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「国が自治体に丸投げ」……丸投げはダメ? 自治体は何のためにあるのか

 ワクチン接種事業を自治体に「丸投げ」しているという週刊誌の記事が配信され、少し盛り上がっている。FRIDAYの「「ワクチン接種自治体丸投げ」市長に直電の生々しい中身」という記事だ。

 記事では、とある自治体の市長が「7月末までのワクチン接種完了なんて到底無理です。県庁所在地や大きな市では、年内にできるか見通しが立たないって聞きましたよ。菅総理は、地方の実情をまったくお分かりではないようだ」と話し、記事の最後に「ワクチン接種を丸投げされた格好の自治体からは、国の対応に疑問の声が上がっている」と記述されている。

 「丸投げ」とは聞こえが悪いが、実際、各自治体の高齢者を管轄するのは当然その自治体であるので、接種事業は政府から自治体へ「委託」されて当然だ。政府職員が全自治体に行って全スキームを組み立てる訳にもいかない。物は言いようだが、これを「丸投げ」と批判するならば、果たして自治体は何のためにあるのか。

遅れている自治体も 県ごとに差

 記事によると4月下旬に市長は「厚労省に『9箱必要』とお願いしましたが、その3分の1も届いていません」と話したという。国の予定では7月までに高齢者分は届くのだから、既に届いている分をどんどん打てばいいのではないか。

 こういった流れをうまくやっている自治体は多く存在するだろう。しかし、うまくいっていない自治体もあるようだ。記事の主題から少し外れるが、県ごとに差が生まれている実態を少し見てみる。

 現時点では東京・神奈川・大阪を除く全ての自治体にほぼ平等にワクチンが配送されているほか、自治体からの要望に応じた配分がなされている。首相官邸特設サイトによると、和歌山県は5月9日時点で高齢者に対し1万2174回の接種が実施されたが、隣の奈良県は5401回だ。人口比で見ても、医療従事者を含めて1回以上の接種を受けたのは、和歌山県は人口全体の4%、奈良県は3%となっている。人口は和歌山県が約92万人で、奈良県の約130万人より少ないのに、だ。

 県内でうまくワクチンを配分できているか、届いたワクチンをいかに早く接種に回せるか、予約や接種の段階で各自治体が柔軟に動けているか、この辺りで自治体ごとに差が出ているものと思われる。国のせいと言う前に、自治体の動きにも目を向けるべきであると思う。

AERA(朝日新聞系)も「丸投げ」記事

 朝日新聞系のメディアであるAERAは、「高齢者1万人「接種センター」日本旅行、人材派遣会社に約37億円で自衛隊が“丸投げ”」という記事を配信した。国が運営する大規模接種会場には自衛隊の医官らが投入されるが、民間に自衛隊が「丸投げ」したというタイトルだ。

 国への批判材料として投入されたこれには多くの人が食いついて騒ぎになったが、この記事そのものに批判の声が上がった。自衛隊が担当するのは接種であり、それ以外の部分について補完的に、かつスピード重視で民間の協力を仰ぐ形で契約しただけだ。「丸投げ」ではない。スピードが求められている今、批判される部分がどこにあるのか分からないうえ、AERAの「ミスリード」は責められて当然だろう。

政権批判に便利な言葉「丸投げ」

 以上のように、国の印象を悪くさせるために「丸投げ」という言葉が使われている。だが、極端に言えば「投げるべき部分は投げろ」と思える。まず公務員を減らせと言いながら、国に全て押し付けるのはおかしい。しかし、その「投げ」た部分を「丸投げ」と言われるような状況なのだから、「丸投げ」という言葉があればまず記事内容を疑うべきだろう。

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