名誉毀損等の「当たりや」達1

名誉毀損等の「当たりや」達1
前書き
インターネットの普及で、誰しもが「公然と」発信ができるようになった。インターネットのない時代、喫茶店で友達相手に言っていた何気ない悪口も、X(Twitter)で呟けば、立派な違法行為となる。
こうして激増した誹謗中傷行為により、令和2年5月23日、女子プロレスラーであった木村花さんが、若い命を断った。
この事件は、大々的に報道され、誹謗中傷に対する社会的非難が高まり、プロバイダー責任制限法が改正されるきっかけとなった。誹謗中傷は目に余るものがあったから、この動き自体は歓迎すべきことである。だが、光があれば闇があり、痴漢が居れば痴漢をでっちあげる不逞の輩がいる。誹謗中傷の被害者がいる一方で、自らの暴言等で誹謗中傷を引き出し、「加害者」を提訴する者もいる。
こうした「当たりや」がどこまで意図的にやっているかを証明するのは困難であるが、外形的には意図的にやっていると強く疑われる者もいる。このような例を社会に問う事で、誹謗中傷をなくす一助としたい。
私は、つばさの党のスポンサーとされるY氏から、身に覚えのない名誉毀損を理由に5回も提訴され、いずれも本人訴訟で勝訴した。また、Y氏を含む加害者を提訴して勝訴したこともある。この過程で、毎日裁判所に通うようになり、事件記録の閲覧と傍聴を繰り返すようになった。これが裁判ウオッチャーとなったきっかけである。自慢するわけではないが、おそらく、民事訴訟の閲覧数では日本一ではないかと自負している。そして、裁判ウオッチャーとして、事件記録の閲覧を繰り返す中で、誹謗中傷の被害者とされる者が、被害を自招していると思われる例を多数目にしてきた。裁判記録については、YouTubeの「さんそんチャンネル」で公開しているが、近時、一時はなりを潜めていた、「当たりや」が活動を再開していることから、書面にまとめることとした。
感想などをお寄せいただければ幸いである。
Mail kanebo1620@tob.name
X(Twitter) kanebo162
  山口三尊

第一編 名誉毀損等について
1 名誉毀損等とは
 (1) 名誉毀損と侮辱
   最初にお断りしておくが、本書で取り扱う「名誉毀損等」というのは、民事裁判で違法と評価される「名誉毀損」と「侮辱」のことである。
   「名誉毀損」というのは、事実を摘示(てきし)するなどして、被害者の社会的評価を低下させることである。例えば、「令和6年1月26日に、山口三尊は、エロ本を万引きした」とX(Twitter)に書き込んだとしよう。もちろん、私(山口三尊)は、エロ本を万引きなどしていないのだが、それを措くとして、万引きというのは、窃盗という犯罪行為だから、これを私(山口三尊)がしたというのは、私(山口三尊)の社会的評価を低下させるだろう。これが典型的な「名誉毀損」である。
   「侮辱」というのは、名誉感情を侵害することである。例えば、誰かが「山口三尊は、死んでほしい」とX(Twitter)に書き込んだとしよう。「死んでほしい」というのは、書き手の気持ちに過ぎず、小学校で流行しているというひろゆき流に言えば、「貴方の感想ですよね」ということになる。だから、別に私(山口三尊)の社会的評価は低下しない。しかし、書き込まれた私(山口三尊)は、ショックだろう。だから、このような名誉感情侵害が「侮辱」ということになる。もっとも、社会生活の中で、名誉感情が傷つくことはよくあることだ。例えば議論の最中に、「そんなバカな」と言われたら、言われた方は傷つくかも知れない。だが、こういう発言をすべて違法としていたら、批評や批判は一切できないことになる。そこで、社会通念上受忍すべき限度を超えて人の名誉感情を傷つける行為のみが違法な「侮辱」に当たることになる。議論の最中に「そんなバカな」と言われたくらいでは違法な「侮辱」にはならない。
   このように、社会的評価を低下させるのが名誉毀損、名誉感情を(社会通念上受忍すべき限度を超えて)侵害するのが侮辱である。
   ところで、民事訴訟の訴状では、請求の根拠条文を挙げることが多いのだが、名誉毀損等を理由に損害賠償を請求するときの条文は民法709条である。訴状には「民法第709条」に基づき」としか書かれない事がほとんどだが、あえて全文を掲げると以下のようになる。

