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泥濘(声劇用シリアス台本→男2女2)

泥濘
男→2、女→2

【キャラクター】
春馬(はるま)→男。一見気だるげだが身内に対しての思いやりは深い。優柔不断

千夏(ちなつ)→女。いつも明るいムードメーカー。よく暴走するハイテンションモンスターだが実は1番周りが見えている

秋斗(あきと)→男。ガタイがいい。見た目はイカついが家庭的。真冬に片思いしており、恋愛に関しては嫉妬深い一面がある

真冬(まふゆ)→女。容姿が良いため男性からのアプローチが多いが本人は男が苦手。春馬の事が好き

【本編】

春馬(俺達が出会ったのは大学に入ってすぐの頃、名ばかりの観劇サークルに入って、意見交換会などと適当な理由をつけては遊び歩いていた)

千夏「ねぇ〜〜どうしよ〜〜」

春馬「……」

千夏「困ったぁ〜〜、困っちゃったなぁ〜〜」

秋斗「真冬、グラス空いてるじゃん。何飲む?」

真冬「え、うん…明日は朝から授業だし烏龍茶にしとこうかな」

千夏「うーーーん、こんな時誰か話聞いてくれる人がいればなぁ〜〜〜」

春馬「秋斗、俺も烏龍茶1つ」

千夏「え、あれ?聞こえてるよね!?ねぇ!!」

秋斗「え〜、お前もかよ、明日なんも無いだろ?」

千夏「いいのか!?泣いちゃうぞ!?
か弱い女の子を泣かせていいの!!?」

春馬「明日は親が来るから、午前中までに部屋片付けないといけないんだよ…」

千夏「……うっうぅ…ぐすっ…」

真冬「…ち、千夏ちゃん、どうしたの?」
(被せ気味)
千夏「よくぞ聞いてくれましたぁ!!!」

春馬「はぁ……だから嫌だったのに」

秋斗「真冬…お前、お人好しが過ぎるぞ……」

真冬「ご、ごめんね…でもやっぱり気の毒で」

千夏「ちょっと!酷くない!?私の扱い、いつにも増して雑じゃない!?!?」

春馬「安心しろ、いつもこうだよ」

千夏「かぁ〜〜!こーんな美少女に対してよくそんな態度とれるよね!」

秋斗「ほれ、コレ見てみ」

千夏「え、鏡?」

秋斗「見たか?」

千夏「うん…」

春馬「で、今度は左向いてみ」

千夏「左…」

真冬「ん?ど、どうしたの?私の顔に何かついてるかな?」

千夏「……美少女がいる」

秋斗「そうだな」

千夏「………卑怯だよぉ!!真冬ちゃんと比べるのは!!」

春馬「俺らは何も言ってないぞ」

秋斗「あぁ、何も言ってない」

千夏「うええぇぇぇぇん!!男共が虐めるぅぅぅぅ!!」

真冬「あはは…だ、大丈夫!千夏ちゃんの方が可愛いよ!羨ましいくらい!」

千夏「善意の刃が突き刺さるよぉ〜〜!!!」

真冬「えぇ…わ、私どうしたら……」

春馬「いいから、いい加減話進めろ!今度はどんな問題起こすつもりなんだ」

千夏「そうだった!よくぞ聞いてくれました!!」

真冬「切り替え早いね…」

秋斗「真冬もそろそろ慣れないと、ずっと振り回され続けるぞ」

真冬「そうだね…」

千夏「私達も もう3年生…こういう日常もいいけど、そろそろ皆でちゃんとした思い出作ろうよ!」

春馬「お前それ毎月言ってるだろ」

千夏「細かい事は気にしない!!」

真冬「今回は何をしたいの?」

千夏「山に行こう!」

秋斗「登山なら先々月行ったろ…」

春馬「あれは辛かったな……」

千夏「ノンノンノン!!今回はログハウスなのです!!」

春馬「へぇ〜、どんな??」

秋斗「ログハウスぅ?虫とか多そうじゃん」

真冬「私は結構気になるかも、ホテルとか旅館とはまた違っていいよね」

秋斗「だよなぁ!よし!千夏、詳しく聞かせてくれ!」

春馬「こいつ……」

千夏「えっとね〜…」

春馬(千夏の思いつきに他の3人が口出しして、実行したりしなかったりする。そんな平凡で幸せな日常がずっと続くと思っていた)

