第一部|【1】フレームドラムとCubeMicとを取り巻く話題|【1-4】セットドラムとフレームドラムとではCubeMicの適切な設置方法が違う件

ここからは、フレームドラムにCubeMicを用いる場合の、より具体的な事を述べます。

セットドラム(本稿ではドラムセットに使用されるようなドラムの事を便宜的に「セットドラム」と呼びます)にCubeMicを用いる場合とフレームドラムにCubeMicを用いる場合では考え方に何か違いがあるでしょうか。私はこれは、あると感じています。
収音出来るかどうかという点ではどちらも同様の利点のもとで収音出来るのですが、いざ実用となった場合には、奏者から見たセットドラムとフレームドラムとの奏法の差異からいくつかの違いを挙げざるを得ません。
これは、用いるCubeMic本体は同じものでも、設置方法の最適化がどうやら異なるようだという事です。

フレームドラムには楽器と演奏方法の様々なバリエーションがあるので、もしかしたら私が現在フォローしきれていない奏法などでは、これらの違いが気にならない事もあるかも知れませんし、逆に、ここに挙げる以上の対応が必要という事もあるかも知れません。
以下に(A)から(C)まで、セットドラムに用いる場合との違いを挙げてみたいと思います。
話題が少々具体的すぎるかも知れませんが、この後に述べるような、CubeMicをフレームドラムに活用するという事に関しての前提になる事柄が含まれますので、この位置に置きました。フレームドラムに限定してお考えで無い方は、この項を飛ばしてお読みになっても良いかも知れません。


(A)膜面に連動して磁性体が動く範囲が両者で違う

フレームドラムで様々な奏法を行う場合には、撥奏のドラムに比べて膜面(鼓面/ドラムヘッド/皮)の位置変化が極端に大きいです。この点で、撥奏のセットドラムに最適化されているハイリーズ社標準の設置のセッティングでは対応しきれない場合が生じます。
「セットドラムはしっかりとした樹脂の膜面ですがフレームドラムにはより薄くて柔らかな膜面が多い事」「より大口径の膜が選択される場合がある事」「膜の周囲側を強く押しながら叩く様な奏法がしばしば、また様々ある事」などがこの原因になっています。
設置されたCubeMic側と膜面があまりにも近づきすぎると異音が生じる事もありますし、遠すぎると音が途切れる場合も生じます。そのため、フレームドラムの共振磁性体はいっそ、膜面に貼付してしまう方が適切であるという風に、私は考えています。これが、セットドラムとフレームドラムとの違いを吸収するための、設置方法での対応です。
(ハイリーズ社も、ダラブッカへの導入事例として膜面に共振磁性体を貼付する方法をアナウンスしています。)
この時、磁性体にはもともとの大きなものではなく、膜面に貼付しても演奏に差し障りのない大きさの物を別に用意することになります。
また、柔らかな膜のドラムの場合には、ハイリーズ社標準のアーチ状薄板の磁性体では、膜面を強く押し上げすぎてしまい、思う様なチューニングが出来ない様な場面が一部で生じてしまうのですが、磁性体を貼付式にすることで、この懸念も回避されます。

本稿では、他の方法も紹介しますが、基本的にはこの「共振磁性体を膜面に貼付する」という方法をフレームドラム一般に適した方法として扱います。

一方で撥奏の太鼓の場合には「安定した収音が出来る」「大きく伸びやかな出力が得られる」「ヘッド交換とCubeMicのセッティングとを互いに独立出来る」といった利点がある事から、やはりハイリーズ社が標準として提案している方法が適しているという事になるでしょう。ちなみに撥奏のドラムヘッドは特に丈夫ですから、先に延べた様な、磁性体がヘッドを押し上げすぎる問題は生じづらいようです。


