補足部|【1】音響処理についての茶飲み話諸々|【補5】ミキサー周辺の話題

前項の説明の中で「混ぜ合わせる」という表現がありました。簡易な製品や機能から複雑な製品まで様々ですが、複数の入力信号の調整や混ぜ合わせをして、目的別のひとつから数系統の出力に整えるのが「ミキサー」というカテゴリーの製品です。最低限には、簡単に使用したり用途を想像したりしやすい製品ですが、ミキサーの範疇にはとても多くの機能が含まれるため、ここではご紹介しきれません。
ミキサーの全体像ついてはご紹介しませんが、「音作り」に関係の深いいくつかの用語についてだけ述べておきたいと思います。


オーディオミキサーについて

一般的な音声信号を扱うためのミキサーを、他の、例えば映像用等と区別して言う時には「オーディオミキサー」と言います。オーディオミキサーのカテゴリーの中にも用途によって呼び名があったり、また、設定の反映や記録をデジタルで一括制御できるかどうか実際の操作子の扱いだけでコントロールするかでの呼び名の違いがあったりするのですが、ここでは単にオーディオミキサーという呼称で済ませます。
ひとつだけこれに付け加えるとしたら、中大型の据え置き型オーディオミキサーを差して、しばしば「卓」とかという呼称でも呼びます。

単体のオーディオミキサーの規模を、入力信号の系統数と出力に使用出来る系統数でごく大まかに把握します。例えば入力としてモノラル回線6系統と同等の操作が可能なステレオ回線が2系統、それにオーディオ機器からの入力を想定した細かい調節が出来ない入力がステレオ1系統といった場合には最後のひとつは考慮せずに合計で8系統の入力を持っているとか、6モノラルと2ステレオの入力を持っているとして表し、この時最後のステレオ1系統については「TRACK IN」とか「RETURN」と言ったような、その機器で与えられている入力の名前を挙げて別に数えます。

また、これら8系統の入力のうちで、マイクプリアンプが備わっているのは何系統かという事も特に大事な情報です。これを主に考えた場合には、前出の例が4つのモノラルの入力に関してだけマイクプリアンプを備えているとすると、6MIC/10LINE入力と表すことがあります。この「LINE入力」は、1系統のモノラルは1LINE、1系統のステレオは2LINE入力と数えたので、合計が10になりました。

次に、機器からの出力に関係する用語を挙げます。入力系統ごとに音量や音質について調整を加えた結果を途中で適宜ひとまとめに仕分けするための系統をもつ場合があり、これを「バス」と呼んで数えます。出力音量を調節可能なステレオ1組分の出力系統を、おおまかに「1ステレオバス」と表記します。
大型で複雑な機能のオーディオミキサーでは、入力信号をグループ分けして扱うバスのような機能を複数系統備えているといったものが普通です。小型のオーディオミキサーには、主たる調節可能な出力は1系統だけで、製品によっては補助的な出力がもう何系統が備わっているといった程度の分かりやすい構成の製品がよくあります。

シンプルなオーディオミキサー作業では、主な出力はPA作業の場合にはスピーカーに向かう機器に接続され、補助的な出力は録音機器と接続される等します。また録音作業の場合には、主な出力は録音機に向かう系統に接続され、補助的な出力は、作業用のスピーカーに接続される等します。

その他ここまでに触れていないものの、重要なオーディオミキサーの出力機能にはにはヘッドフォン出力機能があります。機能が限定された小型のオーディオミキサーには備わっていないものもあるかも知れませんが、「卓」と呼ばれるような据え置き型のものには備わっています。

その他の主な入出力として、エフェクター等の外部機器との接続に使用するための「SEND」出力や「AUX」出力などが比較的小規模の機器にも備わっている事が多い定番の機能なのですが、本稿では割愛します。

それほど大型であったり複雑であったりしないオーディオミキサーでも、「卓」と呼ばれる様な据え置きの汎用型では、ひとつの入力系統ごとに音質の調整機能が備わっているのが普通です。内容としては、イコライザーや、入力系統ごとに外部機器(エフェクターなど)と接続する機能がひとつまたは複数備わっているというのが定番です。機器全体で複雑なミックス機能を持ったものの場合には、入力系統ごとにも、更に様々な機能があります。