【場面転換】

千夏「さぁて〜!!到着しましたログハウス!!うーーーん……木だねっ!!」

春馬「今日はいつにも増して偏差値低い語彙力だな」

真冬「ふふっ、千夏ちゃん楽しそうでいいね」

春馬「まぁな、見てて飽きないけどさ」

千夏「なに??私の事しか見えないって??いや〜照れちゃうなぁ〜〜」

春馬「珍獣として、な」

真冬「も〜、あんまり酷い事言っちゃダメだよ?」

春馬「このくらいが丁度いいんだって、真冬もアイツのことはもっと適当に扱った方がいいぞ?」

真冬「うーん、そう?」

春馬「そうそう」

千夏「良くないよっ!!!真冬ちゃんは唯一の良心なんだから!!悪の道に引き込まないで!
!」

春馬「嫌なら普段の行いを改めるんだな」

真冬「ふふっ…2人は本当に仲良しだね」

秋斗「…………」

【場面転換】

春馬「ふぅ、こんなもんか」

秋斗「そうだな」

春馬「まさか薪割りまでやらされるとはな〜、絶対筋肉痛コースだわこれ…」

秋斗「ははっ、普段からもっと身体動かせよ」

春馬「無理無理、疲れるもん。秋斗はスポーツもしてるしジムにも行ってるからガタイ良いよなぁ、羨ましいよ」

秋斗「紹介しようか?入会金割引になるぞ?」

春馬「気持ちだけ受け取っておきまーす」

秋斗「……おまえは良いよな」

春馬「ん?何が?」

秋斗「俺はお前が羨ましいよ」

春馬「はぁ?なんだよ急に」

秋斗「自然体でいるだけで人を惹きつけるっていうかさ、なんか特別なんだよな」

春馬「そんな訳ないだろ、自然体っていうか何もしてないし何も考えてないだけだよ」

秋斗「それだよ」

春馬「え?」

秋斗「自分で言うもんじゃないのは分かってるけど、俺はめちゃくちゃ努力してると思う。
身体作りもそうだし、気配りとかもさ」

春馬「まぁ…そうだな?」

秋斗「でもお前は何もしてないのに、俺がどんだけ努力しても手に入らない物を全部持っていくんだよな」

春馬「そんな事してないだろ」

秋斗「それが俺にはたまらなく羨ましいしいんだよ。」

春馬「心当たりないって、そんなの」

秋斗「しかもこの通り無意識なんだもんなぁ…余計悪質だよ」

春馬「お、俺が悪いみたいにいうなよ」

秋斗「わかってる、お前は何も悪くない。全部俺の一方的な言いがかりだ……それでも、それでも俺は…!!」

春馬「秋斗…お前急にどうしたんだよ……」

秋斗「……すまん、忘れてくれ。薪は俺が持ってくから、ついでに2人に終わったって伝えとくよ」

春馬「あ、あぁ……」

【場面転換】

春馬「……」

秋斗「……」

真冬「えっと……」

千夏「なになに!男子達、何かあったの??」

真冬「ちょ、ちょっと!千夏ちゃん!」

春馬「べ、別に何もないよ」

真冬「本当に大丈夫?」

春馬「あぁ、全然なんもないから…」

秋斗「はぁ…」

千夏「全く…仕方ないなぁ2人は」

真冬「え?千夏ちゃん、わかるの?」

千夏「当たり前でしょ、私達の仲だし、春馬と秋斗とは高校から一緒だしね」

春馬「千夏……」

真冬「そう、だよね……大学からの付き合いなのって私だけだし…」

秋斗「真冬、俺は……」

千夏「2人とも私の事が好きなんでしょ!!!」

【間】

春馬「え?」

秋斗「は?」

真冬「………そ、そう、なの…?」

秋斗「いや、ちが…」

