Visit a collector's house
2019 年の夏至を過ぎたパリ。 gallery and shop 山小屋の佐知子と、デザイナーの美緒子、ことり食堂店主のんが、アーティストのコバヤシエツコ(エツツ)の案内で彼女の作品を多数所有するコレクター、ミシェルの家を訪ねた。パリのピガールにある自宅の扉を開けるとそこは「エツツミュージアム」と言えるくらい大小様々な作品が至るところに飾られていた。そこにあったのは、エツツがパリに来たばかりの初期の頃から、現在に至るまでの異なる時代の作品が見せる豊かな変遷だった。
|| コバヤシエツコ(エツツ)の作品との出会い
美緒子:エツツの作品との出会いはどんな始まりだったんですか?
ミシェル:エツコの作品は、2004 年か2005年頃にモンマルトルにある洋服屋さんで見たのが最初ね。「この絵は誰が描いたの?」と店員に聞いて、彼女のアトリエ「59リヴォリ」の住所を教えてもらって、エツコに会いに行ったの。
この壁に飾ってある作品は、初めて買ったエツコの作品です。エツコの展示を見に行ったときに、誰もこの作品を買おうとしなかった。なぜなら女性がトイレにいる絵だから。だから私はこれを買って、バスに乗って持って帰ったのよ。
エツツ:わはは。ね~、彼女ってクレイジーでしょ!
ミシェル:出会ったばかりの頃は、エツコはフランス語があまりしゃべれなかったから、コミュニケーションを取るのは大変だった。私はとても早口なフランス語を話してたから、彼女は私の言葉を聞き取れなかったかもしれない。
エツツ:笑
美緒子:その後、あなたは時々エツコのアトリエを訪ねて、彼女の絵を買うようになったんですね。それでこんなにたくさんの作品がお家に。
ミシェル:そうなんです。
エツツ:2008 年頃かな。「59リヴォリ」が一時期、改装工事に入ってしまって、その間に仮に使ってたトリニテ地区にあるアトリエが、当時のミシェルの家のすぐ隣だったんだよね。
ミシェル:そうだったわね。それで友人たちにも紹介して、彼らもエツコの作品を買いましたね。トリニテの頃に買った作品もありますよ。
美緒子:初期の頃の女性が裸でトイレにいるような作品から、月夜のデッサンや夜の部屋などのシリーズ、また最新作はカラフルな色面やモチーフの重なり、コラージュのような作品に変化しています。その辺りは、どう感じていますか?
ミシェル:とても面白いわね。彼女はずっと進化していると思う。
私はエツコが描く夜のシーンがとても好きなんです。初期に描かれた廊下に飾っている小さな3 点の作品もそうだし、最新作(2018 年)にも小さいけれど夜の街が描かれている。
廊下に飾っているのがこの小さなスクエアの作品。
最新作はリビングルームの壁に飾っている。
エツツ:夜のシーンね。好きだって言ってくれる人が多いかも。あっちゃん(川内有緒※)もすごい好きって言ってるもんね。
佐知子:私もすごく好き。夜のシリーズ。
エツツ:あと、未完成の作品とか、作品を捨てるっていうときは、全部ちょうだいってミシェルに言われてて、たくさん巻いたやつが彼女の家にあるんだけど。
一同:見たい!
ミシェル:ウィ! 持ってくるわね。
(ロールに巻かれた作品を両手に抱えて持ってくるミシェル)
一同:すごーい! でかーい!
美緒子:この作品好き!
佐知子:ああ、いいねえ。え? なんかこの作品たちって、途中で何か違うとかって思ったわけ?
エツツ:そうそう。これとかは一応完成してるんだけど、なんかね。
佐知子:すごい、たくさん……。
エツツ:捨てようと思った作品をミシェルがとっておいてくれてるわけ。私はアトリエのスペースも広くないし、渡り鳥生活だし、あんまりキープしておけないじゃんか。こんなふうに、ちゃんととっておいてくれるのはありがたいよね。
ミシェル:この作品、セビアン!
エツツ:うん。これは好きだな……。 うん。
佐知子:夜のシリーズ。
美緒子:作品を描くときは、キャンバスを壁に貼った状態で描いてるの?
エツツ:うんそう。こうして見てると、変わってないねえ~、作品。今も続けてやってることだよね。月があったりとか。
(ミシェルさんが次々と作品を掘り起こす)
佐知子:出てくる、出てくる!
エツツ:この辺りはいろいろ嫌気が差してるときだね。
のん:これ、めっちゃおっきい!素敵!
エツツ:2005 年の作品。この頃は大きい作品をたくさん描いて、ガンガン売ってた頃。大きい方が描きやすいんだよね。
美緒子:たくさん絵を描いてたんだね。
エツツ:時間だけはたっぷりあるからね~。
|| 初公開、月夜のデッサンシリーズ
ミシェル:これはエツコのデッサンのシリーズ。
一同:わ~、すごい。
佐知子:初めて見た! わ、月がある!