 (不法行為による損害賠償
第709条 
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
 
民法第709条は、交通事故から不貞行為まで幅広くカバーする条文であり、何が「名誉毀損」に当たり、何が「侮辱」なのか、正直言ってよく分からない。だから、その辺りは、刑法の条文を参考に決めることになる。
 
 (2) 刑事と民事
   名誉毀損や侮辱行為をしてしまった場合、理論的には懲役や罰金などの刑事罰の対象となるとともに、民事上損害賠償の対象となる。もっとも、X(Twitter)や5チャンネル(旧2チャンネル)では、毎日のように膨大な名誉毀損や侮辱が行われている。これ全てに警察が対応するのはおよそ不可能だろう。このため、殺害予告等の影響が重大な場合や、マスコミに広く報道されたような事件を除いては、逮捕・起訴に至らないのが普通だ。
   そこで、ほとんどの名誉毀損や侮辱行為は、民事上の損害賠償や投稿削除請求、(場合によっては謝罪広告請求)の問題として議論されることになる。
   ただ、名誉毀損や侮辱の根拠条文である民法709条は、広すぎて何がなんだか分からない。そこで、民事の話ではあるのだが、刑法の条文を参考にすることになる。
  その条文とは、これだ。
  (名誉毀き損)
第230条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
  (侮辱)
第231条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
   ここで、鋭い読者は、「あれ?」と思ったかもしれない。
   そう、刑法では、事実を摘示するのが名誉毀損、事実を摘示しないのが侮辱ということされている。
   「山口、お前、嘘言ったんか」と言うのはちょっと待ってもらいたい。刑事裁判と言うのは、人を刑務所に閉じ込めるという重大な効果をもたらすもの。これに対して民事裁判は、「お金を払えば許してもらえる(意訳)」というものに過ぎない。だから民事裁判の方が基準が緩くても、或る意味当然といえるだろう。つまり、刑事裁判では、事実を摘示して人の社会的評価を低下させる行為が名誉毀損であるのに対し、民事裁判では、事実を摘示してもしなくても、人の社会的評価を低下させるのか名誉毀損であり、意見・論評による社会的評価の低下も名誉毀損に含まれることになる。
   「なんか、ややこしいなあ」と思った方、今後は、基本的に民事裁判の話しかしないので、そこはご理解ください。
   なお、「裁判ウオッチャー」というと、刑事裁判の傍聴を趣味にしている人を指すことが一般である。これは、刑事裁判では書面を読み上げるので、事件のことをよく知らずに傍聴してもストーリーが分かるからだ。これに対して、民事裁判では、(書類に書いてあることを)「陳述します」というだけで、予備知識がないと、何がなんだか分からない。しかし、刑事裁判では基本的には認められない裁判所類の閲覧が民事裁判では認められているから、書類をじっくり読み込んで期日に臨むことができる。これが、私が極少数の「民事裁判ウオッチャー」をやっている理由である。まあ、本当は、刑事裁判は当事者になったことがないからよくわからない、というのが本当の理由なのだが、これは内緒にしておいてほしい(笑)。

 (3) 一般人が基準
   さて、名誉毀損にしても、侮辱にしても、誰を基準にするかで話は変わってくる。侮辱であれば特に分かりやすいと思うが、何を言われたら傷つくかは人それぞれだ。「そんなバカな」で傷つく「デリケート」な人がいる一方、「死ね」と100回言われても動じない「バリケード」な人もいる。だが、実際に被害者が傷ついたかどうかを基準にすると、「傷ついたぶりっ子」が裁判所に蔓延することになるし、相手の性格をよく知らない「加害者」にしてみると、どこまで言って良いのかわからなくなって困ることになる。そこで、裁判では、一般人を基準にすることになっている。
  これは、名誉毀損についても同じで、最高裁判所は「ある表現の内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該表現についての一般人の普通の注意と理解の仕方を基準として判断するのが相当である(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決)」なんて判決に書いていたりする。
  例えば、「平成10年に、不動産鑑定士試験に合格した受験番号1163の人物は、令和6年現在、童貞である」とX(Twitter)に書かれたとしよう。1163番の人物はドキリとするかもしれないが、一般人には「1163番」が誰のことか分からない。だからこれは、私(=1163番)に対する名誉毀損にはならないということになる。もっとも、私(山口三尊)が「平成10年に、不動産鑑定士試験に合格した受験番号1163の人物」であると公表してしまった以上、今後、この手は通用しないので、悪しからずご了承いただきたい(笑)。
  なお、蛇足ながら、ここでいう「一般人」は、「有権者100人に聞きました」とは必ずしも一致しない。例えば、「量子論について語るスレッド」に書きこまれた投稿であれば、「量子論」についてある程度の知識を持っている者が「一般人」ということになる。