千夏「照れることない!!仕方ないんだよ…こーんな明るくて可愛い女の子が身近にいたらそりゃ好きになっちゃうよね…」

春馬「はぁ……珍しく真面目かと思ったらこれか…」

秋斗「まぁ千夏に期待するのが間違いだよな」

千夏「2人とも素直じゃないんだから!」

春馬「はいはい素直に見直ましたよ、色んな意味で。」

真冬「そうだね…やっぱり千夏ちゃんは凄いな………色んな意味で」

千夏「真冬ちゃんまで!!?」

秋斗「ははっ、本当に色んな意味で凄い奴だよ、千夏は」

千夏「色んな意味ってどういう意味なの!?ねぇ!!?」

春馬「さぁ?なんだろうな〜」

千夏「ちょっとぉ〜〜〜!!!」

【場面転換】

春馬「ふぅ……食べ過ぎたぁ、ちょっと夜風当たってくるわ」

千夏「洗い物はジャンケンで負けた秋斗がやってね!」

秋斗「はいはい」

真冬「大丈夫?手伝おうか?」

秋斗「いや!全然大丈夫!家でもよくやってるからさ!」

真冬「そう?じゃあお願いしちゃうね」

秋斗「あぁ!任せてくれ!」

【間】

春馬「はぁ…千夏のおかげで何とか誤魔化せたけど、秋斗のやつ、何で急にあんな事……」

真冬「……春馬く…」
(被せ)
千夏「アンニュイな顔してぇ!どうしたんだい若人よ!!」

真冬「あっ……」

春馬「千夏か」

千夏「可愛い可愛い千夏ちゃんですよ〜〜」

春馬「さっきはありがとな」

千夏「ん〜〜?なんの事かなぁ?」

春馬「気遣ってくれて、さ。俺らの付き合いだし、ちゃんとわかってるよ」

千夏「…も〜、そういうのはわかってても気付かないフリするとこだよ〜?」

春馬「それこそ、今更そんな気遣う関係じゃないだろ笑」

千夏「で、実際のとこ何があったの?」

春馬「……俺、秋斗に嫌な思いさせてるっぽくてさ、本人は一方的な言いがかりだって言ってたけど…」

千夏「あーー、そういうこと」

春馬「細かい事を根に持つようなタイプじゃないし、かなり悩ませちゃってるのかなーってさ」

千夏「本当はわかってるんでしょ?」

春馬「えっ…?」

千夏「いい機会だし、ハッキリさせちゃおうよ」

春馬「……」

千夏「秋斗は真冬ちゃんが好き、これはいいよね?」

春馬「あぁ」

千夏「そして、真冬ちゃんは春馬の事が好き」

真冬「!!」

春馬「それは……」

千夏「心当たりはあったんじゃない?」

春馬「確証はないだろ」

千夏「間違いないよ」

春馬「根拠は?」

千夏「女の勘」

春馬「なんだよそれ」

千夏「それに、2人は多分気づいてない」

春馬「だよなぁ……俺達が付き合ってる事…」

真冬「!!!…………え、嘘……!?」

千夏「そろそろ潮時なのかもね〜」

春馬「かもなぁ……でも俺、秋斗と真冬の事も好きだからさ」

千夏「今の関係を壊したくない?」

春馬「……あぁ」

千夏「彼女の目の前で他の子に気がある宣言ですかぁ〜〜?」

春馬「そういうんじゃねぇよ笑
…情けないよなぁ、中途半端でさ」

千夏「別にいいんじゃない?良いか悪いかは別として、それも春馬の優しさなんだし!」

春馬「だといいけどな」

千夏「でも、浮気は許しませんからね!」

春馬「わかってるよ笑」

千夏「よろしい!それじゃあ千夏ちゃんはベットメイクでもしてきましょうかねぇ!」

春馬「あ、千夏!」

千夏「ん〜?」

