漢方の「体力」って?

古武さん(タコ先生)
「おはようございます
昨日のうちに、投稿できなくて失礼しました。

僕が挙げている「1)」のところでは、「体力」というイメージで大丈夫です。

ここからは余談ごとです。
僕の個人的な意見も含まれています。

添付文書に書かれている効能効果に「体力」の文字が出ていた時、「体力=パワーやエネルギーのようなもの」と単純にしてしまうのは、ちょっともったいないように思っています。

たとえば、ツムラの桂枝茯苓丸の効能効果は次のようになっています。
「比較的体力があり、ときに下腹部痛、肩こり、頭重、めまい、のぼせて足冷えなどを訴えるものの次の諸症: 月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、血の道症、肩こり、めまい、頭重、打ち身(打撲症)、しもやけ、しみ、湿疹・皮膚炎、にきび」
この冒頭の部分に「比較的体力があり」という記載があります。

桂枝茯苓丸は「血を巡らせるお手伝いをする漢方薬」です。
ものを巡らせる・動かすといったことをするには、原動力となるエネルギーのようなものが必要になります。
そのため、ここの「比較的体力があり」という部分を、「そりゃあ動かすお手伝いするんだから、そのためのパワーやエネルギーは必要だよね」っていう感じで捉えることも出来ます。

ここの「体力」が指してるのは、巡らせる目的の「血」のことをイメージした方が良いように思います。
巡らせようとしても、その目的の「血」が少なかったら空回りするようになるので、「ある程度、血の量がある人に使ってね」というメッセージなのかなと思っています。

朝から小難しいことを書きました。
以上です。」


「おはようございます☀

逆に、
体力虚弱の方向けの
四物湯、当帰芍薬散は貧血に良いとされてますね。

体力中等度以下の
柴胡桂枝乾姜湯は貧血気味となり、

婦人薬の漢方は特に血液の関係で体力がわかりやすいです😀」


「皆さんのコメントすごいですね
私は、'比較的体力があり     '   と、言う文言がいつも引っかかります。
すごく細かい内容を教えて頂けると有難いです🙏✨」


「いつも体力について何となくのイメージで居たので、血のことをイメージするとのこと初めて知ったので勉強になりました🙇‍♀️
巡らせる目的で血、とのことですが、気はあまり考えなくても良いでしょうか?主に血をイメージすれば良いのでしょうか?」


きたくん
「体力の考え方について1つの目安に
「自覚症状の激しさ」があります。

例えば風邪でも体の芯まで冷えた状態(裏寒)などは本当に体力の無い人が陥りやすい状態です。

この場合、自覚症状は「寒い、だるい」ぐらいしかなくなるのも特徴です。

このような状態の人の手を触ったりするとキンキンに冷たいです。

こういった状態には身体の芯から温める必要があるので麻黄附子細辛湯を使うことがあります。

麻黄附子細辛湯が麻黄剤なのに高齢者にも使われる理由もこれで、「本当は麻黄は使いたくないけどそれどころじゃないくらい冷えている」というイメージです。」

「すごいですね!
クエン酸第一鉄に匹敵する鉄欠乏性貧血改善効果があるなんて!
Hbやフェリチンも改善したと言うことですよね⁈

鉄剤は胃症状が辛くて続けられなかった、などの方に提案してあげられたら素敵ですね。

当帰芍薬散にはそもそも鉄分が含まれているのと言うことなんでしょうか?
もしくは食事中の鉄分吸収を促進する効果があると言うことなんでしょうか?

作用機序が気になります💦
頭がどうしても西洋医学的に理解しようとしてしまいます😢」


きたくん
「この文献では赤血球やヘモグロビンを比較してました。アウトカムは「正常値まで回復するまでの期間」とされていたので、単純に貧血が改善する程度はフェロミアも当帰芍薬散も変わらないですが、当帰芍薬散のほうがやや即効性な感じですね。

機序は全く不明ですが、もしかすると鉄剤では吐き気などが出て食欲が落ちるのに対し、当帰芍薬散はそういうのがないから回復が早いのかもです。

鉄分の含有量は分かりませんが、食事から鉄を取れるようになったと考えるといちおう辻褄は合います( ` ・ω・ ´ )」

「作用機序はまだ不明なところもやはり多いのですね。

自身の体験談としてなのですが、健康診断で貧血を指摘され、精密検査の結果フェリチンが1桁である事が判明し、鉄剤を100mg/dayで服用しました。ヘモグロビンはすぐに回復しましたが、フェリチン回復までには1年かかりました。
フェリチン1桁にまで落ちた鉄欠乏性貧血は食事だけでは回復するのは難しいと言われました。

漢方薬の守備範囲がどれ程なのか、まだわかっていない部分のチカラ、とても興味があります。
何度もお答えいただきありがとうございました😊」

「何度も蒸し返してすみません。
貧血の話です💧

当帰芍薬散のインタビューフォームに鉄の含有量が載っていました。
たった0.2mg/日!

