彼岸花の下

美しい桜の下には死体が埋まっているらしい。
美しい君は美しい桜の下を選ばないで、彼岸花の下で醜く息絶えることを選んだ。

君は彼岸花の毒だけで死ぬのは無理だと知っていたんだろう、すぐ傍に「毒!!」と付箋が貼られたガラス容器があった。
君は毒を持つ植物を知るのが大好きだったので自作したのかもしれない。

そしてその毒の後に彼岸花を食べた。
きっと食べきれずに苦しんで死んだのだろう、口から零れ、力無く倒れる彼岸花は君から咲いているように見えた。

部屋中に植物が散らかっていた、そのほとんどが彼岸花だった。
君はよく「近くに彼岸花が沢山咲いててね、自然にだよ、初めは誰かが植えたのかもしれないけど誰も世話も何もしてないんだよ、私が小学生の時から咲いてるの、彼岸花ってもうなかなか見ないよね、すごく綺麗に咲くんだよ、どういう訳か勝手に庭とかに咲いてるの、うちの庭にも咲いてるし、あっちの家にも咲いてるんだよ」
と言っていたから、そこから取ってきたのかもしれない。

狭い部屋の中の赤色は血溜まりのようで、死体を前に綺麗だな、なんて不謹慎に感動したりして、
でもなんでここに僕がいるのかわからなかった。

彼女は先輩だった。
学年としては1つ上でも、早生まれの彼女と僕の誕生日はそんなに離れていなくて、
僕が彼女を先輩と呼ぶたびに「年そんな離れてないのにねー」と可笑しそうに笑っていた。
恋人みたいな関係じゃなかったけど、多分彼女を愛していた、彼女もきっと同じだった。

今日は彼女の誕生日だった。
「今日先輩の誕生日ですね、おめでとうございます」
そう送ると数分で「君ちょっと家おいでよ、ほら、私誕生日だし」と返ってきた。
「夕方になると思いますよ」と返せば「むしろ都合がいいね、日が沈む頃においでよ、鍵空けとくから返事なくても勝手に入って」と言うのでその通りにした。

勝手に入ったら君が死んでいた、
部屋の隅に寄せられた机の上に大きな字で「あとは頼んだ!」と、そしてそのすぐ下に、それよりは小さな文字で「醜態晒した上に面倒な事頼んでごめんね〜(・ < ✧︎)ゝ」とふざけたイラスト付きの投げやりなメモがあった。
僕は大きくため息をついた。
植物と汚物の匂いのせいか、頭がクラクラした。

「人が死ぬと全ての活動が停止するため漏らしたりしちゃうんだって」と君は言っていた。
確かにその通りなようだ、
馬鹿みたいに部屋を埋め尽くす植物の下から防水シートやペットシートが出てきて一応対策はしたんだ、と可笑しく思った。
なぜ僕が君の汚物処理をしてるんだ、と思いながらそれらを、そこらに転がっていたビニール袋に押し込んだ。

本当は、然るべき所へ連絡するべきなのだろうと思う。
でもなんでか、埋めなきゃいけない、埋めるのは僕がしなきゃいけないと思った。
そうしないと君の心が無遠慮に侵されると感じた。

スコップと彼女を抱えて、いつも話していた近所の彼岸花の群生地に向かった。
桜の下に死体を埋めるのが定番なのかもしれないけれど、彼女は彼岸花の方が似合うような気がした。
だって、花に無頓着な君が唯一好きだと言った花だから。

僕はまだどこにも言えないでいる。
誰かが彼女のことで僕を訪ねてこない限り何か言うことはしないと思う。
嘘をつくんじゃない、騙すんじゃない、ただ言わないだけ、言う時になれば全て正直に嘘偽りなく話すつもりでいる。

それまで、君は彼岸花の下で眠っていて、

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