春馬「(キス音)」

千夏「!!!え、ちょ…!」

春馬「好きだよ」

千夏「………へへっ、私も!」

真冬「そう、なんだ……」

春馬「じゃあ、また後でな」

千夏「うん!」

【間】

春馬「そろそろ潮時、か…。
分かってはいるつもりだったんだけどな」

真冬「春馬くん…」

春馬「うわっ!真冬!?いつからいたんだ!?」

真冬「……いま来たばっかりだよ」

春馬「あ、あぁ……そうか」

真冬「何かあったの?」

春馬「いや!なんでもないよ」

真冬「そっか」

春馬「あぁ…」

真冬「……千夏ちゃん、やっぱり凄いね」

春馬「えっ?…なにがだ?」

真冬「さっきも、今までも…千夏ちゃんがいれば、みんな明るくなるよね」

春馬「まぁな、うるさすぎる事もあるけど」

真冬「男の子も…きっと千夏ちゃんみたいな子が好きだよね」

春馬「え?」

真冬「明るいし可愛いし、愛嬌もあるし…羨ましいな」

春馬「それ、本人に言わないようにな……
どう考えても真冬の方がモテてるんだから」

真冬「嬉しくないよ…みんな私の事何も知らないのに告白してくるし……。たまに怖い事に巻き込まれるし……」

春馬「そういえば俺達が会ったのって」

真冬「そうだよ笑 先輩からのお誘いを断ったら怖い顔で凄まれて……その時、まだ見ず知らずだった春馬くんが助けてくれた」

春馬「俺はなんもしてないけどな〜、後から秋斗が来てくれたら良かったものの、俺だけだったらボコボコにされてたよ笑」

真冬「だからだよ。他の人達は見て見ぬふりしてたのに……かっこよかったよ」

春馬「は、ははっ…なんか照れるな」

真冬「……春馬くんは好きな人、いるの?」

春馬「え、いや……えっと……」

真冬「どうなの?」

春馬「……いないよ、今は」

真冬「私、春馬くんの事…好きだよ」

春馬「真冬…」

真冬「春馬くんになら全部見せられるよ、心も…身体も……」

春馬「な、何言って…」

真冬「手、貸して」

春馬「なっ!!?」

真冬「どう?私の心臓…今凄くドキドキしてるでしょ?」

春馬「いや、これ…!」

真冬「もっと触ってもいいよ。春馬くんなら……」

春馬「真冬…」

真冬「春馬くん……」

春馬「…っ……ダメだっ!!!」

真冬「……」

春馬「ご、ごめん…俺、その……」

真冬「やっぱり嫌だよね…好きでもない人から、こんな事されても……」

春馬「嫌とかじゃないよ!真冬はすごく魅力的だと思う…!」

真冬「……そう?」

春馬「あぁ、でもほら、他の2人が来ちゃうかもしれないしさ……」

真冬「そうだね…」

春馬「…で、でも!びっくりしたよ!俺なんかより秋斗の方が色々頑張ってるし、気配りもできるしさ!」

真冬「春馬くんは…私が秋斗くんと付き合ったら、嬉しい?」

春馬「えっ?」

真冬「嬉しいって思う?」

春馬「そりゃ…まぁ……俺とも仲良い2人だし、お似合いだなとは思うけど」

真冬「喜んでくれる?」

春馬「多分……」

真冬「もし、ここに私達2人しかいなかったら…受け入れてくれた……?」

春馬「そ、それは……」

真冬「……ごめん、意地悪だったね。忘れてっ」

春馬「あぁ…」

真冬「少し冷えてきたし、そろそろ戻ろっか!」

春馬「あぁ、そうだな」

【間】

春馬(ほんと、最低だな…俺って)

