■コラム33|レイテンシー

レイテンシーとは、音が再生される時の遅れという意味で用いられます。他の場面では「ディレイ」という言葉も同じように音の遅れを指す後として使われますが、この稿で扱ったような小規模なシステムに関しては、すべてレイテンシーで良いと思います。
具体的には、楽器タイプのMIDIのコントローラーを操作して実際に音が再生されるまでのごくわずかな時間の間に、生楽器を演奏する時に比べて遅れが感じられるという時に「レイテンシーがある」と言ったりします。
また、オーディオインターフェイスに入力した音声が、オーディオインターフェイスでデータに変換されてコンピュータで処理されたのちにオーディオインターフェイスで音声として再生されるまでの間に遅れが感じられる場合にも、「レイテンシーがある」と言います。

生じるレイテンシーは、機器や接続やその設定で変わります。特にオーディオインターフェイスとコンピューターの組み合わせでは、レイテンシーを適切に管理してシステムを安定して運用するように、使用者が事情を理解してソフトウエアでの設定値を決めるように求められます。

機材の選択やソフトウエアの設定値を検討する際には「安定性と応答性のバランスが丁度良くなるようにする」と説明される事が多いです。しかし、コンピューター環境を演奏に使用する場合には、システムの安定性も十分早い応答性も、実際にはどちらも必要なのです。この点をメーカーの商品説明に求めても販売店のご担当者に訴えても「個別の事はわからない」という風な、頼りがいのない返答になる事も多いような気がします。あとは、「実際に使っている人がいますから大丈夫なのでしょうけれど、どういう設定値なら良いかは分かりませんね」とか「ソフトシンセの中には負荷が大きいものがありますからそういったものは避けた方が良いかも知れませんね」とかです。

これらは一般論すぎて、はっきりいって判断の役に立たない上に、これから試そうという人の気持ちをくじく事さえあるかも知れません。困ります。一方で、「より安定性の高いシステムのためにはコンピューターのどのカタログ値を気にして選択すれば良いですか」といった質問にはお店の方も答えてくれますから、まずはその点のアドバイスを参考にされて下さい。

さて、コンピューターを用いたシステムでのレイテンシーは、ms(ミリ秒=1000分の1秒)の単位で表現される事が多いです。果たして、何ms程度なら、実際には気にならないものとして扱えるのでしょうか。
レイテンシーが無いのと同程度の応答性が必要とされるようなデジタル処理のミキサーやオーディオプロセッサー製品ではどうでしょうか。単に「低レイテンシー」とだけ説明されている事もあるのですが、中には、μs(msの更に1000分の1の単位)レベルの数字が挙げられているものもあり、残念ながらここでの実用的な比較の役には立ちません。
コンピューター環境では現在最も良い条件で運用出来たとしても、一桁ms程度が最短なのですが、これは実際どれくらい気になるものでしょうか。一般的な情報の範囲になってしまいますが、ご参考までに少し挙げておきます。

生楽器の生演奏ならレイテンシーがないという事はありません。空気を音が伝わる速さというのは、ケーブル中を電気信号が伝わるよりもずっと遅く、生演奏にレイテンシーを感じる場面は起こります(そういった時に先に挙げた「ディレイ」という用語が用いられるのですが、ここではレイテンシーに統一します)。
さて、1msというのは、音がおおよそ0.3mから0.4m離れた空気中を伝わるのに必要な時間だそうです。これを基準にして考えたいと思います。もし20msのレイテンシーが生じるシステムだとすると、他の人と7m程度離れて音を聴き合いながら演奏するのと同じ程度という事になります。そう考えると「それ位ならあまり気にならないかも知れないな」という感じがしますね。
逆に、数十メートルのパレード演奏をする時などは隊列内で音がずれてきこえる事が話題になりますから、80msのレイテンシーともなると「30m近いパレードの隊列の先頭と最後尾程度にはレイテンシーが気になってしまうだろう」という事にもなりそうです。

レイテンシーは短ければ短い方が良いというのは間違いないのですが、ある程度より小さいと気になりません。「自分の場合はどれくらいなら気にならないのか」という目安を持っておくと、過分に心配せずに済みます。

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