補足部|【1】音響処理についての茶飲み話諸々|【補4】エフェクター周辺の話題(つづき)

マルチエフェクターに関して

ひとつかあるいは似たひとまとまりの機能ごとに個別の製品になっている事が多いのがエフェクター製品の傾向ですが、それとは別に、ひとつの製品で様々な効果のエフェクターを個別に、あるいは組み合わせて使用出来るようにされたものも人気製品として広く受け入れられており、マルチエフェクターというカテゴリで呼ばれています。
マルチエフェクターの中でも据え置き型のものは様々な楽器での使用を念頭においた設計になっている事が多く、一方で、床置きのペダルタイプのものは、ギター用やベース用といったように、ある楽器での使用を念頭においた組み合わせや調整項目を備えているものが多いようです。
先のコラム欄でも述べましたが、フレームドラムで使用するにあたっては、ペダルタイプのものは演奏中に操作する場合には足で切り替えが出来る点が便利ですし使用できる電源も現場向きである事が多いので、もし製品に備わっているエフェクトが希望と一致する用でしたら、現状ではおすすめです。
一方で、詳しくは後述しますように、PCやタブレット等を活用した場合にもマルチエフェクターとして使用出来るシステムを用意する事が出来ますから、特に据え置き型のマルチエフェクターについては、そこに特別使用したいエフェクトが含まれているという事でも無い限りは、導入を検討する必要はないかなと感じます。

さてマルチエフェクターを使用する利点としては次のようなものがあります。

 ・一度に使用可能な機能全体から考えるとコンパクトであるのが良い
 ・複数の効果の一連の組み合わせをひとまとめに保存したり呼び出せたりするのが良い
 ・個別の機能を買い揃える事に比べた割安感があるのが良い
 ・製品によっては、マイクロフォンなどの、エレキギターよりも微弱な入力信号を入力しても問題なく効果が得られるようにつくられていたり、キャノン端子での入力など様々な入力に対応したものがあり便利
 ・近年までは単体製品のマルチエフェクターと言えば据え置き型か床置きペダルタイプの中大型製品が主だったが、近頃は従来の小型床置きエフェクター一個分程度の大きさでアコースティック楽器からの入力に対応した製品も定番化しており、これでも最低限の音作りは過不足無く出来るので便利

一方でマルチエフェクター独特の不満点としては、それぞれの立場ごとに次の様なものかあるようです。

 ・機能の全体像と個別の機能がそれぞれに掴みづらいため、エフェクターについての経験者や予習が済んでいる人向けに感じられて、初学者には取っつきづらい
 ・慣れた人にとっても、単機能のエフェクター製品に比べると個々の機能の設定にアクセスしづらく感じられる製品があり不満
 ・マルチエフェクター内でのエフェクトの並びの途中に、他で気に入っている単機能エフェクター製品を組み合わせられないのが不満
 ・個別の機能については詳しく調査しきれないまま見切り発車で購入した所、あとになってから自分にとっての肝心な機能が不足している事がわかった

マルチエフェクター内には、典型的な組み合わせで複数のエフェクトを繋いだ機能が用意されているのが普通ですが、これから慣れるにあたっては、個々のエフェクトを個別に試してみることを面倒がらずにやってみられたら宜しいのではないかと思います。
色々な感想はあるものですが、コンパクトに運搬する事が出来て、足下で機能切り替えが可能な楽器向けマルチエフェクターは、大変便利な製品です。「フレームドラム用マルチエフェクター」というのが販売されていないのが残念です。
マルチエフェクター内には、典型的な組み合わせで複数のエフェクトを繋いだ機能が用意されているのが普通ですが、これから慣れるにあたっては、個々のエフェクトを個別に試してみることを面倒がらずにやってみられたら宜しいのではないかと思います。
もし床置きペダルタイプの中で、ギター用かアコースティックギター用かベース用かという事で迷うような事がありましたら、うしろふたつの中から選ぶ事と、実際にCubeMic楽器を接続してから、アンプ出力とヘッドフォン出力とに十分余裕のある事を確認されてから購入される事をお勧めします。それでもし出力音量が小さいとか出力音量に余裕がないと感じられる時には、その機器に対して入力信号が十分大きくないという事かもしれません。その時には先に述べた「プリアンプ」の出番ですよ。
エフェクターの実際の効果については、この後の項で述べます。


