村上春樹"ノルウェイの森”。ビスケットの缶という生きる意思について
最初に村上春樹と出会ったのは、小学校の塾の問題でデビュー作の”風の歌を聞け”が問題として取り上げられていて、その時に「おお、こんなにおもしろい物語があるんだ」でした。その時は作者名を見逃してしまい、物語の続きを読むことが出来ませんでした。
中学になり、”ノルウェイの森”や、”世界の終わりとハードボイルドワンダーランド”を読んだ後、村上春樹のデビュー作を探して読んだ時に、
「ああ、あの塾での問題は村上春樹だったんだ」
という感じで本と再会しました。
気づいたら全部の作品を読んでました。
(今も新作が出たら必ず読む作者の一人です)
最初に村上春樹を中学の時に読んだ時は実家に偶然あった単行本です。
大学時代に再読した時は文庫本をブックオフで購入して読みました。
特にノルウェイの森を中学の時に読んで好きになったセリフが
「人生はビスケットの缶だと思えばいいのよ」
「ビスケットの缶にはいろんなビスケットがつまってて、好きなのと好きじゃないのがあるでしょ?それで先に好きなのどんどん食べちゃうと、あとあまり好きじゃないのばっかり残るわよね。私、辛い事あるといつもそう思うのよ。今これやっとくと後になって楽になるって。
人生はビスケットの缶なんだって」 ~村上春樹ノルウェイの森より~
この言葉は村上春樹ファンのなかでもけっこう有名なセリフで、中学の時の僕にとってかなり共感したセリフでした。
このセリフを言った女の子は緑という登場人物で、物語の中でもいわゆる元気キャラ、主人公を励ますことの多い女子です。
こうした、
「今は辛いかもだけど、あとには幸福がきっと待っている」
という思想は様々な宗教やセラピー系でもよく言われる言葉だったりして、自分も悩んでいる友人に同じようなことを言ったことがあります。
「今はつらいかもだけど」
「きっと明日は良いことがあるよ」
10代、そして20代は自然にそういう発想で考えていたし、疑いなく話せていました。
この幸せと不幸の質量保存の法則的な発想、量が決まっていて繰り返されるという発想は新海誠の”天気の子”でも同じような考えがあり、(と、感じた)一番伝えやすいし、納得しやすい考え方です。
天気や時間なども含めて、肌感覚として
「明けない夜は無い」
「いつか朝が来る」
というのは最も小さい頃から感じ続ける体験だからこそ、人生の出来事もそう受け止めやすいんだと。
ただ、悩んでいる当事者、そして自ら死を選んだ友人を振り返って考えると、こういった視点を全く持てなかった人が多かったということです。
目の前の暗闇から朝が来ることを想像するのは、とても難しいんです。
目の前の雨が止むようには、とても見えないんです。
それが実際になにかと戦い続けている、悩んでいる人が見えている景色だったりしたんですよね。
食べたくないビスケットばかり、フォーカスされる感じです。
僕自身も簡単にこうした”ビスケットの缶”のような発想を考えることが出来なくなっていたりします。
今年35歳になる自分も含めてですが、友人や知り合いも解決しようのない問題が起きていることがあります。
家族のことや仕事の悩み、肉体の変化、金銭トラブルなど。
そうした相談や悩みをお酒を飲みながら話すたびに、何も言えない自分が居たりします。
自分自身、最近酷い悩みや解決したい出来事が発生しても、ほぼ解決がむずかしいと、結論付けされてしまっていることもあったりします。
特に人間関係などのトラブルは一切元通りにならず、そのままという状態がとても多いんです。
暗闇のまま、雨のままという出来事も人生は起こるんだということは、中学の時の自分は経験出来ていませんでした。
先日も、そうやって自分自身も「解決しないことあるよね」と考えてしまって、聞くに徹するのみで、特に励ましやアドバイスも言いづらい自分が居たり、言葉が出てこない自分が居たりします。
「食べたくないビスケットを食べ続ける。それが生きるということ」
悩みは解決しづらいし、解決しない、だから出来事をうやむやにして日々過ごす必要があることが、とても多いんですよね。
で、そうした受け止め方すべてが、大人になったんだと考えるようにしたりとか。
ただ、ノルウェイの森を再読してみて思ったことは、そうした悩んでいる当事者に対しては「ビスケットの缶だよ。人生は」と言い切るということも大事なのかなと考えます。
それは根拠無くても、経験を経ても姿勢として決めることが重要なんだと。
自分自身に対しても。疑わずにです。
緑は主人公に話した言葉は、彼女自身の生きるという意思を主人公に伝えるだけで、それはつまり緑の姿勢なんだと。
私は、ビスケットをこう食べると決めているんだと。
悩んでいる人を救おう、励まそうという時に
「それってどうなんだろう?」
という疑問を持つ全く必要無いんですよね。
言い切ると決める。
人に対しても自分に対しても必ずそう貫く。
きっと美味しいビスケットを食べる瞬間がある。
間違いなく、です。
雨は止むし、朝が必ずやってきます。
そして、私はそうして前を向いて進もうとしているあなたを心から尊敬するします。
人生はビスケットの缶ですよ。
と意思を持って話そうと思います。
「まあひとつの哲学ではあるな」
「でもそれ本当よ。私、経験的にそれを学んだもの」と緑は言った。 ~ノルウェイの森より~
(↑セリフの続きです)
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