影と、誰もいない非日常感が、海の向こうへ進めばどこかへ行ける気がして、何かから逃げ切れるような気がして、新しい世界と出会えるような気がして、歩み出せずに座り込んで濡れたあの感覚を、体が覚えている。

暗闇に浮かぶ水面に吸い込まれそうだ。
別にいつも通りの日々だった。
バイト終わりに気が向いたから僕の海に寄ったんだ。
水面が、手を振っていた、ように感じた。
ざぶざぶと腰まで浸かってみると心に広がる暗がりが海の暗闇に溶けていくようで心地よかった。
脱力して、落ちるみたいに海へ沈むと安全で懐かしい何かに包まれたみたいで、安心した。
水面から顔を出して深呼吸すると、瞼の裏で星がパチパチと弾けるみたいに白い粒が輝いていた。
目を開けてみると怖いくらい綺麗な星空があった。
このまま溶けてほどけるみたいに、そう願ってみても微睡むみたいなこの生が少しだけ心地よくもあった。
でも、それでも、やっぱり少し辛かった。

濡れた服が重たくて、海の中で立ちつくしたまま動く気になれなかった。
腰より少し上を波が優しく撫でている。
このまま、心の奥の暗闇ごと海に溶けて消えてしまえれば良かったのに、なんて、願っても叶わないのに。
叶える気も、起きないくせに。




あとがき、みたいなやつ

生命の夢は生まれ変わりの歌、みたいな
海は獣になりきれないまま抱きしめる微睡み、みたいな
自分に優しくする時って、少し普段より多めにお金を使ったり、ポジティブっぽいことをしてみたり、そういうことも多いと思うけど、自分の中の仄暗さみたいなのを、それでいいよって抱きしめるのが一番安心して落ち着くなって思う。
今日も誰にも八つ当たりせず犯罪に走らず、ただの無害でお荷物なだけの無能でいてえらいね、って自分に対して思う時が、一番呼吸が楽になる。
自分がこんな、自分と関連のない薄暗い話を書くのは、ひとりじゃないって安心したいのかもしれない。
今日も、ただ何も生み出さなかっただけの引きこもりでいる自分、そのままもいいよ。って。


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