ここで、特にイコライザーについては、その効果のかかり具合が機器ごとに特徴的ですから、音作りのしやすさに関わりが強い事柄として指摘しておきたいと思います。オーディオミキサーの入力系統に備わったイコライザーでは細やかな楽器の音作りには向かない場合もあるかも知れません。その場合には、ミキサー外部のイコライザーの導入が必要になるでしょう。お使いの楽器と再生したい音のイメージとミキサーに備わったイコライザーとの相性が良い場合には、外部機器は必要ないかも知れません。


入力機器ごとの信号レベルの差の話

前項にマイクプリアンプの話題がありました。なぜオーディオミキサーでは、マイクプリアンプ機能が備わっているかどうかを考慮する必要があるのでしょうか。それは、それぞれの楽器や収音機器ごとに、出力する信号の強さの範囲に差があるからです。

音声をアナログの電気信号で送信する場合には、定常のノイズの存在について気にしない訳にはいきません。得たい音声信号とは別の、不要な音声として再生されてしまう信号がノイズです。機器Aと機器Bを接続する場合にどうしても1の大きさの定常ノイズが含まれてしまうという場合を想像してみてください。そこで送信される音声信号の大きさがが0から10までの範囲の場合と0から100の場合では、定常的に含まれる1がより目立って感じられるのは前者の場合です。つまり、もともとの機器から送信される信号が大きい範囲を持っている事が、自然なノイズ対策になるという事です。
こういった事情と、さまざまな機器同士である程度には規格を共通化してお互いに接続しやすくしたいという事情を併せて考えると、小さい信号しか発生出来ない機器に全ての機器の振る舞いを揃えるよりも、信号の大きさが大きく出来る機器と小さい信号しか出力出来ない機器とをあらかじめ分けて扱うとか、その上で両者は区別無く対等に扱える様にする工夫があるとかすれば、便利で良い結果を得られるという事になります。
マイクロフォンやCubeMicが音声信号を得る性質を前述していますが、これらに関しては電気信号を生じさせる原理と出力される信号の大きさとの関係が深いために、機器から出力する信号の大きさに限界があります。これまで例には挙がりませんでしたが、レコードプレイヤーも同様の理由で、小さい信号を出力する機器です。

これら出力信号が小さいグループに属する機器からの出力をひとまずそのままの信号の大きさで送信したとしても、後ほど、他の出力信号が大きな機器と対等に操作出来るとか、たとえばシンセサイザーの様に出力が大きな機器をスピーカー再生する場合とマイクロフォンから得た音声信号をスピーカー再生する場合とで音量や音質の差に関して不便を感じないといった事がが必要です。
そういった訳で、オーディオミキサーでも音量レベルが小さい機器(マイクロフォンやエレキギター、CubeMic楽器などです)からの信号出力に関しては、いったん前処理として音量レベルを大きくして、他から入力される信号レベルが大きな機器の信号と同等に操作出来るような機能が求められます。一方ではじめから大きなレベルの信号に関しては、入力に関しての余計な操作が無くて済むなら、その方が音質が損なわれたり操作が複雑になるような事態を避けられますから、その方が便利だという事になります。コスト面でのバランスという事も大きな理由ですが、小規模のオーディオミキサーでは、小さい信号レベルを扱う機能を備えた入力系統と、大きい信号レベルだけのための入力系統のそれぞれから構成されている事が多いです。

ところで、これらの出力信号レベルが大きな機器をおおまかに「LINEレベルの出力をする機器」といったように呼びます。またた、プリアンプ処理が必要な小さな信号の機器は「MICレベルの出力をする機器」と呼びます。

