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日本イコモスが計画見直し要請が出ている「初代門司駅」の関連遺構と、複合公共施設を天秤にかけていること自体、文化的水準が低い気がします。

 3月1日の朝日新聞デジタルに、「門司駅遺構、学術評価せずに報告 文化財指定避ける市の姿勢鮮明に」という記事が出ています。
 「初代門司駅」の関連遺構は、去年9月、北九州市が計画する複合公共施設の建設予定地で見つかりました。その時点で既に歴史的に大変重要な遺構だとの声が出ていました(2023年10月13日付け、朝日新聞デジタル「旧門司駅の機関車庫外壁か 赤レンガ出土 九州鉄道史の「重要遺構」」)。

 しかし、北九州市の武内市長は1月、遺構の一部を移築保存したうえで、計画通りに公共施設を建設する考えを示していましたため、専門家らから現地保存を求める声が上がりました(2024年1月26日付け、朝日新聞デジタル「「門司駅の遺構、一部を移築保存へ 専門家「価値損なう」現地保存訴え」)。
 鉄道遺構の専門家は、「当時の駅舎関連建物としては一般的である一方、「地形や地盤に応じて異なる技術を組み合わせて基礎を造るなど、当時の土木技術の工夫が良好な状態で残っており、大きな意味がある」との評価」をしており、また北九州市文化財保護審議会のメンバーは、「「近代の門司築港、街づくりの実情を伝える遺跡」「門司港発展の歴史を物語る貴重なもの」などとして、5人中4人が現地保存すべきだという意見を出して」いて、市民らからも、現地保存や複合施設の設計変更を求める声が上がっていました。
 会見で武内和久市長は「(複合施設建設は)利便性や街づくりという観点も総合的に勘案してきた歴史がある。市政変革という文脈でも、公共施設マネジメントの先行事例として着実に進めていかなければいけない」と語っているのですが、「利便性や街づくりという観点も総合的に勘案」するのならば、歴史的に非常に重要な遺構の現地保存や複合施設の設計変更も含めて総合的に勘案するべきで、複合施設建設か、遺構の現地保存かの選択ではないと思うのですが、市長はそう考えていないようですね。

 2月になって日本イコモス国内委員会が、「国史跡指定に値する価値を有している」とし、保存と現地での公開を求めて要望書を市に提出しました(2月22日付け、朝日新聞デジタル「初代門司駅の遺構「国史跡に値する」 日本イコモスが計画見直し要請」)。
 今回発見された初代門司駅関連遺構は、門司港が一体的に開発されたことがわかるもので、日本に限らず広くアジアとの結びつきを考えることができるものであるだけに、日本イコモス国内委員会の要請はもっともです。

 ところが、「文化財指定につながらないよう遺構の学術的な評価(価値付け)をせずに」発掘調査報告書を県教委に提出し、移築保存の方針を伝えていたことを市議会で説明するという、表題の新聞記事のようなことになってしまいました。
 記事によると、「大庭千賀子副市長は2月28日の一般質問で「ここで立ち止まって調査をすることは(文化財としての)価値づけの調査につながり、文化財指定につながるための最初のプロセスの一歩ということ。この地で複合公共施設を作ろうと思ったら、残念ながら、それはなかなか難しい」と答弁した」とのことですが、何故複合施設建設か、遺構の現地保存かの選択しかできないのでしょうか。
 遺構を現地保存する方法を検討してくれと言っているだけで、別に複合施設を建設するなと言っているわけではないにもかかわらず、文化財としての価値づけをしないで複合公共施設を作ってしまおうなんという発想は、非常に文化的水準が低いと言わざるを得ないですね。
 今回の遺構は、鉄道遺構としての観点だけに限らず、土木技術の観点からも見るべきものがあるのですから、観光資源として活かせる可能性が非常に高いと思われます。余分にお金をかけて遺構を現地保存しながら、複合公共施設を作っても、十分元は取れると思うのですが…。

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