 (4) 名誉毀損の要件
   民事裁判で名誉毀損となるためには、公然と、事実を摘示するなどして、人の社会的評価を低下させることが必要である。もっとも、社会的評価が低下する場合でも、公共性のある事柄について、公益を図る目的で、真実を述べたような場合には、違法性が阻却(そきゃく)される、つまり、不法行為とはならない。
   名誉毀損となるには、まず、公然性が必要である。5チャンネルでよく言われる「チラシの裏に書いてろ」であれば、誰の目にも触れない可能性が高いから、公然とはいえない。裁判例では、伝播可能性があれば、肯定するものが多く、例えば、東京地方裁判所平成29年9月27日(東京地裁平成28年(ワ)第10546号)は、「当該表現により社会的評価が低下したというためには、不特定多数の者に当該表現の内容が伝播する可能性があったことが必要だというべきである」とし、「婚費準備書面は、公開の法廷で陳述されたものであり、かつ、本件婚費準備書面は、訴訟記録として何人においても閲覧できること(民事訴訟法91条1項)に照らすと、不特定又は多数の者にその内容が伝播する可能性があったというべきである」として、婚費準備書面について公然性を肯定している。
  なお、私は、弁護士のТから、「弁護士懲戒請求書によって名誉毀損された」として提訴されているのだが(大阪地裁令和6年(ワ)第7136号)、弁護士懲戒請求は非公開の手続きだし、審査をする弁護士は守秘義務を負っているのだから、公然性が無いと主張している。
   また、「人の社会的評価を低下させる」ためには、その前提として、「その人の事だとわかる」ことが必要だ。これを「同定可能性」という。
 
 (5) 事実摘示と意見論評
   刑事裁判と異なり、民事裁判では、事実を摘示しない意見論評でも名誉毀損に該当する。だから、事実の摘示なのか、意見論評なのかが問題になることがある。
   この点については、判例は、証拠によって決することができるかどうか、を基準としているようである。例えば、最高裁の判例には、「一般の利用者の普通の注意と読み方とを基準に、前後の文脈や投稿の当時に一般の利用者が有していた知識又は経験等を考慮して、当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと解されるときは、当該表現は、上記特定の事項についての事実を摘示するものと解し、上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や議論などは、意見ないし論評の表明に属すると解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決)」というものがある。
  事実の摘示か、意見論評かなんてどうでもいいじゃないか、と思うかもしれないが、実際にはこの認定が勝敗に直結することもある。具体的には、事実の摘示とした方が原告(被害者)に有利、意見論評とすると被告(加害者)に有利になることが多い。理由は2つ。まず、意見論評であれば、ひろゆき流、「あなたの意見ですよね」で、社会的評価の低下が生じないと認定されることがある。理由の2つ目は、真実性の立証が楽だからである。「甲という事実の摘示」であれば、「甲事実」自体を立証しなければならないのに対し、「αという意見論評」であれば、「αという意見を導き得る事実A、事実B、事実Cのいずれか」を立証すれば足りるからである。
 これが実際に勝敗に直結したこともある。後の本編で取り上げる予定であるが、インフルエンサーのHが、「妊活詐欺」と投稿した3者を訴えた事例である。東京地方裁判所は、インフルエンサーHがトイアンナ氏を訴えた事件(令和2年(ワ)第20028号)、及び小林医師を訴えた事件(令和2年(ワ)第31895号)では、「意見・論評」であるとして、インフルエンサーHの請求を棄却したのに対し、AТ氏を訴えた事件(令和3年(ワ)第6060号)では、「事実摘示」であると認定した上で、請求を一部認容した。もっともこの事件では、東京高等裁判所は「妊活詐欺」は真実であると認定してその旨の請求を棄却している(令和3年(ネ)第4662号)ので、地裁の裁判官が結論先にありきで事実摘示と認定した可能性はある。
 なお、名誉毀損の世界では、「事実」には嘘も含まれ、嘘でない「事実」は「真実」ということになっている。もっとも、日常会話では、「事実」は「真実」の意味で使う事が多く、私のYouTubeチャンネル、「三尊チャンネル」でもそのような意味で使っていることがある。見つけた際には寛大な心で視聴いただけると幸いである(笑)。
※ 以下は「目次」です。

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