キューナナハチヨン×よるぱ の話
こんにちは。ヤマモトマナブといいます。漫画家です。
月刊誌ヤングキングアワーズにて「キューナナハチヨン」という作品を連載しています。北海道の、とある神社の中にある本屋さんの物語です。
第19話(コミックス3巻収録)では悩めるラジオパーソナリティーが主役として登場するのですが、そのキャラクターや番組のモデルとして、STVラジオ「藤井孝太郎のログイン!よる☆PA」(※通称よるぱ)を使わせていただきました。そのお礼も含めてですが、経緯やちょっとした制作の裏話などを、twitterの文字制限内では伝え切れないのでこちらに書き記そうと思った次第です。ネタバレ有です。
漫画を楽しんでいただいた方、普段「よるぱ」をお聴きの方、お付き合いいただければ幸いです。長いです(笑)
番組との出会い
最初にヤマモトが「よるぱ」に出演させていただいたのは、2019年12月。『キューナナハチヨン1巻』が発売され、その宣伝でした。
フリーアナウンサーで道内様々なイベントにも関わっていらっしゃる、若林聖子さんから、ラジオやCATVなどいくつかご紹介いただいた中のひとつが「よるぱ」でした。(若林さんと僕との繋がりも偶然が連なってのご縁なのですが、それはまた別のお話…)
STVアナウンサーである藤井孝太郎さんが、アナウンサーという仮面(?)を脱ぎ、サブカル好きな本性をさらけ出してお届けする一時間。アニソンのリクエストやリスナー参加型の大喜利コーナーもあり、番組放送中はtwitterが「#よるぱ」の実況コメントで沸きます。時にはリスナーから藤井さんがイジられることも。「パーソナリティーとリスナーの距離感が絶妙」な素敵な番組、それが「藤井孝太郎のログイン!よる☆PA」です。
★★★
その後、2020年4月にコミックス2巻が発売となるのですが、これが最悪のタイミングでした。
そう、コロナです。
コミックス発売に合わせて、地元の旭川や札幌の書店に営業回りをしたり、出演させていただいた番組の皆様にもご報告を…と考えていましたが、全て白紙になりました。
店舗などにお邪魔して万一のことがあれば申し訳が立たないですし、新体制の模索で慌ただしい中で連絡差し上げること自体が迷惑な気がして、粛々とtwitter等で情報を発信することに。悔しいけれど、仕方がないことです。
そんな中、「よかったら電話出演しませんか?」とお声掛けくださったのが「よるぱ」でした。
こちらから連絡することが憚られる状況で大変ありがたいご提案でした。以降、そのご縁で度々お世話になることに…。本当に感謝しています。
ラジオパーソナリティーを描きたい!
「キューナナハチヨン」の基本的な展開のひとつとして、①悩みを抱えた人物が、②書店(神社)に訪れ、③お薦めされた本によって悩みが解決するという流れがあります。
「悩みを抱えた人物」は、近所の老人だったり、美容師だったり、OLだったりと様々。その中の一人として「ラジオパーソナリティー」を登場させたいという考えは、元々ありました。
そもそも「神社」と「書店」の2つに「コミュニティの活性化」という共通項を見出して生まれたのがこの漫画です。「合格祈願」と「学習参考書の購入」、「恋愛成就祈願」と「美容本や恋愛指南本購入」など、ちょっと例えが雑ですが「悩みや祈りを持って訪れた人に手を差し伸べる」という根底の役割には近いものがある…気がします。
そこに神社が、書店があることで人が集まり、次第に地域の人達が元気になっていく…そんな様子を漫画で描きたいというのが、「キューナナハチヨン」の目指すところのひとつです。
この「地域の人達が集まる場所」という括りは、ラジオとも似ているような気がするのです。特に、全国エリアではないローカル局の番組などはその特色も強いのでは…と。
そのような思いから「ラジオパーソナリティーを主役にした回を作りたい」というアイデア自体はかなり早い段階から頭の中にありました。
おそるおそる打診
少年画報社の担当編集氏と今後の展開について打ち合わせしていた時の話。箇条書きした「アイデアリスト」の中に「ラジオのエピソード」もあり、「面白そう」ということで採用されることに。すると担当編集、閃きます。
「番組をモデルにさせてもらえばいいじゃない!」
確かに過去にも、友人が働く実在の美容室をモデルにさせてもらった(第5話)こともあります。ですがラジオ番組となると規模感がまた違います。藤井さんがSTVの社員であることも、許可をいただけるかの不安材料でした。でも、もしこの「コラボ」が実現すれば、それもまた面白い挑戦になりそう…そんなわけで、ドキドキしながらスタッフさんにご相談しました。
スタッフさんに最初にお送りしたメールを掘り返したら、自分でこんな風に書いていました。
ラジオDJが、リスナーからのお悩みメールへの回答や、
あるいは番組内での自分の立ち振る舞いなど、何かしら悩みを抱えており、
書店が神様を通じてその解決のお手伝いをする…というイメージです
……雑!!!!!