イコライザーに関して

イコライザーというのは、音声の聞こえ方のうち、甲高い音、中くらいの音、低い音といった風に、音の高さに関してバランスを任意に整えるための装置です。独立した製品も、何かの製品の一機能という事もあります。

イコライザーが活用される場面について挙げてみます。

例えば、声や楽器の音というのはすぐ近くで聴くと低音感豊かに響きますが、離れて聴いた場合には至近で聴く時に比べると、低音よりも高音にかたよって感じられるものです。逆に言えば、低音感豊かなように調整されて再生された音は間近で演奏されている様な感じを表現しますし、低音感が控えめな音は、すこし離れて演奏を聴いているような雰囲気を表現する事ができます。ハウリング対策などのためにも近接収音が好ましいものの、いかにも近接収音らしい音は再生したくないというような場合には、近接収音しながらもイコライザー処理によって、離れた所から聞いているような落ち着いた音色と、近接収音の利点とを両立させる事が出来ます。
こういった用法としては他に、マイクロフォン、ピエゾピックアップ、CubeMicといった収音機器に関わらず、収音結果に機器の特性や設置を原因とした独特の癖があるような場合にも、イコライザーでの音質補正が、とても一般的に用いられています。

逆に、あえて低音感や高音感を増したバランスにする事で、電気信号処理ならではの楽器音を得る事も出来るでしょう。これをお読みの方はこれまでの演奏経験から、「アンサンブル中で前に出て聞こえる音」とか「力強い音」とか「小音量でも埋もれづらい音」また「ユニークにデフォルメした音」などについての要望や課題をお持ちかも知れません。奏者がイコライザーをはじめとするエフェクターを用いる事により、それらを積極的な「音作り」として実現する事が出来ます。

本稿で先にも挙げた事ですが「どういった音で演奏したいという具体的なイメージを持っているのは奏者自身だけだ」というのは良くある事です。CubeMicを使用する場合には、演奏機会ごとに収音結果が著しく違うという事は起こりづらいですから、奏者がエフェクターについて多少の知見を持つという事は、事前によく検討した「音作り」を携えてアンサンブルに参加出来るようになるという事です。これは実際の演奏の場面でとても役立ちます。

さてイコライザー製品には、楽器の音作りを容易にするための、それぞれの楽器の役割に適した「ギター用イコライザー」とか「ベース用イコライザー」といった専用品もありますし、より広範囲な場面に適した汎用の製品もあります。
もしCubeMicとフレームドラムとの組み合わせにこれらを用いるとしたら、用途が特化された楽器用製品の中では、マルチエフェクターの項で述べたのと同様に、「エレキギター向け」よりも「アコースティックギター向け」か「ベースギター向け」のものが無難な選択ではないかと思います。これはその製品が想定している周波数についての特性(楽器の音の高さの成分ごとに期待される振る舞いの違い)が理由です。
また、汎用品を用いれば、こちらの方が操作が複雑になる傾向はありますが、より細やかで自然な楽器音のための音作りも可能になるのではないかと思います。

さて一言でイコライザーと言っても、この様に目的に応じて製品ごとに機能や操作方法が様々あります。例えば、ごく簡単な操作だけで全体のバランスを調整する事に長けた製品や、複雑な指定が可能な製品、特に限定された音の高さだけを指定して操作する事が出来る製品や、指定する広い範囲を一度に操作できるものなどです。
また、どれくらい強い影響を与えるかという事でも製品によっての特色があります。
この様に、操作方法や得られる音質の特徴に製品ごとの個性がありますが、CubeMic楽器の音作りという事を考えた時には、これらのどのイコライザーも有効ですから、これらの中から運用目的と相性の良い製品を探してみて下さい。

ところで楽器単体の「音作り」を行う以外にも、イコライザーの出番はあります。例えば、より再生環境に関係するような場面での活用方法です。いくつかの例を挙げますが、これらは奏者のシステム内で行われる事もある一方で、PAや録音技術として行われる事が多いです。「そういう事もあるかな」とか「時々は似た様な考え方が音作りにも役立つかも知れない」という程度に読んで頂ければ良いのではないかと思いますが、これに関しても少し述べます。

いくつもの収音源からのものを同時に再生するような場合に、それぞれの音が混ざりすぎて聴き取りづらいという様な事は良く起こるのですが、それぞれの音をイコライザー処理することでアンサンブル全体を整えるという事があります。ギターと歌声の音の高さ(その音が備えている周波数)が似ていすぎるので歌う言葉が聞き取りづらいような場合には、その問題となる音の高さだけに関してイコライザー処理をする事で、歌声全体の音量はそのままで良い結果を得るとか、ベースギターで演奏される低い音の高さとフレームドラムで演奏される低い音の高さが似ているため演奏の効果が表れづらいという時に、それぞれの楽器の特定の音の高さに関してだけイコライザー処理する事で、すっきりと住み分けされた聞こえと好ましい演奏効果を実現するといった風です。