秋斗「遅かったな、もう風呂湧いてるから遅くなる前に入っちまえよー」

春馬「お、おぉ……なんか、おかん みたいだな」

真冬「ふふっ確かに」

秋斗「うるせえ、いいから早く入れ」

千夏「1番風呂はもらったぁぁーーー!!!」

春馬「元気だな、お前…」

千夏「真冬ちゃんも一緒に入ろ!」

真冬「えっ!?一緒に?」

千夏「うん!ほら!行こーーー!!」

秋斗「あんま走んなよー」

春馬「行ってらっしゃ〜い」

秋斗「春馬」

春馬「ん?」

秋斗「悪かったな、ほんと」

春馬「……いいよ、俺も色々と考えが足りないって気づいたしさ」

秋斗「それはそうだな」

春馬「おい!そこはフォローしろよ」

秋斗「ははは」

春馬(その後はいつも通りの俺達だった。何事もなく旅行が終わり、日常に戻っていく。
俺の心に芽生えた問題意識は時間の経過と共に薄れていった。
今思うと、この時何か行動出来ていれば…あんな事にはならなかったのかもしれない。
そして月日は流れ……)

【間】

千夏「山に行こう!!!」

春馬「おー、なんか久しぶりだなコレ」

秋斗「今年は就活とか卒論で忙しかったもんなぁ」

真冬「そうだねぇ、特に千夏ちゃんは本当にギリギリだったから……」

千夏「その節はご迷惑おかけしましたぁ!!!」

春馬「就活は誰よりも早く終わったくせにギリギリまで卒論やんないだもんなぁ」

千夏「だってやる気出ないんだもん!!
皆忙しいし!特に秋斗と真冬ちゃんに至っては連絡もまばらだったし!!!」

秋斗「俺はギリギリまで就活してたからなぁ」

真冬「ごめんね…私も就活に時間かかっちゃって」

千夏「申し訳ないと思ってる……?」

秋斗「思ってない」

真冬「わ、私は思ってるよ!」

千夏「じゃあ山に行こう!!!!」

春馬「振り出しに戻ったな」

千夏「前に行ったログハウス!あそこ雰囲気良かったし、卒業旅行としてもっかい行こうよ」

春馬「あぁ…あそこか……」

秋斗「まぁ、雰囲気は良かったけどな」

千夏「なになに!嫌なの!?」

真冬「私はいいと思うよ?海外とか行くのはちょっと怖いし…」

春馬「確かに施設は良かったし……そうするか」

千夏「ぃよし!!決定ーー!!!
予約はもうとってあるからねっ!!!」

春馬「早っ!?反対されたらどうするつもりだったんだよ!」

千夏「反対されても強行するつもりでしたっ!!」

秋斗「そんなことだろうと思ったよ」

真冬「ふふっ、楽しみだね。就職したらなかなか会えないだろうし…」

春馬「そっか…そうだよな」

千夏「そうそう!大学生活も最後なんだし派手に楽しんじゃおう!!」

春馬(こうして俺達4人の最後の旅行が始まった。)