やはりきたくん先生の言われるように、『食事から鉄を取れるようになること』で貧血が改善されるのですね。
逆に言うと、漢方を服用する事で食欲がアップしました!という患者さんでなければ貧血の改善も見込めない、と言う事になるでしょうか?
証の見極めが大事と言う事ですね。。」



「おはようございます。
漢方独特の表現の解説、とてもためになります。
『血』について、、、
漢方で言うところの『貧血』と西洋医学の病名『鉄欠乏性貧血』『再生不良性貧血』などは別物と捉えた方がいいのでしょうか?」

きたくん
「これはいい質問ですね!

基本的に同じものという認識ですが、漢方での血の不足(血虚)は西洋医学的な貧血とは必ずしも一致しないこともあります。

漢方ではあくまで「自覚症状ベース」で判断するのが特徴です。

具体的に血虚の症状としては

・立ちくらみがしやすい
・疲れやすい
・血色が悪い(青白い)
・皮膚は乾燥しやすい(ひび割れやすい)

などなどが挙げられ、これに対して血を補う漢方薬(最も代表的なのは四物湯)が使われます。

ただ実際の現場では四物湯よりも当帰芍薬散や十全大補湯がこの意図で使われやすい傾向はありますね。」

きたくん
「ちなみに当帰芍薬散に関しては西洋医学的なエビデンスも実はあります。

これは僕の過去のツイートですが、元の論文をざっくり要約すると

「鉄欠乏性貧血の女性に対してクエン酸第一鉄(フェロミア)と当帰芍薬散をそれぞれ飲んだ人で比較したところ、

✅貧血改善効果は同じくらいで、✅副作用が少なかったのは当帰芍薬散

という結果を報告したものです。

https://twitter.com/yakuyakusangt/status/1299650971048443905?s=46&t=DN3aB1DU3Wl3W1J12ggqDg」

「ごめんなさい、いま読み返したら有効性も当帰芍薬散が勝ってますね💦

ただこれはレトロスペクティブ研究といってエビデンスの中ではレベルはそんなに高くないやつであることにも注意が必要です。」



「タコ先生!
とても解りやすいご説明をありがとうございます

体内の血の巡りをスムーズにするエネルギーというご説明、腑に落ちました!」


「血の巡りの件、とても勉強になりました。
体力の有無に関してお客様にお話しする際、いつも(きちんと理解していなかった為)迷うことが多かったので…。

皆様のメッセージ、とても勉強になります。いつもありがとうございます。」


「@はるさ 
おはようございます😃
そこまで深く考えませをでした。

「血の量のある人に使ってね」
となると、

①血液量はあるものの赤血球が全身に
酸素を供給する事ができないことによる貧血の『鉄欠乏性貧血』と、

②骨髄で血液が作られず、
 血球自体が減少している『再生不良性貧血』

だと、②は血の量ないですから結果的に②の人に当てはまりますかね?

だから、
生薬+シアノコバラミン(VB12)などのビタミン類が入ったOTCがあんでしょうか?


登録販売者試験範囲だと貧血止まりです。」


「@まるまる 

補足ありがとうございます!

①はやはり鉄の補充が治療の第一選択になるかと思いますし、

②は指定難病にも指定されている難しい病気ですし、漢方で解決する類のものではないだろうし…

漢方で言う貧血に効くとはなんぞや?
と思ってしまった次第です。

『血』は漢方的には奥が深そうですね。
『気』も理解にはまだまだ修行不足を感じます。。」


「風邪に使う薬だと、風邪を追い払うための体力があるときにやっつけるために使う薬なのか風邪で体力消耗してそれを補う薬なのか
そういった意味で風邪の漢方で言う体力は体の中にあるエネルギーと捉えられますが、薬によって体力の捉え方が変わるというのが!新鮮です!! 確かに、貧血の時点で体力というかエネルギーは無いし、疲れやすいから悩んでる訳ですし笑
一概に言えないのが漢方の難しいところだなと思ってましたが、そもそも捉えるものが変わるならめちゃくちゃ説明しやすいです!!!」