オーディオミキサー等をはじめとする、様々な信号レベルの入力を受け付けるための機器(他には後述の「オーディオインターフェイス」などがあります)では、LINEレベル信号用の調節機能を備えた入力端子とMICレベル信号用の機能を備えた入力端子とが区別されて取り扱われています。
これらは接続プラグの形状など機器の見かけに差がある場合もありますが、その差は端子の違いでは無く、受け渡しする信号レベル違いが理由になっている点をご理解下さい。


ローカット機能

「ローカット」機能がマイクプリアンプに備わっている場合もあります。同様の事はイコライザーを用いて音作りの一環としても行われますが、これは、機能のオンオフという簡単な操作だけで一定の低音域に関して著しく音量を押さえるとか消すといった結果を得るためのものです。
マイクプリアンプのローカット機能は、ある種のノイズをその後の行程に取り込まないとか、収音された低音域の聞こえを調整するといった目的で使用されます。機器によって、低減対象とする周波数やその低減効果の具合は異なります。
活用場面の例としては、舞台の床を歩く時に生じる低音の響きや空調機器などの環境音を目立たなくするという風な、収音結果に含まれる好ましくない要素を目立たなくさせる目的での使用があります。マイクロフォンでの収音独特の問題への対応です。
また、ローカット機能により収音された演奏から再生効果上では不要な超低音を減じておく事で、信号全体の音量を抑えて、機器で取り扱いやすくするとかいう場合も考えられます。
その他にも、より積極的な音作りの目的として超低音をローカット機能により取り除いておく場合があります。ローカットを有効にする事で楽器全体の音色がすっきりと聴き取りやすいものに感じられるようになったり、この事で演奏効果を伝わりやすくしたりといった効果を狙います。
この例としては、例えば低音を聴かせたいような太鼓の音色についてローカットを施した方がまとまりのある良い音色と感じられるような場合があります。また、シンバルなどから他の音域に混ざって発せられる低音にもついても同様で、ローカットした場合の方が、その楽器らしい印象として再生されるという場合があります。
こういったローカットによっての音作りをさらに積極的に行いたい場合には、イコライザー機器などを使用する事になります。


チャンネルストリップ

オーディオミキサーは複数の信号入力系統を備えた機器ですが、その系統ごとにひとまとまりの調整機能を備えています。あらためて以下にそれらの機能を具体的に挙げてみます。製品の目的や規模によってはこの一部だけを備えていたり、あるいはさらに他の機能があったりとか、同様の調整機能を複数備えているというものがあります。

 ・ひとつあるいは複数の入力端子
 ・プリアンプ
 ・外部エフェクター挿入機能
 ・イコライザーなどの内蔵エフェクター
 ・この系統の入力信号を個別に外部機器(エフェクターなど)へ送信する機能
 ・外部機器(外部エフェクターなど)から受け取った- 信号をこの系統の信号に付加する機能」
 ・以上の処理を終えた信号の音量調節機能」
 ・音量メーター
 ・ミキサー機器内におけるこの系統の信号の接続先指定機能

以上からの要素を適宜含み、これらの複数を併せて取り扱えるのがオーディオミキサーと呼ばれるカテゴリの製品の主なものなのですが、楽器奏者にとっては、この一系統分の機能が備わってさえいればそれで十分だという事があるかも知れません。
こういった、オーディオミキサー一系統分か二系統分程度の機能を取り出してひとつの製品にしたものを「チャンネルストリップ」と呼ぶ事があります。チャンネルストリップには、イコライザー以外にも、コンプレッサーなどの音作りに便利なエフェクターを内蔵した製品もあります。

同様の機能はオーディオミキサーを使用する事で足りる(大は小を兼ねる)という意味では、チャンネルストリップ製品は市場での購入需要が高い製品ではなく、それほど沢山の種類には出会えないかも知れません。またその中には、比較的高価かつ高品質であったり、特徴的な振る舞いをするような製品が多いのではないでしょうか。
しかしながら楽器奏者には機器はシンプルであったりコンパクトである方が歓迎されますでしょうし、同様の考え方のコンピューター環境用のソフトウエア製品もありますから、本稿では、紹介の意味で名称を挙げる事にしました。

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