もうちょっと具体的な中身を詰めてから提案しなさいよ、と自分でも思うのですが、制作がひっ迫していたので(9月中旬〆切の回に掲載したく、打診したのが7月末)とりあえず相談だけでも…という状況でした。その節は申し訳ありません。。
しかして結果は………快諾!!
快く受け入れてくださった藤井さんに番組スタッフ、そしてSTVの皆様にはただただ感謝です。ここから、じゃあどんな物語にするんだ、という構想を練っていきます。
プロットを練る
プロットとは「物語のあらすじ」。場面の推移や登場人物の遣り取りなど、ポイントを押さえながらざっくりと文章化していきます。ここではその一部をご紹介します。
赤字の部分は、プロット作成段階で作者の中で固まっていなかったり、悩んでいる箇所です。曖昧な部分があっても、ひとまず終わりまで書き上げてから、これを叩き台にして担当編集と打ち合わせします。
例えばラジオ局の設定ですが、プロットには最初STVをモジって「ATV」と仮置きしていました。ですが朝日河(旭川)市が舞台であることから、コミュニティFM局の方がしっくり来るということになり、そのように変更。
年齢も「自分の立ち振る舞いに悩む」というキャラクター像から、若めにしてあります。
更に、番組の存続を左右する上司の存在についても、(役職相談)として検討事項にしています。これは僕がラジオの世界にあまり明るくないからで、担当編集氏(ラジオ好き)と話しながら詰めた部分です。
そもそもコミュニティFMではトーク、音出し、コメント拾いなど全ての作業をパーソナリティーが1人で行うことが多いようですね。
漫画に登場するラジオ局の立地は、旭川市に実在するコミュニティFM局、FMりべーるを模しています。僕も何度か宣伝で出演させていただいたことがあるのですが、その番組もパーソナリティーの方がおひとりで全ての作業を行うものでした。さながら秘密基地のようなワクワク感がありました。
今回は、「よるぱ」に寄せた番組にしたいということや、弱気なパーソナリティーを引っ張る役割の人間も必要という都合上、スタッフが2人、放送機器やブースもちょっと豪華、プロデューサーがいる等、少し規模感を大きく設定しました。
今回のエピソードでは、悩みを解決する書籍として坂口安吾の『堕落論』を登場させました。これは決め打ちでした。
連載を始めるに当たり、時間があれば文豪の作品をいろいろ読み漁って来ました。『堕落論』もその中のひとつです。読んだ本には気になった文章に付箋を貼って置いてあるのですが、それを見返しながら「この本なら今回のエピソードに合うのでは」と考え、とりあえず何度も読み返して付箋を増やしていきました。
「使えそうな文章」と「キャラクターの悩み」を平行して考えながら、キャラクターにどんな文章からどんな気付きを与え、解決に導くか…を考えていきます。結構大変な作業ですが、安吾が素敵な言葉をたくさん残してくれたお陰でうまくまとまりました。笑
こうしてプロットが完成したら、いよいよ漫画の形にしていきます。
キャラクターの造形
最初、パーソナリティーの藤井さん以外のキャラクターについては、適当にオリジナルキャラを用意するつもりでした。…というか「スタッフがいる」というイメージだけで、深く考えていませんでした。
ですが、せっかく「よるぱ」に寄せた番組にするなら…と考え、スタッフも実在の方々に寄せてはどうかと考えました。そうして登場していただいたのが、「ねえさま」と「でん」さんです。
僕が「よるぱ」の収録スタジオにお邪魔したのは最初の1回だけで、後はコロナ禍ということもあり電話出演となりました。スタッフお二方にお会いしたもこの「最初の1回」切りなので、それから約10か月が経過しています。つまりもう記憶があやふやです。笑
