補足部|【1】音響処理についての茶飲み話諸々|【補6】オーディオインターフェイス周辺の話題

多系統の出力

DAWに備わっている複雑なミキサー機能を活用すると、ミックス出力を多系統用意する事も出来ます。これは「演奏者がヘッドフォンで聴くためのミックス系統」と「PAに向けて出力して観客がスピーカーから聴くミックス系統」という風に使い分ける事が出来ます。
例えば、収音をミックスした結果と演奏テンポを示す音(メトロノーム音/クリック音)を合わせて鳴らす出力系統と、収音のミックス結果だけを鳴らす出力系統といった風です。
またあるいは、オーディオインターフェイスに他の演奏者の生演奏音を収音する事で、これら他の人の演奏と自分の演奏をミックスした出力系統と、自分の演奏だけをミックスした出力系統とを用意する事も出来ます。
ただしこういった運用が実際に実現可能かどうかは、DAWの仕様もそうですが、特にオーディオインターフェイス製品ごとの仕様で異なります。


出力端子

オーディオインターフェイスからはMIDI端子やUSB端子からデジタル信号を出力出来るとか、光ファイバーでのデジタル出力によって他のオーディオ機器と接続出来るとかいった接続方法のバリエーションの他に、オーディオ信号(アナログ信号)に関しても、出力先として接続する機器に最適化された信号のレベルや用途に合わせて異なる接続端子を選択出来るものがあります。ここでは出力信号を送信するのに用いる二種類の端子について述べます。

オーディオ信号の出力としては、エレキギターなど楽器用途にも多く採用されているPHONOと呼ばれる端子にLINEレベルの信号を出力するものと、キャノン端子(XLR端子)にLINEレベルの信号を出力するものが主です。
前者は、オーディオ機器同士をごく近距離で接続する目的で選択される事が多く、後者は、数十メートル以上といった長距離の伝送でも信号の損失やノイズの増加が多くならないような構造上の工夫がされているために、楽器やオーディオ機器とPAシステムとの間を繋ぐ場合などに選択されます。

PHONO端子機器からキャノン端子機器に接続する場合には、間に「ダイレクトボックス(あるいはDI)」と呼ばれる種類の機器を用いて配線の違いを取り持ちます。ダイレクトボックスを用いる事で、PHONO端子から出力された信号も、キャノン端子を用いた長距離伝送可能な配線方式としてPAシステムと接続する事が出来ます。

ダイレクトボックスを用いる事の問題点は多くないのですが、中には、ダイレクトボックスの製品ごとの音質への影響の違いを気にされて特定の製品を使用するようにしている奏者がいるとか、ごく小さい演奏会場や普段はあまり電子楽器が用いられない演奏会場では、会場に用意されたダイレクトボックスが不足するという事も無いではありません。
オーディオインターフェイス製品によってはキャノン端子出力が可能なので、その場合には、会場からダイレクトボックスを借りる必要がなくなります。

CubeMicの収音システムからの接続先がいつも楽器アンプである場合には気にする必要がありませんが、接続先がPAシステムであるような場合には、ダイレクトボックスの機能を自前で持つという事も検討の価値があるかも知れません。


ヘッドフォン出力

ヘッドフォンからの音を聴きながら演奏するつもりの場合には、どれくらい大きな音で再生出来るかどうかという事は演奏しやすさに関わりますから、大変気になるところです。
機器からのヘッドフォン出力に関しては、機器ごとの最大限に出力可能な信号の大きさに多少の違いがあります。また、用いるヘッドフォンによっても、どれくらいの入力信号で実際にはどれくらいの大きさの再生音がするかという事は異なります。

また、DAWで扱われている音のうちどの音をヘッドフォンから再生出来るかとかいった点についても実際にヘッドフォンを接続するオーディオインターフェイス製品によって異なるため、この用途での重要な検討点になりそうです。

ヘッドフォン出力の信号の大きさや音質に不満がある場合には、オーディオインターフェイス機器の後に「ヘッドフォンアンプ」と呼ばれるような機器を接続して、ヘッドフォンはその機器の駆動により鳴らすという方法もあります。しかしながら奏者にとってはより簡便な機器構成で良い結果を得られる方が嬉しいですから、導入を検討するオーディオインターフェイス機器のヘッドフォン出力が自分の用途にとって十分かどうかをあらかじめ確かめておくのは大事な事だと思います。


PCかタブレットか

タブレットと接続して使用可能なオーディオインターフェイス製品も、またそれ以外の周辺機器も、iOS向けに増えています。しかし、タブレットで使用出来るソフトウエア(アプリ)はPCに比べると発展途上で、特に多系統(マルチチャンネル)の効果という点と、細やかな音作りに向いたエフェクターを使用出来るかどうかという点では、PC環境ほどの自由度は実現されていないようです。
タブレット環境には、マルチエフェクター専用アプリとか、タブレット用DAWとか、タッチインターフェイスを活用した操作方法のエフェクターアプリといったものが比較的多くあるので、必要な系統数や得られる音質といった条件が合えば、コンパクトに良い結果を得られるシステムになるかも知れません。

現状では演奏にタブレットを使用している奏者には、次の様な場合があるようです。

 ・タブレットで譜面や歌詞、進行指示等を見ている場合
 ・タブレット上のアプリで他のコンピューターや機器を操作している場合
 ・タブレットで動作している楽器アプリを演奏に使用している場合
 ・タブレットで実際に音響処理を行っている場合
 ・タブレットでSNSを見ている場合


MIDI

MIDIは演奏情報の記録やコントロールを行うための情報規格で、以前は専用の端子を持ったケーブルで機器同士を接続するという事まで含めてのものでしたが、コンピュータを含めた様々な機器を柔軟に接続して利用する事が普通になっている現在では、コンピュータのUSB接続や無線接続を通じてMIDI信号をやりとり出来るような製品が中心になり、多く販売されています。実際の使用にあたっては、必ずしもMIDI信号の仕様であるとか詳しい内容を知っておかなければいけないという事はなく、機器やソフトウエア同士がどういった指示を入出力しているのかといった事を漠然と意識しておけば足りるのではないでしょうか。
「演奏情報の記録やコントロール」というのは、まずは、「楽譜に書かれるような情報や、合奏の指揮者が表現するような情報を、機器やファイルの間でやりとりする時に使用されているのだ」と理解されたら良いと思います。

MIDIでやりとりされる情報の中にはまた、「楽器をどの様に演奏するか」というような、細かい演奏の指示も含まれます。「演奏音量をどのように変化させるか」とか「ピアノ奏者がペダルをどれだけの間踏んでいるか」とか「シンセサイザー奏者がどれくらい音を揺らして変化させるか」とか、そういう部分です。
さて、メロディーを演奏する場合にはその様に比較的理解しやすいMIDIの役割ですが、CubeMic打楽器にとってはどのにような関係があるでしょうか。

それは、アンプやエフェクターなど機器の設定値や設定の時間的変化をコントロールするのもMIDI対応のソフトウエアや機器だという点です。セッションや曲や場面にあわせて用意したこれらの設定値をあらかじめひとつの組みにして記憶させておく事で、これをコンピューターの操作や、コンピューターに接続した他のMIDI対応機器から、ペダル操作やボタン操作ですぐに呼び出したり切り換えたりする事が出来ます。
単機能の楽器用エフェクター製品やオーディオ用アンプなどにはこういった風な、MIDIでのコントロール機能を備えているものはそうありません。これは、コンピューター環境でCubeMic楽器を使用する場合の利点という事になりそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?