【間】

千夏「さぁて!到着しましたログハウス!!!
ん〜〜〜〜…樹木だねっ!!!」

春馬「おぉ〜、相変わらず偏差値は低いけど語彙は多少マシになったか?」

真冬「なった…って事でいいんじゃないかな?」

千夏「ふっふっふ……これぞ卒論の成果!!!」

秋斗「微々たる成果だな…」

千夏「小さい成果が積み重なっていずれ大輪の花を咲かせるのさ!!!」

春馬「はいはい、期待しないで待ってるよ」

真冬「春馬くん!一緒に炊事用の道具借りに行こ!」

春馬「え、あぁ…いいよ、行こっか」

千夏「じゃあ私も…」

秋斗「千夏はこっちで荷解き手伝ってくれ」

千夏「え〜〜私も外出たい!!」

真冬「ごめんね千夏ちゃん、お願いしてもいいかな?」

千夏「えっ…わ、わかった!もぉ〜真冬ちゃんが言うなら仕方ないなぁ〜〜」

真冬「ほら、春馬くん行こっ!」

春馬「あ、あぁ……」

千夏「………真冬ちゃん、なんかキャラ変わった?あんな感じだったっけなぁ〜?」

秋斗「真冬だってはしゃぐ時くらいあるって事だろ」

千夏「うーん、そんなもんかぁ〜」

秋斗「それに、俺も千夏に用があったからな」

千夏「えっ?」

【間】

春馬「なんか今日、雰囲気違うな」

真冬「えー?そうかな?ふふっ、久しぶりの旅行ではしゃいじゃってるのかも笑」

春馬「確かに…全員集まるのも何ヶ月ぶりかわかんないくらいだもんなぁ」

真冬「皆んなで集まるの、やっぱり楽しい?」

春馬「え?そりゃ、な」

真冬「春馬くんは私達が大好きだもんね〜」

春馬「なんだよそれ笑 千夏の真似か?」

真冬「うん!どうだった??」

春馬「うーーん……58点!」

真冬「厳しい!」

春馬「今後の成長に期待ってとこだな」

真冬「ふふっふふふっ、やっぱり春馬くんといると楽しいな」

春馬「なんか今日は特に楽しそうだな笑
みんなで集まったからか?」

真冬「ううん、違うよ」

春馬「じゃあなんでだよ笑」

真冬「春馬くんに会えたから」

春馬「…え?」

真冬「やっぱり好き」

春馬「いや、それは……って、おい!」

真冬「やっと二人きり……春馬くんの腕に抱かれてると、安心する……」

春馬「ま、真冬?どうしたんだよ、急に」

真冬「急じゃないよ、ずっとこうしたかった。
でも出来なかった。
………………千夏ちゃんがいるから」

春馬「!!……いつから、気づいてたんだ?」

真冬「前にここに来た時。春馬くんと千夏ちゃんが話してるの、全部聞いちゃったんだ」

春馬「それで、あの時あんな事を……」

真冬「春馬くんのせいだよ…あの時ちゃんと拒絶してくれれば私も諦められたかもしれないのに。中途半端な態度とるから……私だってこんな事、本当はしたくなかったのに」

春馬「真冬…何言って?」

真冬「私…秋斗くんに抱かれたよ」

春馬「!!」

真冬「初めてだったのに」

春馬「そ、そんな事俺に言われたって…」

真冬「やっぱり……!春馬くん、嫉妬してくれるんだね…!!」

春馬「っ!そ、そんな事……!!」

真冬「自分の事を好きな女の子が他の男、それも実るはずないと思ってた片思いの相手にとられて嫉妬してるんだよね?」

春馬「……」
(図星だった。口では秋斗の事を応援していたが、真冬の態度からして実るはずがないと思っていたし、学校内で話題になるほど可愛い子が自分に好意を寄せくれている事実に優越感のようなものを感じていた)

真冬「あぁ……その顔、私のことを見てくれてる!私の事で嫌な気持ちになってくれてる!嬉しい……。安心して、秋斗くんとは身体だけの関係だから心はずっと春馬くんのものだよ!!はぁ…好きだよ…春馬くん…!」

春馬「で、でも!俺と付き合えなかったとしても秋斗に抱かれる必要はなかっただろ…!」

真冬「……春馬くんが嫉妬してくれると思って」

春馬「お前……おかしいよ」

真冬「もちろんずっと好意を寄せてくれてた秋斗くんに申し訳ないって感じてたし、もしかしたら最初は身体だけでも後から気持ちが動くかもしれないとも思ってたよ?でも……」

