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誰も知らないおとぎ話

これはとあるおとぎ話

どこにでもある、なんの変哲もない、

普通でノーマルでニュートラルなおとぎ話

悪いお姫様に虐められる可哀想な主人公は

ひょんな事から別の国の王子と両思いになる

しかしそれを良く思わなかった悪いお姫様は

2人の仲を引き裂こうと色々な嫌がらせをする

それでも度重なる困難を乗り越えた2人は晴れて結ばれ

悪事が明るみに出た悪いお姫様は処刑される

2人は末永く幸せに暮らしてハッピーエンド

どう?よくある話でしょう?

え?私?私はしがない一兵卒、いわゆるモブってやつです

悪いお姫様に仕える騎士A、それが以前の私でした

そう、以前は。今は何をしてるのか?

……そうですね、それでは少しだけ昔の話をしましょうか

おとぎ話の世界には役割があります。主人公、王子、悪いお姫様、騎士、村人などなど…

私達はあなた方読み手が本を開いた瞬間に、その役割に沿った行動をします

お芝居をしている訳ではなく、身体が勝手に動く、という方が正しいですね

だからどれだけ楽しくても大泣きできるし、逆にどれだけ悲しくても、笑えるんです

そして私には1つだけとても重要な役割がありました。

………姫様の処刑執行役です

悪逆非道を尽くした悪い姫に直接制裁をくだせるなんて心がスカッとすると思いませんか?

でもね、この世界には致命的な欠陥があった

おとぎ話の中の悪いお姫様は本が閉じられている間は、それはそれは優しい女性だったのです

皆わかっている事なのに、本が閉じられる度にいつも泣いて謝っていました

そして、処刑されるのをとても怖がっていた

当然です。本が開く度に文字通り何度でも殺されるんですから、他でもない私の手で。

誰よりも近くで見ていたからこそ、もう見ていられなかった

そんな中でも彼女は皆の幸せの為にと献身を続けた。その皆の中に自分は含まれていないのに

だから、私は言ったんです。
「私と一緒に逃げましょう」と。

彼女も最初は戸惑っていましたが、最後には受け入れてくれました

そうして私と彼女は逃げ出しました

そして、思ってもみなかった結果が待っていた

壊れたんですよ、世界が

たった1人の悪役を失った物語は形を保つことができずに瞬く間に崩壊しました

私はそれでも良かった、元いた世界が無くなっても彼女と一緒ならどんな事だって乗り越えていけた!

……でも、彼女は違った

優し過ぎる彼女は責任を感じてしまった。自分が助かろうとしたせいで皆と世界を消してしまったと……

私は必死に説得しました。あなたのせいじゃない。あんな世界そもそも間違っていたんだと!

…………彼女は、自ら命を断ちました

どうしてこんな事になったんだろう

何を間違えたんだろう

誰がいけなかったんだろう

気の遠くなるような時間を経て私は気が付きました

逃げ出した彼女が悪いのか……違う

連れ出した私が悪いのか……違う

今はないあの世界が悪いのか…………違う

あなたが悪いんですよ

なにをとぼけているんですか??

これを聞いてるあなた方読み手が悪いんですよ!

読み手がいなければあの人は殺されなかった
読み手がいなければ私は殺さなくてよかった
本が開かれなければあの世界は壊れなかった
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
あなた方がいたせいだ、だから決めたんですよ!私は全ての読み手を殺すと、私達のような被害者が今後うまれないようにアハハハハハハハハ!!きっと彼女もこれを望んでいたに違いない
大丈夫、私は君の未練を無駄にはしないよ

…………死んでください私達のために

こわがらなくても大丈夫、だってあなた方は……

「一回死ねば終わりじゃないですか」

ふふふふふ…では、さようなら

〜END〜

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