(B)収音対象が違うので適切なマウント部材が違う

実際にCubeMicが備わったドラムをご使用になった経験がおありでない方には意外な事かも知れないのですが、ハイリーズ社が提案している標準的な設置方法で、膜面以外のドラム演奏音、つまり、フープや胴を撥で叩いた音も収音されます。
これは、膜面以外を打撃した場合にもその音の振動は速やかに膜面を伝わり、膜面に接しているCubeMicの共振磁性体を動かしているという要素もある様です。また、CubeMicのコイル部周辺のいくつかの部材が磁性体であり、これらが打撃音の振動に対応してコイルに良い影響を及ぼして電気信号を生じさせているからでもある様です。

しかしながらフレームドラムとCubeMicを合わせて運用する場合には、設置方法によっては、膜面以外からの発音に関して、十分な音量や音質が得られない場合があります。
例えば皮付きタンバリンで想像して頂きやすいように、フレームドラムには、胴にジングル等の機構が備わっており膜面の発音に連動して楽音としてのノイズが生じるようになっているとか、また手で胴を叩く等の方法で、膜面以外からの比較的小音量の発音の効果が多く期待される楽器が多くあります。
一方でこれらのドラムは、CubeMicの取り付けに関して、大きなマウント部材を使用出来ないとかいった、構造上の制約を持っている事が多いです。そのため、膜面以外からの発音に関して満足いく収音が可能かどうかという点について不安を伴います。

こういった制約に対応しつつ膜面から以外の発音を十分に収音するには、比較的小さい取付け部材しか選択出来ない様な条件下でも良い収音結果を得られるように、使用楽器個別の条件と合った取り付け方法について、良く検討する必要がありそうです。

一般に、フレームドラムの膜面以外からの発音は楽器上の特定の箇所からだけのものではありませんから、対象を定めてそれらを直接発音部から収音する事は出来ません。そこで、楽器の構造を通してCubeMicの共振磁性体に伝達される振動を収音される音声信号を重要視します。その点では、CubeMicによってフレームドラムを収音する場合にも、膜からの発音も膜以外からの発音も、標準と同じ方式だという事になります。ただしその方法を、より個別のフレームドラムに最適化する必要があるという事です。

最初に標準の物を設置して操作感や収音結果について不足無い場合にはそれで運用という事になるのですが、もし「標準のものでは取り付け出来ない」とか「演奏の妨げになる」とか「期待の収音結果が得られない」という場合には、楽器の胴とCubeMicとを接続するマウント部材に関して検討されるのが良さそうに思います。これをその楽器独特の条件に合わせて対応する事で、より好ましい収音が可能になるかも知れません。

マウント部材について実際に何通りか試してみて「どうやら楽器ごとに最適な部材の材質や大きさなどが違いそうだ」と感じます。試した例とコメントは、後の項で少し紹介します。


(C)手持ちで振り回す楽器なので固定する楽器とは取り回しに関する要求が違う

標準のCubeMicは、キャノン端子(XLR端子)のプラグとジャックで伝送ケーブルと接続する様になっています。フレームドラムには楽器を奏者が手で支え、また振るなどしながら演奏するものが多くありますが、そういった状況への対応を考えた場合には、より楽器の動きを制限しない様なCubeMicの設置状態やケーブルの選択でなければ実用性に欠けてしまう場合もあります。
これに関して、ひとまず私自身はCubeMicと伝送ケーブルを直接繋ぎ、その間にはプラグとジャックを置かない様な方法を選んでいます。CubeMicから直接伸びた2メートル程のケーブルの先にだけキャノンプラグがあるという風にしていて、とりあえずはこれで邪魔には感じていません。
CubeMicを設置したパンデイロを他の方にお見せすると「振りづらくないですか?」と質問される場合もあるのですが、これ位でしたら意外と大丈夫かな、という風に感じています。

ただ、振ったり巻いたりするケーブルというのは突然の断線が懸念されるものですから、今後にはキャノン端子より小型の端子(たとえば抜け防止の事もあるのでミニXLR端子であるとか)を採用して、迅速な交換や、断線に繋がる様なケーブルの巻き癖を事前に防止するというのも良い方針ではないかなと考えています。

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