エツツ:体調悪かった時期に描いたデッサンだよね。2011年頃。あんまりこの頃の作品は好きじゃないんだけど……。
美緒子:え~! すごくいいよ。
佐知子:うん。すごくいい。今とはまた違う、なんとも言えない静けさがあるよね。
のん:うん。好きだな~。なんかさ、寄り添ってくれる感じがするよね。
エツツ:え~、そう? 体調が悪くて一番暗かった頃に描いてるからさあ、なんかそういう状態で描いているから良い気がしないんだよね。
佐知子:そんなことないよ。美しいし、なんかすごく伝わってくる。この頃の作品って、ミシェルさん以外誰も持ってないってことだよね。いや~、この作品が見られて感動だ……。
|| エツコの作品は、何度見ても飽きないし、発見がある
佐知子:ミシェルさん。改めて、エツツの作品の魅力はどんなところだと思いますか。
ミシェル:(最初に購入したトイレの作品を指差して)まずこの女性がトイレにいるという挑発的な面にぐっと惹かれますね。それと、形、透明感のある色の重なり。日付が描いてある。とてもオリジナリティのある作品だと思います。デッサンの中に、家の内側と外側があるのもいいですね。特に日付が刺繍で入っている作品が好き。
彼女の作品を見ると、いろんなものが見えてくる。夢を見られるし、想像が膨らむの。見るたびに違うものが見えてくるのが魅力だと思います。だからいつまで見ていても飽きないし、毎回発見があるんです。
廊下にある作品は、女の子がカフェのカウンターで自分のおっぱいを搾ってカフェオレにしているの。乳は刺繍で描かれてて、名前のサインも刺繍。ケリーバックを肩にかけてるの。トイレもそうだけど、彼女のそういう挑発的で笑いを誘う作品がとても好き。
エツツ:挑発的なことが笑いに繋がったりすることが、私はとっても好き。
この後も赤ワインとチーズ、そしてエツツの作品を肴に、楽しいおしゃべりは深夜まで続く。
ミシェルとすっかり意気投合した一行は、彼女の家を再訪することを誓いながら、素敵な“エツツミュージアム” を後にした。
夢のような時間をありがとう、ミシェル!
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Michéle MISSIRLIU
(ミシェル ミシーリュ/ アートコレクター、ディスプレイディレクター)
私はヴァンセンヌの森の近くのパリ郊外で生まれ、 13 歳になるまでそこに住んでいました。たぶん祖母がアーティストだったことと、両親とよく行っていたイタリア旅行のおかげで 昔からアートが好きでした。夏になると毎年のようにイタリアを訪れ、美しいものをたくさん見てきました。その後、私はイタリア語とエコール・デュ・ルーブルで美術史を学び、インテリア建築の学位を取得して卒業しました。自由な時間があるときは、そのほとんどを博物館や展示会で過ごしてきました。私には「セノグラフィー・エクスポジション」つまりは展示の空間演出デザイナーになりたいという夢がありました。今は、パリのおもちゃ屋さんでディスプレイのディレクターをしています。この仕事のおかげで、自分のクリエイティビティを表現することもできるし、今でも美術館での時間を持てています。
エツコの絵と出会ったのは偶然です。2004 年か2005 年ごろに、モンマルトルの洋服屋さんで一枚の絵を見つけ、私はその作品をいっぺんに好きになりました。「59Rivoli」にいるエツコに会いにいき、トイレに座っている女性が描かれた1.5 メートルの作品を買ったのです。それ以来、彼女の作品を追いかけ続け、様々な作品を購入してきました。エツコの作品のスタイルは常に進化し続けています。私は、彼女の作品をコレクションすることに夢中で、誰にも止められません。いまではペインティングとデッザンを合わせると40 点以上はあると思います。エツコの作品を友人にプレゼントして、この素晴らしいアーティストへの情熱を友人たちとシェアしています! 私とエツコは長年にわたり素敵な関係を築いてきました。今ではエツコは私にとって大切な友人です。
コバヤシエツコ(エツツ/アーティスト)
1972年長野県生まれ。専門的な美術教育を受けずに、2001年に“アーティストになること”を心に決めて渡仏。すぐにパリの伝説的な芸術家のスクワット「59 Rivoli」と出会い、絵を描き始める。大胆な色彩と独特なラインで生まれる絵は「59 Rivoli」を訪れる人々の目にとまり、ほどなくフランス、イギリス、アメリカのギャラリーで個展を開くようになる。以来18年に渡りアーティストとしてパリで暮らす。2019年10月23日〜29日まで渋谷区恵比寿にある「gallery and shop 山小屋」にて4回目の個展を開く。
<個展情報>
Etsuko Kobayashi Exhibition
とあるホテルの明かりを消したとき
2019.10.23 wed - 10.29 tue
Open 13:00 -19:00
@gallery and shop 山小屋
東京都渋谷区恵比寿1-7-6 陸中ビル1F
■Opening Reception 10.23 wed 20:00-22:00
■あなたのための小さなデッサンを描く日
Dessin Day 10.24 thu / 26 sat / 28 mon
“えーとね、今回初めて黒地に描いたんだよねー。でさ、思ったのが 私今までずーと白地に描いてたでしょ、で、いつも余白を残すのが好きでさ、黒地でももちろん余白を作ったわけ。そしたらさ、黒地に色を置いた段階で全然違うの。ん〜なんて言うのかな〜、ふわって浮かび上がってくる感じになるんだよね。でもって、余白の黒い部分はさ、何だろうなぁ、果てしなく深いって感じがしたんだ。今までの白の余白は果てしなく広いって感じだったの。なんかさ白地は濃い霧の果てしない感じとか雪が一面の世界。黒はそれこそ宇宙みたいな深ーくて果てしない感じ。”
企画:MOVE Art Management