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UVLicenseは民法上無効なので使ってはいけない


↓以下、執筆当時よく読みもせず書いた時点の話。民法の話自体は撤回はないのですが、UVライセンス運営者はやはりおかしいです。




先の2月28日、xR関連のデジタルコンテンツを販売する個人もしくは法人向けのUni-Virtual Licenseの初版が発表されました。民法上の権利義務関係にも触れつつ、これの意義について語りたいと思います。

デジタル著作物の頒布における定型約款の意義

ソフトウェアやモデルデータ、その他を販売する行為は、日本の民法・商法でいうところの売買契約にあたります。

デジタルコンテンツの使用権の売買契約は、相手方に全ての権利を譲り渡すときを除けば、あくまで著作権は売り手側がもっていることを示した上で、やっていいこと・悪いことを記載した契約書を作る流れとなるわけですが、これを各消費者ごとに個別の売買契約書を作ると事務上の手間がかかって、その人件費は結果的にコンテンツ料金に上乗せすることになって、そうなると結果として消費者の不利益になります。

そこで、一種類の商品あたり複数の買い手を想定しうる定形の取引について「これ読んどいてね」という形で事前に契約内容が開示され、購入した時点でその契約内容に合意したものとみなされる「定型約款」という簡素な同意書に目を通してもらった上で、ライセンスを購入してもらうことが通例となっています。

民法上、意思のない取引は無効です。デジタルコンテンツの売買契約の無効というのは、具体的には買い手は使用権を返上し、売り手は払ってもらった金を返金するという流れになりますが、これは大きなロスになります。無闇に購入者が返金手続きをされてはたまりませんから、これを回避するためには、購入者が納得して購入したというエビデンスを取る必要があるのです。それがテンプレ化した約款を読むように促した上で購入させるという一連の手続きとなります。この定型約款は、2020年4月施行の改正民法において明文化されました。

第548条の2
第1項 定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。

一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。

法的根拠を気にしていた人もそうでもない人も、BOOTHでVRoid等のモデルデータやテクスチャなどデジタル著作物を販売している人はたいてい、ライセンス同意書みたいな形でエンドユーザーに事前確認を取る形で使われていると思います。ちゃんと法的な意味があるということを覚えておくと良いです。

乱立するショップとUV License

現在のBOOTHにおいてVRoidやその他VRChat関連コンテンツは飛躍的に増えていますが、ショップの数だけライセンスがたくさん。これとこれを組み合わせるとライセンスに抵触する、みたいなのが直感的にわかりにくい。そのことが消費者にとってコンテンツ利用の萎縮効果になっているとするなら、販売者にとっても決して望ましいことではありません(まして法的に有効かどうかもわからないあまりに制限の多い規約の遵守を求めてくるとすると、わけがわからなくなります)。

UVライセンスは、そういった現状に一石を投じたのではないでしょうか。

なにやら不穏な文言があるけど

基本条項の第10条が不安になった人もいるかと思います。

第10条 規約の変更
(1) 本ライセンスの提供元となるUVライセンスは、日々変化するバーチャル空間上でのモデルの利用用途やアバター文化と人格に伴う取扱い方法の多様化に伴い、変更されることがある。本ライセンスは、常にUVライセンスのWebに記載された最新の基礎条項と個別条項が適用される。
(2) 本規約は前項に基づき、随時変更、削除または追加されることがある。その場合、更新された規約を関連するWebサイトに、その内容と改訂日、バージョンを記載する。

確かに、これがたとえば「BはCに月額○○円の料金の支払いをしなければならない」みたいな条項を後付けすることすら可能であるとしたら、とんでもないことになります。利用契約は両当事者の合意に基づいてやるものであって、第三者であるライセンスのメンテナーが好き勝手に書き換えてしまうと収拾がつかなくなります。そういうことが許されると、第三者の提供したライセンスに乗っかること自体がリスクになりかねません。

しかし記載によって「変更の可能性」を事前提示しているわけですから、これを読んだ上で購入に合意してしまうと、一見そういったことも合意の範疇として受け入れざるを得ないように見えます。

変更可能性を告知していても信義則に反する変更はNG

ここで重要なのは「民法548条の2」の続きの部分です。

第2項 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

これはライセンス策定チームが暴走してライセンスの記載内容につき不利益な変更をすることの抑止力となります。すなわち、UVライセンス変更について彼らが事前周知をせず、独断で規約を変更するような場合、その変更内容は拒否できる可能性が高いということになるのです。なぜなら、日本の民法に反するライセンス規定やその変更が有効であるはずがないのですから。なお、第一条第二項とあるのは民法のことで現行も改定後も変わりません(後述)。

いっぽう、社会通念上、権利義務関係が生じうる必然性があって、それを明確化したに過ぎない部分については、変更につき拘束力が生じる余地があるといえそうです(たとえば前提とする法律や条例、最高裁判例などに基づくもの)。

それでなくとも、変更内容については適用より前に開示し、周知することが必要になると思われます。

定型約款の変更は,①変更が顧客の一般の利益に適合する場合や,②変更が契約の目的に反せず,かつ,変更に係る諸事情に照らして合理的な場合に限って認められます。顧客にとって必ずしも利益にならない変更については,事前にインターネットなどで周知をすることが必要です。

(参考)法務省 - 民法(債権法)改正      http://www.moj.go.jp/content/001254263.pdf


まとめ

UVライセンスに迎合せず独自ライセンスを採用したいコンテンツホルダーのかたもいるかと思います。あなたが日本でビジネスをやる以上、日本の民法や商法に適合したものである必要性があります。

UVライセンスに納得できないコンテンツ製作者が共同で別のライセンスを策定するというのもありうることだと思います。結果的に売り手の数だけ乱立するライセンスが数種類に収束していくとすれば、購入者にとって明らかにわかりやすくなりますから、今回のUVライセンスが投じた一石は、xRコミュニティの発展に大きく寄与することになるかもしれません。

最後に、民法第1条を引用しておきます。

1.私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2.権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3.権利の濫用は、これを許さない。

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