周防大島ならではの教育を

毎朝交差点で辻立ちをしていると、周防大島高校の生徒さんと行き会います。
自転車で元気よくあいさつしてくれる生徒さんもいれば、死んだように眠ったままバスで運ばれてゆく生徒さん、バスのブラインドを下ろして外と自分をさえぎっているような生徒さんもいます。
そんな生徒さんを見送りながら、自分は中学高校時代、「ここを出てゆく」ことしか考えていなかったな、といつも思います。

今年のノーベル物理学賞はブラックホールの研究に贈られました。受賞者のひとりはイギリスのロジャー・ペンローズ博士です。
ペンローズ博士は80年以上数学や科学の世界で遊んで(!)きた人です。今回の受賞の対象となったブラックホール理論の論文が発表されたのは1965年、55年前(!!)でした。
好奇心のおもむくまま、ありとあらゆる数学や科学の世界に遊び、縦横無尽に得た知識に直感を働かせ、世界がどうしてできているのか?と90歳近い今(!!!)も解き明かそうとしています。

十代の若者には、枠組みにとらわれることなく、自分の好奇心に忠実に遊ぶように学んでもらいたいと思います。
自分や世界を広げていくには、それがいちばんです。
もっと広い世界を知りたくなれば、迷わず出ていけばいい。帰る場所はあるから。

周防大島には、海から六百メートル級の山まで、多様な自然環境があります。
瀬戸内海でこんな環境の島は稀なのです。実は。
人文的にも独自の文化を育んできました。
それらを総合して、若者が本来もっている好奇心を伸ばす教育、周防大島ならではの教育を考えていきます。

と、ここまで書いていて、なあんだ、自分が中学高校の頃に夢みてた教育じゃないか、と思い当たりました。
中学高校の頃、わたしも海岸ぞいの道路を自転車をこいで通学しながら
「この海の向こうにまだ見ぬ街や港、そしてはるかな国があるのだ」
と思っていました。いつかそこに旅立つのだ、と。
そして、いま帰っています。

ペンローズ博士、そして共に研究を行ったスティーブン・ホーキング博士をはぐくんだイギリスには、博物学という考えがあります。ジャンルを問わず気になったことを遊ぶように調べ、学ぶのです。
宮本常一も、民俗学という枠にとらわれない活動をした人でした。

最後に。
今回の受賞でくやしい思いをしているのもまた、ペンローズ博士かもしれません。存命であれば、盟友であったホーキング博士も一緒に受賞したのに、と。
いや、お二人とも地位や名誉には連綿としない英国紳士です。
ホーキング博士の方はあの世で今回の受賞を賭けて楽しんでいたかも。賭け事を愛する英国紳士でしたから。


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