次にその他の例になりますが、ひとつの楽器の演奏音がその演奏環境ではどうしても好ましくなく響くという事があります。ある音の高さだけが共鳴し合いやすく特にスピーカーからの再生音がハウリングするとか、楽器や会場のどこかから共鳴した耳障りな音がするとかといった事です。これもイコライザーを用いて対策されるような事柄です。

このように、「音作り」でもその後の過程でも、イコライザーというエフェクターは活躍します。これに加えて「ある音の高さの範囲にだけ他のエフェクターを働かせたい」という風に、他のエフェクターと組み合わせても用いられます。音響処理をするにあたってイコライザーは最重要なエフェクターです。
CubeMic楽器を運用するにあたってもこれは言えますから、まずは最低限ひとつ、目的に合ったイコライザーを得て下さい。マルチエフェクターを選択する場合にも、備わったイコライザーが運用目的に適っているかどうかいうのは、大事な検討点だと言えます。


コンプレッサーに関して

音の大きさを調整するエフェクターのひとつにコンプレッサーという仲間があります。普通「音の大きさを調整する」と言うと「ボリュームを上げ下げする」といった風に、その時鳴っている音全体を同時に操作した結果を想像するものですが、コンプレッサーの効果はもっと入力音量や鳴り始めてからの時間経過に関しての場合分けを伴った働きをします。たとえば、「小さく鳴っている音は大きくして通すが、最初から大きめに鳴っている音はそのままに通す」とか「短く鳴る音が入力されたら、これをもうしばらく長く鳴るように、はやい減衰がゆっくりした減衰になるように出力する」とか「長く鳴る音が入力されたら、指定したある程度の時間でこの音の出力を止めてしまう」という風に、音の鳴り方の振る舞いを音量に関して変えてしまうのが、コンプレッサーの効果です。楽器音に関して言えば、音の伸び、歯切れ、音量変化の幅といった事に関する効果を得るために使用されるエフェクターです。

コンプレッサーの仲間には「リミッター」というエフェクターもあります。これは、「指定範囲内の音量が入力されているうちは何もせずに通すが、入力音量が指定値を超えた時には通すのを止めるか、あるいは指定の最大音量と同じ大きさにしてから通す」という効果を得るためのものです。ここでは名前の紹介にとどめて、コンプレッサーの一部として、両者をあまり区別せずに扱おうと思います。実際、コンプレッサーでもあるしリミッターでもあるという楽器向けエフェクター製品もあります。その他には、楽器向けコンプレッサー製品で「マキシマイザー」という呼び名のものもあります。本稿では「音量全体の操作をする以外にも、部分的に音量を操作するやり方がある」という事をご紹介出来れば良いと思いますから、あまりこれらの区別はしません。

コンプレッサーの使用例を挙げてみます。
フレームドラムでは、膜の周辺で小さく弱い音を出す奏法と、膜の中心で大きな強い音を出す奏法が良く併用されます。これは近い距離で生演奏を聴く時や少ない人数で良く響く舞台で演奏される場合にはあまり問題とされないのですが、他の電気楽器と演奏するとか電気的に集音してバンド向けのライブハウスなどの環境で再生するという事になると、こういった奏法での小さく弱い音と大きく強い音の性質の幅が広いために、大きく強い音を丁度良く聴かせようとすると小さく弱い音が再生音から聴こえないとか、演奏者同士でも小さく弱い音の演奏効果を十分に感じられないという事が起こります。このような場合への対策として適度にコンプレッサーを使用すると、小さく弱い音と大きく強い音との音響上の差が狭まり、小さく弱い音が演奏の印象を変えないままで再生音から聴こえやすくなり、良い結果を得られます。