漫画家というのはタチが悪いことに、人の顔を自分の漫画のタッチで記憶する癖があり、さらに悪いことには、時間が経つ毎にそれがどんどん自分の描きやすい顔に変化していくんです。
藤井さんのお顔はネットで調べればいくらでも出てくるので資料に事欠かないのですが、裏方となるとそうはいきません。わざわざ「写真を送ってください」なんて言うのも申し訳ない気がして、結局当時の頼りない記憶を元に捏造しました。
キャラクターの性格については、往年のリスナーの皆様に比べれば非常に短い期間ですが、出演させていただくようになってから今までの期間で、自分が番組から抱いた印象を素直に表現しました。雑誌発売後、キャラクターの性格がご本人方のイメージとぴったり!というような感想をSNSで見掛ける度、良かった~と胸をなでおろしていました。
漫画に登場するプロデューサーは完全なオリジナルキャラクターですが、入稿が終わった後で「こっそり木村洋〇さんっぽい人にすれば良かった!!」と気付き後悔したのはここだけの話。笑
リスナーいじり
実在する番組をモデルにした、ということで、漫画に登場するリスナーの名前も実在するリスナーさんをモジらせていただきました!勝手に使ってごめんなさい!
ちょうど原稿を進めていた時に「#よるぱ」でtwitter検索をして、見覚えのあるお名前を片っ端から拝借した…という具合で、特に選択の基準があったわけではありません。
漫画内に出てくるtwitterの画像などは、一度全体を別のデータで作ったものを、コマに合わせて配置しているので、せっかく作ったのに上の画像のようにフキダシで隠れたりもしちゃっています。
もし「僕/私も出たかったんですけど!?」というリスナーさんがいましたら、ご一報いただければ連載終了までにはどこかで登場できるように善処します。笑
僕自身はリスナーの皆様にお会いしたことも、直接お話したこともありませんが、番組とリスナーとの関係性については、やはり今まで番組を聴いて感じたものを出来るだけ漫画にも落とし込めたら…と思いながら描きました。うまく表現できていたら嬉しいです。
おわりに
そんなわけで、「よるぱ」の雰囲気をふんだんに盛り込んだエピソードが完成しました。
元々ラジオをテーマにしたお話を作りたかったというのは本当ですが、じゃあ実際どんな内容にするのかという点については、完全に「よるぱ」という番組ありきの当て書きになりました。
それも、番組を通して伝わってくる藤井さんやスタッフの皆様、そしてリスナーさんとの関係性からイメージが膨らんだもので、例えば他の何かをモデルにしていたら、また全く違う物語が出来ていたかもしれません。
初めて番組に出演させていただいてから、twitterで番組リスナーさんからたくさん応援の言葉を戴いたり、実際に漫画を読んでくださったりということが、個人的には予想外の出来事でした(と言うと失礼ですが)。
もちろん僕自身は宣伝のためにいろいろな所にお邪魔させていただいていますが、話を聴いてくれたうち、果たしてどれだけの方が興味を持ってくださるかと言えば、難しい部分もあるだろうと。それでも、一人でも多くの方に読んでもらえる可能性があるなら…と日々奮闘しています。
そんな中でここまで宣伝の反響を直接的に実感できたことは初めてで、ただただ驚くばかりでした。「これがよるぱか…!」と。笑
全然足りないかもしれませんが、この「キューナナハチヨン第19話」が、番組とリスナーの皆様への恩返しにもなりましたら幸いです。
ダラダラ取り留めのない文章に、最後までお付き合いくださりありがとうございました。今後も、「よるぱ」の益々のご発展と、リスナーの皆様のご健勝をお祈りいたしまして、結びとさせていただきます。
おまけ
使いたかったけど使わなかった「パーソナリティー」の話
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