春馬「……でも?」

真冬「……ダメだった。何度も何度も、求められた分だけ身体を重ねたけど…気持ち悪いだけだった。動物みたいな汚い感情を向けられて……本当に、吐き気がした。慣れてくるまでは秋斗くんと別れたあと毎回吐いてたんだよ?」

春馬「どうして…なんで、そこまで……」

真冬「わかったの。春馬くんは優しいし優柔不断だから、本気で求めたら私の事を抱いてくれるって」

春馬「そんなこと!」

真冬「無いって言い切れるの?」

春馬「っ…」

真冬「身体だけでもいいかなって思った時期もあったけど…私は絶対に我慢できなくなる。春馬くんの全てが欲しくなる…!」

春馬「真冬、お前…どこまで……」

真冬「だからね、私達を阻む障害を取り除くしかないんだって気づいたの」

春馬「何言って……」

真冬「それで仕方なく、唯一使えそうな秋斗くんに声を掛けたんだ。私の気持ちを伝えた時…みっともなく泣いちゃって…惨めだったなぁ。そのくせ ちゃんと身体は求めてくるんだから…本当に気持ち悪い。春馬くんとは大違いだよ」

春馬「秋斗の気持ちを利用したのか…!」

真冬「利用、と言えばそうなのかもね。でも私だって初めてをあげてる訳だし、十分すぎると思うけどな」

春馬「それでも…!秋斗は本気でお前の事!」

真冬「春馬くんは本当に何にも分かってないんだね」

春馬「……え?」

真冬「そこいうとこも可愛いけどね。春馬くんの事ならなんでも愛おしく感じるなぁ」

春馬「何も分かってないってどういう……」

真冬「そもそもさ、秋斗くんなんかの心配してる場合かなぁ?」

春馬「どういうことだよ…?」

真冬「さっき言ったよね?障害を取り除くしかないって」

春馬「障害って…………まさか!!!」

真冬「私だけこんなに嫌な思いをするのって不公平、だよね?」

春馬「クソっ!!!!」

真冬「…………行っちゃった。
ふふふっ…大丈夫だよ、私はどんな春馬くんでも愛してあげるからね…」

【場面転換】

春馬(嘘だと思いたかった。もし真冬の言っていた事が本当だったとしても、俺の親友がそんな事をするはずがないと自分に言い聞かせた。この胸の中に渦巻くドロドロとした気色悪い感情は杞憂であってくれと心から願った)

【間】

春馬「はぁっ…!はぁっ…!」

秋斗「おい春馬…どうした?そんな血相変えて…」

春馬「はぁ…はぁ……あき、と…?」

秋斗「お、おぉ…なんだよ、すげぇ顔してんぞお前……」

春馬「千夏は?」

秋斗「今は自分の部屋にいるぞ?」

春馬「はぁ……良かった……俺の考えすぎか……」

秋斗「あぁ、そういうことか」

春馬「え?」

秋斗「聞いたんだな、全部」

春馬「あぁ」

秋斗「キツかったろ、悪いな」

春馬「いや、いいんだよ…まさか真冬があんな事になるなんてさ……」

秋斗「……そうだな」

春馬「はぁ……気ぃ抜けたら一気に疲れたわ」

秋斗「お前も休んどけ」

春馬「そうするわ……」

秋斗「安心しろ、もう全部終わってるからさ」

春馬「おぉ、ありがと」

秋斗「……」

【間】

春馬「はぁ…本気で焦ったぁ……一旦寝よう。
真冬とは後で話し合わないとなぁ……」

千夏「うっ…うぅ……」

春馬(自分の部屋に戻る途中、千夏の部屋の前を通り過ぎようとしたその瞬間、普段の明るい彼女からは想像出来ないような声が聞こえた)

秋斗「安心しろ、もう全部終わってるからさ」

春馬(さっきは聞き流していた秋斗の言葉が今になって脳裏によみがえった。鼓動が早くなり、冷えきった汗が吹き出てくる)