一方でこの効果が適切を超えて強すぎると、楽器音が奏法に対して不自然に聴こえたり、演奏によって音量を変化させる効果が乏しくなったりします。不自然な結果にならないようにしながらもより大きな効果を得るには、ある音程の範囲にだけ強くコンプレッサー効果を適用するとかといった、イコライザーとの複合的な設定を試みる必要があるかも知れません。コンプレッサー製品によっては、このような、詳細な振る舞いを設定できるものがありますし、特に楽器用コンプレッサーでは、細かな数値などは気にしなくても、簡単な設定でこういった振る舞いをするものもあります。お使いの楽器との相性が良い製品と出会えれば、容易に適切な効果を得られる可能性があります。
汎用的なエフェクター製品は設定値が複雑な傾向がありますが、コンピューター環境で使用するソフトウエアの場合には用途や場面を想定した設定例があらかじめ豊富に用意されており、それらから選択するだけで簡単に良い結果を得られやすいというものがよくあります。フレームドラムに適用する場合にも、それらを元に、ご自分の音色や奏法に合った調整値を探す事で、音楽的な不自然さのない、好ましい結果を得られやすいのではないかと思います。

コンプレッサーの他の場面での活用法の例として、大きなフレームドラムの低音が長く響きすぎるために合奏する楽器や場所を制限してしまう事に対して対応する、という事があります。長く豊かな低音は楽器独特の魅力ですが、拡声環境によっては合奏する他の楽器の音の邪魔をしてしまうとか、会場に響きすぎるためにハウリングの心配に繋がり、奏者の期待ほど大きな音量で演奏できないという事があります。屋外で離れたところから聴くフレームドラムの低音はそれほど長く響かないのに、屋内で近接収音すると、期待している程度よりも長く大きく響きすぎる低音になってしまうという事もあります。こういった事を解消するための音作りとしては、コンプレッサーの効果によって長い低音を必要十分な長さで消音するという方法があります。

他には、演奏した音に力強さを伴わせたいという時にコンプレッサーを用いる例があります。
膜を叩いた音、膜でベンド奏法した音、ジングルやサワリから得られる音、胴を叩いて鳴らす音などそれぞれに言える事なのですが、実際に演奏ながら感じているよりも、集音された音が弱弱しく演奏効果が乏しく感じられるという場合があります。これは、イコライザーの活躍場面でもありますが、コンプレッサーの活躍場面でもあります。
たとえば、膜の周辺での細やかな奏法や、ジングルや胴を鳴らす歯切れ良い発音などをコンプレッサーの効果により、よりはっきりと聴き取りやすく再生します。たとえば、良く張った膜の音をよりまとまりのある力強い音でいきいきと再生します。たとえば、ベント奏法の結果をより伸びやかにはっきりと再生します。例えば、膜を強く押さえつける様に叩いた時の低音感を、より豊かに再生するようにします。

これらの方法で演奏に不自然さを生まないためにもやはり、入力音量に対して適切な設定値とする必要がありますが、これをマイクロフォン収音で行うには都度の設定値の見直しが必要になるかも知れません。マイクロフォンには環境音も集音されますし、設置しなおすたびに同じような設置状況や同じような集音結果にならない事もよくあるからです。ここで、あらかじめ決まった楽器に設置されたCubeMic収音なら、こういった音作りも、普段使いの選択肢として取り入れやすくなります。

しかしながらここでご紹介したのは、少々極端で、良い所取りの例でした。実際には「ある奏法に適したコンプレッサー設定が、ある奏法の効果を弱めてしまう」という事は、ひとつの楽器で様々な奏法をするフレームドラムでは良く起こります。他の楽器でのコンプレッサーが重用される場面としてはエレキギターのカッティングやベースギターのスラップ奏法などがありますが、これらでは奏法に応じてコンプレッサー効果の具合を使い分ける事が多い様です。また、打楽器に使用される場合にも、例えばドラムセットであれば、個々の太鼓ごとに別々のマイクロフォンが用意されていて、音色ごとに個別のコンプレッサー設定を施す事が可能です。
この項ではCubeMic収音したフレームドラムにとっての、基本的な音作りのためのエフェクター活用の立場から述べていますから、演奏場面ごとに切り替えて設定するものよりも、普段から共通して適用出来るものが求められているでしょう。そのためにはいくつかの奏法に配慮して、採用するエフェクター製品や丁度良い設定値をバランス感を持って検討する事になりそうです。その上で、ある演奏場面専用のコンプレッサー設定があるという事であれば、これはまさに電気楽器としての自由さという事になるのではないでしょうか。例えば、ソロ演奏の場面で特別「ビックなサウンド」に聴こえる設定であるとか、ジングルで細かく刻む伴奏の場面に適した「粒立ちの良いサウンド」の設定であるとかです。機会があれば、こういったものもまた、是非お試しになってください。

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