議席予想を大きく外したマスコミ各社

自民も立民も微減 維新が大躍進

 今年の衆議院選挙は10月31日に開票を迎え、自民党が261議席を確保するなど、与党勢力は293議席を獲得。改憲に必要な2/3の310議席には届かなかった。野党は172議席となった。

 選挙前は自民党は276議席、与党勢力は305議席。野党側は156議席だった。野党勢力は16議席の増加となったが、野党第一党である立憲民主党は109議席から96議席へ、立民と連携する日本共産党は12議席から10議席へ落としている。日本維新の会が11議席から40議席へ大幅躍進したことが野党増長の要因だ。維新は比例区の近畿ブロックで得票数1位となっている。自民、立民、維新に続く4番手の公明党は29議席から32議席へ微増した。

 当選率では、自民党は338人中276人が当選し、82%だ。ほぼ当選したと言っていい。立民は240人中96人で40%と厳しく、共産は130人中10人でわずか8%となった。維新は96人中41人で43%だった。

 当落では波乱もあった。自民党の現職幹事長・甘利明氏が接戦の末、小選挙区(神奈川13区)で落選するという前代未聞の事態が発生した。比例復活をしたものの、幹事長の職を辞任する意向を示した。また、前デジタル相の平井卓也氏も小選挙区(香川1区)で落選し比例復活。双方とも立民候補に敗北した。

 立民にも波乱があり、こちらは副代表である辻元清美氏が小選挙区(大阪10区)で維新候補に敗北し、さらに比例復活もできず、16年続いた議員生活が止まった。ほかにも、小選挙区で17回連続当選してきた立民の小沢一郎氏が落選し比例復活したり当選10回の実績がある自民の石原伸晃氏が小選挙区と比例区で落選。立民の枝野党首も自民候補と競り合い、埼玉5区の総票数22.5万票に対してわずか5千票差というギリギリの当選だった。

選挙前の情勢調査 朝日は的中、他は結果と差

 新聞社などが行う、世論調査などを基にした情勢調査では、各社に差が生まれた。自民は過半数前後とした社が目立ち、立民についてはプラスに予想した社が目立つ。

 毎日新聞は投票日前の20~21日に調査を実施。「自民党は公示前勢力(276議席)から減らす可能性が高いが、公明党と合わせれば過半数(233議席)を維持する見通しだ」としており、おおむね正しい結果となった。ただし「『絶対安定多数』(261議席)に届くかは見通せない」とも記述しており、実際は過半数を大きく上回る293議席に達した。野党については「立憲民主党は接戦区の状況が好転すれば、大きく議席を積み増す可能性がある」と前向きに記述しているが、実際は議席を減らした。

 ただし「調査では小選挙区で3割が投票態度を明らかにしておらず、情勢が変わる可能性がある」「過去3回の衆院選と比べ、今回は接戦区が多いため、自民党などの推定当選者の数に幅が生じている」と書き加えている。

 朝日新聞は23~24日に調査を実施。「自民党は公示前の276議席より減る公算が大きいものの、単独で過半数(233議席)を大きく上回る勢い」「接戦となっている74の選挙区の勝敗次第では、今回もこれ(編注:絶対安定多数)を獲得できる」とし、過半数前後とした他社と比較して実際の結果に最も近い。野党第一党については「立憲民主党は比例区で勢いがなく、公示前の109議席からほぼ横ばい」とし、これは少し差が出た。大手各社の中では最も「的中」に近いと言える。調査は、小選挙区予想ではネット調査で35万3868件の回答を、比例区予想では電話調査で2万5595人の回答を得たという。

 「調査時点で投票態度を明らかにしていない人が、選挙区は4割、比例区は3割おり、今後、情勢が大きく変わる可能性もある」と注意を付け加えている。

 産経新聞も23~24日に調査を実施。「自民党は単独で過半数(233議席)を維持しそうで、連立を組む公明党とあわせれば過半数はほぼ確実」とし、正しい結果となった。ただし立憲民主党については「公示前(110議席)を大きく上回り、140議席台をうかがう」としていたものの、実際は96議席にとどまり、大外しとなった。電話調査でサンプル数は15万5045だという。

 共同通信は23~26日に調査を実施。「(編注:与党で)『絶対安定多数』(261議席)を視野に入れるものの、(編注:自民党の)単独では公示前の276議席から減らす可能性がある」としていた。実際に自民党単独で絶対安定多数を確保したが、議席は減らしており、おおむね的中させた。立民については「立憲民主党は伸び悩んでいる」「共産などとの野党共闘により、50超の小選挙区で優位に立つ。比例は40議席台から上積みを図る展開」としていたが、比例は39議席にとどまっており、多少差が出た。

 記事では「投票先を『まだ決めていない』とした人が小選挙区で4割程度いる。接戦の小選挙区も多く、情勢は流動的だ」としている。

 読売新聞は投票日前の26~28日に調査を実施。「自民党は単独での衆院定数の過半数(233)維持が微妙な情勢だ」と報道。電話調査で18万2039人の回答を得ての調査だったが、実際は276議席を確保したため、かなりの差となった。「比例選では70議席近くを視野に入れる」としており、実際は72議席だったので少し外した。「立憲民主党は議席を増やす公算が大きく」としたが、実際は109議席から96議席へと減少した。

 ただし「情勢はなお流動的な要素もある」と注意を加えている。

 事前の情勢調査は、「アナウンス効果」で世論を誘導してしまうリスクがある。これには、優勢と伝えられた勢力に乗っかる「バンドワゴン効果」や、劣勢と伝えられた勢力を応援する「アンダードッグ効果」が挙げられる。報道を踏まえて世論が従来と異なる動きをとり、結果として予測が外れた可能性もある。

投票終了時点の議席予測 各社大外し

 テレビ局は投票終了時点で議席予測・当確予想を出すことが定番となっているが、今回はその議席数予測で「大外し」となった。

 自民党の議席数予測について、テレビ朝日は243議席、テレビ東京は240議席、TBSは239議席、日本テレビは238議席、フジテレビは230議席、NHKは212~253議席(中央値は233議席)となっていた。実際は261議席で、10%ほどの大きな差がついた。

 立憲民主党についても、テレビ朝日は113議席、テレビ東京は110議席、TBSは115議席、日本テレビは114議席、フジテレビは130議席、NHKは99~141議席(中央値は120議席)となっていた。実際は96議席で、10~20%ほどの差がついた。

 開票日の議席予測は当日の出口調査の結果が反映されることから、精度は高いと思われるが、選挙プランナーの大濱崎卓真氏は「当日出口調査の数字まで反映されているはずの予測議席と実際の議席とが、これまで乖離することは極めて珍しい」としている。

 予測と大きな差が生まれた要因として、与党候補や野党候補にそれぞれネガティブな報道があった事や、前述した「アナウンス効果」など、様々なことが考えられる。その日のうちに議席数が発表される状況でのテレビ局の議席数予測や、精度に欠ける情勢報道がどれほど有益なのか、本当に必要か考え直すべきなのかもしれない。

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