「わぁ( ・∇・)
皆さんの学びたい欲が、すごい気持ちいいですね〜

体力については、もう少し例え話も用いながらまた書きますね。
コラムのネタにとっておいたのですが、先にこちらに共有します。

血と貧血についても後ほど書きますね。
この後、相談が詰まっているので、いつになるかは分かりませんが、書きます。」

あっきーさんのまとめ

「あっきーさんやっぱりまとめ方が丁寧で上手!すごい!
まとめようとして挫折したのでありがたいです🙏✨」


古武さん(タコ先生)

「おはようございます。
朝から長文を投稿しますがご了承ください。

体力についてです。
=====
効能効果に記載されている「体力」の文字を、「体力=パワー、エネルギー」の単純な考えだけだと、時々、話の筋が通らないことがあるよ。
=====
初学者の方はこれを頭の片隅に置いといて、今後、話を聴いたり、漢方薬の解説本を読むと、応用力がグンと上がるかもしれません。

僕の個人的な見解ですので、その辺も含めて優しく付き合っていただけると嬉しいです。
効能効果の「体力」の文字は、「体の機能、調節能力、体を構成する物質などを総合的に考えた力(チカラ)」のように考えると良いかな思っています。

「じゃあ、その具体的なのは何なんよ?」
ってなると思います。
そこをイメージするための漢方の基礎理論です。
気血水の理論、五臓六腑の理論などの、昔の人たちが考えてまとめた壮大な喩え話です。
ハッキリしないので気持ち悪い方もいらっしゃるかもしれませんが、グレーな感じをそのまま受け入れる懐も必要だったりします。

この「体力」の表記の仕方は、日本漢方独特な表現です。
中医学は方剤の説明の中に「体力」の表現は出てきません。
ここのあたりは歴史を紐解いていった解釈になりますが、中国は多民族国家で、中医学は各民族の伝統医学を寄せ集めて体系化されたような医学です。
そのため、分かりにくい表現などはなかなか使われにくいのかもしれません。
良くも悪くも、日本人の才能が芸術的過ぎる表現を生んでしまったようです。
(僕は歴史学者ではないので、詳しい方がいらっしゃったら補足してくださいね。)

脱線してしまいました。
「体力」の使い方としたら、例えば…
お金を支払い続けたいんだけど、お金を持っていなくて支払い能力が続かないことを「支払う体力がないのよ…」みたいに言ってもなんとなく通じません?
上のたとえは背景の設定を書いていますが、日常の会話の中だったら「体力」の向こう側を想像したり探りませんか?
「体力=パワー、エネルギー」のように、単純には考えませんよね?
そういった感覚を持って、効能効果の「体力」を考えていただくと良いかと思っています。

この文章って伝わりますか?」


「なるほど❗
お金を支払う体力...
それは何も考えなくても体力という言葉がすんなり入ってきますね!
すごく分かりやすい例えだと思います✨
ありがとうございます(ぺこり)」


「体力という 単語 ではなくて話言葉で捉えると その向こう側を想像できますね!!
日本語らしさというか、色んなニュアンスを含む日本語ならではの想像力が漢方をもっと分かりやすく面白くするのかもしれないです!!!」


「しばりのある表現の体力って、日本独特だったんですね。

漢方の基礎論をそのまま捉えた方が今後の学習もわかりやすい☺️」


「例えると、
引き出しの中身が無いのがエネルギーが無い状態ですが
引き出しの容量が少なくなってるのか
引き出しを開ける力が無いのか
仕舞い方が下手でちゃんと中身を入れられないのか
引き出し方がわからないのか

こういった感じで体力が無いと言っても多角的な見方で考える必要があるのかなと読んでて思いました!」


「タコ先生のお話しとても分かりやすくてすーっと飲み込めました!
自分の中にある体力という言葉を固定概念で考えてしまっていたから捉え方がいまひとつしっくりとこなかったのですが、
その言葉がもってるイメージと漢方の持ってる作用をつなげてると体力って何?からどんな人に向いてるの?になって、少しずつですが見えてきた気がします。
ありがとうございます!」

「そんな感じです〜♪

ひとつのことを多角的に見たり、考えたりするのは大切だと思っております。
そういったことに慣れたら、自然と漢方薬の使い分けもイメージ出来るようになりますよ〜」

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