160517_拍のウラの位置とか拍のタッチの話とか

別稿『160425 16ビートを練習しているのだけれど、という話に関連して』からの派生で、また書きます。

わかってる方には文字で読むには退屈かも知れず、そうでない方には文字では何言ってるのかわからない、というような話題かも知れないと、心配しつつ、公開します。

(※18MAY16に動画解説を追加しました。文末にリンクがあります。)


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今稿の話題は、『「16ビート」と「16noteフィール」の違いに関連した話』という風なところから始めたいと思います。

つまり、見かけ上、16分音符が並んだある種のドラムの譜面やリズムパターンの事を、日本ではこれは「16ビートだ」という風に、しばしば習慣的に言うのですが、一方で「16ビートというのは誤訳で、具体的な何かを示す言葉ではない」とか、「正確に言うなら16ビートは16拍子の事であって、それの事ではない」とか、「言いたい事に近いものでは、4分の4拍子の16noteフィールという様な言い方なら、まあわかる」なんて事が言われたりもするのです。

結局は「16ビート」と言い方に関しても、譜面上の見かけというよりも、ある種の音楽スタイルを指示するものとして習慣的に認知されているので、実用上は問題が無かったり、場合によっては「4分の4拍子の16noteフィールという様な言い方」以上に具体的な(ある種のファンク系ロックやポップの)スタイルを指したりもする事さえあるので、要は、「見かけ上の音符以上に、やはり音楽スタイルへの理解や意図の共有が大事ですね」みたいな話に落ち着くところです(これは、「4ビート」や「8ビート」という語に関しても、まあ同様です)。

では、その「スタイルへの理解」とか「意図」とかってなんでしょうか、という事のある側面について扱いたいというのが、今稿です。もちろん、そのごく一面についてですけれども。


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まず紙面一枚目です。

ex.1」と「ex.2」とを登場させます。
これらは、「ハイハット(H.H.)」部分以外は同一の指示や音符が並んだ譜面です。

このどちらにも演奏指示として「pop-funk」とあり、これが日本風にいうところの「16ビートで演奏してください」というのの、バリエーションのひとつだとして下さい。これは、演奏の調子を指示するものです。

ex.1」ではハイハット(H.H.)を16分音符で演奏する事になっていますから、これをそのままやれば「16ビート」と言う事にもなりそうです。一方で、「ex.2」には16分音符が登場しませんが、同様の「pop-funk」指示があり、つまりこれも「16ビートで演奏してください」という事になります。

16分音符がないのに「16ビートで演奏」は出来るものでしょうか。もしそう考えてしまう様でしたら、そのとらえ方は、ここまでで切り換えて下さい。「pop-funk」の様な指示の意図としては、「16分音符を演奏する」のではなく、「16noteフィール(16分音符の感じ)」で演奏します。もう少し具体的に言うと、一拍の「拍のウラ(後述)」が16分音符的だというのが、これなのです。

それに加えて、「16noteフィール」も「16ビート」も、見かけ上は4分の4拍子ですが、実際の機能としては、ここに挙がったいくつかの拍子から構成される「複合拍子」になっています。紙面1の下の方で指摘しているのが、その点についての事です。



複合拍子を成す一拍が8分音符ではなく16分音符として指摘されているのは「pop-funk」という指示に由来した判別です。つまり、「pop-funk」という調子の指示は、音楽スタイルの指示であり、ここでの演奏はどんな感じの一拍の連なりか、という指示を、すでに含んでいます

そのため、「ex.2」では、ドラムキットのここでの演奏としては16分音符が登場していないのですが、合奏全体としては、具体的、あるいは概念的に16分音符で構成された一拍一拍が演奏されていると考えて良いです。その様にして、16分音符が並んだ「ex.1」も16分音符が並んでいない「ex.2」のどちらでも、「pop-funk」という指示が有効であるという事になります。

つまり、「ex.2」においても、8分音符の演奏であるのにもかかわらず、「ex.1」がそうである様に、pop-funkの感じらしく、あるいは16noteフィールらしく演奏されるのです。

