西日本新聞の記者 布マスク配布で10枚だけ申請 100枚単位との決まりを無視

 西日本新聞が1月31日、「10枚でも100枚に…アベノマスク“2.8億枚”は本当? 厚労省HPで申請してみると」と題した記事を公開。執筆者は前田倫之記者。保管中のアベノマスクを無料で配布する施策について、実際に記者が申請してみたという内容だ。Yahoo!ニュースでも配信されている

 マスクの配布は100枚単位で受け付けているとアナウンスされている。しかし、記事では「大量のマスクが届くと困る」との理由で、マスクの必要枚数を「10枚」と記載して申請してしまっているのだ。該当箇所を抜粋する。

家の防災備蓄用に活用させてもらおうと27日夜、厚生労働省のホームページから配布を申請した。
 応募できるのは「介護施設等」「自治体」「個人」となっている。氏名、住所、電話番号などを打ち込み、「必要枚数」の欄に来ると「100枚単位でご記載ください」との記載が。「個人」なので、そんなに大量のマスクが届くと困る。駄目元で「10枚」と入れてみると、あっさり受理された。
 結果として、手元には10枚が届くのか、それとも100枚か。28日朝に厚労省に問い合わせると、担当者は「まだ締め切り前なので分からない」。
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厚生労働省の布製マスク配布に関する個人等向けリーフレットより

当初と申請方法が変更

 布マスク配布事業は、当初はExcelファイルに必要事項を入力してメールで送信する方法だった。だが、安倍晋三氏が「2.8億枚の申請があった」と明らかにしたように、恐らくこの方法では大量の申請を処理しきれなかったのだろう。途中でウェブサイトから直接入力する方式に変わった。

 メールで申請する際に用いていたExcelファイルは、「必要枚数」と「送付枚数」が別に設けられていた。申請時に入力するのは「必要枚数」の欄で、「必要枚数」に数字を入力すると、「送付枚数」の欄がExcelの関数を利用して自動的に100枚単位で数字が入力される。

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申請用ファイル(魚拓はこちら

 「送付枚数」の欄は数字は繰り上げて自動入力される。「必要枚数」で60枚と入力すると、「送付枚数」の欄には繰り上げて100枚と入力される。配布枚数について「原則として100枚単位で各個人等で必要な枚数を配布」とアナウンスされているので、当然の対応だ。

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布製マスク配布に関する個人等向けリーフレットより

 繰り上げ入力について、前田記者は記事で以下のように書いている。

注文の単位を大きくすることで、在庫を1枚でも多く減らしたい-。厚労省のそんな意図を感じざるを得なかった。

 こういった意図があるかは不明だ。それよりも、細かい数字に対応する場合は作業量や送料が増加してしまう事の方が重大だと感じられる。

 のちに、申請方法はExcelファイルではなくウェブ入力に切り替わる。その際、「送付枚数」の欄は消え、必要枚数のみ入力するようになった。ここでも「100枚単位でご記載ください」と明記されている。

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申請フォーム(魚拓はこちら

 前田記者は、この注意書きを無視してわざと10枚で申請した事になる。確かにシステム上、100枚単位で入力しなければ申請できないような仕組みにすることは可能だろう。しかし、だからと言ってシステムの専門家でもない人間がわざと試す必要があるのか疑問だ。厚労省の担当者の業務量を増やし、多くの人がマスクを待つ中で配布業務を妨害する事にもなりかねない。

 しかもその上で、担当者に「届くのは10枚か?100枚か?」といった問い合わせを行っている。原則100枚単位で配布し、100枚単位で記入してほしいと明記されているにも関わらず、わざと10枚と入力し、「わざと10枚と打ったけど、届くのは10枚か100枚か?」と聞いているのだから、担当者からすれば悪質なイタズラにも思えるだろう。

以前も類似事案

 「政府のサイトを使ったお遊び」は昨年にもあった。朝日新聞系のAERAと毎日新聞が、自衛隊の運営する大規模ワクチン接種センターの予約申請ページで架空の接種券番号を入力して予約を取った。安倍元首相が「極めて悪質な妨害愉快犯」と批判するなど、批判の声が殺到。防衛相も「接種を希望する65歳以上の方の機会を奪い、ワクチンそのものが無駄になりかねない悪質な行為だ」と非難し、防衛省が抗議文を郵送した。

 「朝日毎日嫌いvs朝日毎日擁護」の構図になってしまっていたが、この事案では、申請希望者が誤った数字を入力する可能性は十分にあり、申請段階で数字のチェック機能を持たせることが可能なら持たせるべきではあった。ただし、接種券番号との突合せは接種券の管理システムなどとの連携が必要になり、システムの準備に時間がかかっていた可能性もあり、急ごしらえにならざるを得なかったかどうかの検証がマスメディア側に欠けていたようにも思われる。なお、報道後、防衛省はシステムを改修した。

 今回の西日本新聞の記事は、ワクチン架空予約とは性質が異なる。まず、100枚単位での入力を明記しており、数字も簡素であることから、入力ミスは滅多に起こらないと思われる。また、仮に10枚と入力した上で100枚届いたとしても、大きな悪影響は無いだろう。したがって、申請システムの準備期間も考えて、100枚単位での入力かどうか自動チェックする機能の搭載はあえて見送った可能性も考えられる。総合的に、ワクチンの架空予約ほどの重大性は感じられず、10枚と入力する事の幼稚さも際立っている。

 マスメディアとして政府の監視は重要な仕事の一つなのだろう。しかし、これでは専門家でない個人のお遊びにすぎない。システムの専門家の意見も取り入れ、その行為によってどのような影響があるかをよく考えるべきだ。

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