その事についてもう少し詳しく説明したいので、そのために、説明に必要な構成要素を順に登場させていきたいと思います。

(文末の解説動画では、最初の2分半くらいの内容が、ここまで相当です。もしこのあとの用語解説や、他稿での既扱内容について再び扱う必要がない場合は、 1:01:15 くらいまで動画を飛ばしてしまっても大丈夫です。紙面は#7まで進む事が出来ます。)


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紙面2です。ここでは、ex.1とex.2に共通の16分音符的な一拍子が、「pop-funk」という調子の指示から由来しているという指摘をしています。


紙面3と4では、「拍のウラ」が16分音符的な一拍子においての、八分音符と十六分音符それぞれの、概念的な捉え方を扱っています。

(動画中でもエクスキューズがあるのですが、ここでの譜面はどれも、実際の演奏指示としては不正確なところがあり、一拍の捉え方をあらわすための概念的なものです。)




紙面5では、さらに「アップビート」と「ダウンビート」の用語を引き入れます。



さてでは、紙面6では、ここまでの用語を用いてex.1を読み直します

一般の複合拍子の演奏では、その構成の拍子それぞれが影響する割合は様々で、一拍子の影響の割合が控えめな場合などでは、ここでの例の様にははっきりと「アップビート」の16分音符を指摘出来ない場合も、ままあります。しかし今回は、「16分音符的な一拍子」の影響に良く注目しての検証ですから、複合拍子としてのex.1でも、この「アップビート」は見つけやすい構成なのだと言う風にお考え下さい。

また、もし実際的な「pop-funk」の場面で「アップビート」の16分音符を見て取りづらい事があっても、このあとのまとめの段で「拍のオモテを考える事と拍のオモテを考える事は表裏一体です」という話が出てきますから、その方向で接する事が出来れば、特に問題はないです。後述ですが、「拍のウラ」を確かめるかわりに、「拍のオモテ」を確認されたら、それで同じ事なのです。




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さて、ここまでは地ならしでした。紙面7のここから、本題に入ります

ex.3が登場して、これをex.1やex.2と比較します。



ex.3の「拍のウラ」とex.1やex.2の「拍のウラ」との違いはそのまま、両者の「拍のオモテ」の違いでもあります。

ここまでの様に分析的に扱う時には、「拍のウラ」に注目する方法には利がありましたが、実際の演奏の場面では、必ずしも「拍のウラ」にばかり注目してはいません。どちらかというと、それと表裏一体であるところの「拍のオモテ」のあり様を維持したり管理したり調整したり受容したり楽しんだりします。

最後にその事の指摘をして、それで、今稿はおわりです。


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どうぞ実際の録音物などを、まず「拍のウラ」のスタイルを補助線として確かめてから、そのあとはそれと対応する「拍のオモテ」の感じに注目して、聴取してみてください。
「拍のウラ」は必ずしも、ハイハットシンバルやトップシンバルなどの短い間隔で演奏される楽器の音符そのものとは、いつも一致するとは限りません(もちろん、一致する場合も多いですが)。
「拍のオモテ」や「拍のウラ」のあり様には、その音楽スタイル共通の様子や雰囲気と、同時に、その演奏独特の感じや雰囲気とがどちらもそれぞれに感じ取れるのではないかと思います。

そして出来れば、その「拍のオモテ」で[と]ダンスをしてください。比喩的にでも、実際的にでも良いです。演奏と同じ一拍一拍を共有してする行為のすべてが、ダンスであり、また、音楽なんですよ多分。こんなの、ごくささやかな事なのですけれども、しかしなかなか味わい深い事柄です。ぜひどうぞ。


(話題が飛躍しますが、わたしとしては、その「拍のオモテ」の味わいの延長に、音楽のメロディーやハーモニーの味わいもまた存在している様な感じがしています。ですから、何かの音楽を楽しんだり考えたりする時に、まず押さえておくのは、この様な「拍のオモテの感じ」なんじゃないかなあ、なんて風にも思っています。まあしかし、これは余談です。)


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解説動画を追加しました (18MAY16)。

中盤の用語解説が長いので、飛ばしても大丈夫な方は、 1:01:15 くらいからとうぞ。そしたら15分強で終わります。


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