千夏「ひっ…ぐっ……」

春馬(ドアノブにかけた手が震えている、これを開いたら、きっと今まで築き上げてきた全てが壊れる。それでも…)
「……千夏?」

千夏「……うっ…はる、ま……」

春馬(あぁ…やっぱりこうなった、なってしまった。3月にも関わらずやけに湿度の高い部屋の中に泣きじゃくる千夏がいた。衣服は酷く乱れ、顔には痣が出来ている…必死に抵抗したのだろう…部屋の備品は倒れ、荷物はめちゃくちゃになっていた)

千夏「……春馬…私、私……」

春馬「千夏…!」

千夏「うっ、ひぐっ……うっ…うえぇぇぇ……」

春馬(俺は千夏を抱きしめる事しか出来なかった。元々華奢な千夏の身体が、さらに小さくなったように感じる……何も出来なかった事…いや、何もしなかった事を心の底から後悔した。)

千夏「ひっ…うっ……うっ……」

春馬(千夏が少し落ち着いてきた頃には、俺の中の後悔の感情は違うものへと変容していた)

千夏「春馬…?」

春馬「ごめん、千夏…少し離れるけど大丈夫か?」

千夏「……どこ行くの?」

春馬「大丈夫、どこにも行かないよ。すぐ戻ってくるから」

千夏「……うん」

【場面転換】

秋斗「どうした?酷い顔してるぞ」

春馬「なんでだよ……」

秋斗「あん?」

春馬「なんでこんな事したんだよ!!俺はっ!お前の事…親友だって思ってたのに!!」

秋斗「あぁ…そうだな、わかんねぇよな。お前はそういう奴だ」

春馬「なんなんだよ!!お前も真冬も!!俺が何したって言うんだよ!!?」

秋斗「わかってんだろ?お前はいつもそうだ。本当は分かってるくせに何もしない。何かあったら俺は知らなかったって被害者面して、千夏と真冬に慰めてもらう…本当にくだらない人間だよ、お前」

春馬(何も言い返せなかった…きっと自覚はあったのだろう。俺の怠慢が招いた結果がこの惨状なのだから)

秋斗「なのに…なんでなんだよ……。なんでみんなお前を選ぶんだよ…!ふざけるな…ふざけるなよ!!俺の方が努力してる!助けになってるのに!!一緒にくっついてるだけのお前が全て持っていく!!!」

春馬「秋斗…お前……!!」

秋斗「もううんざりなんだよ!!お前がいるせいで!!俺は何も手に入らない!!大事なものは全部お前のものになる!!」

春馬「ふざけんな!!そんなくだらない嫉妬で千夏にあんな事したって言うのかよ!!」

秋斗「お前にとってはそうだろうよ!!!でも俺にとっては違う!真冬に今回の話を持ちかけられた時の俺の気持ちがわかるか!?
お前の事は好きじゃないけど、好きな人を別れさせるのに協力してくれたら身体だけは使わせてあげるってよ!!こんな惨めな事あるかよ!!!」

春馬「そんなこと知るか!!断ればよかっただろ!!話にのったのもそれで満足したのもお前のせいだろうが!!!」

秋斗「じゃあどうすりゃ良かったんだよ!!!また何もせず手を引けっていうのか!? 」

春馬「少なくともこんな犯罪をおかすよりはマシだろ!!!」

秋斗「全部お前のせいなんだよ!!今も昔も!!千夏の事も真冬の事も!!!俺がこんなになったのも全部お前のせいだ!!!」

春馬「はっ!お前だって自分の責任を他人に押し付ける くだらない人間じゃねぇか!!!真冬も言ってたよ!惨めに泣き喚いたクセに身体はちゃんと求めてきて本当に気持ち悪いってな!!」

秋斗「お前ぇ!!!!!」

【倒れ込み、首を絞める】

春馬「うっ…ぐっ……!!」

秋斗「最初からこうしておけばよかったんだ…!!お前さえいなくなれば……!!!」

春馬「あき…と……やめ……!!」

秋斗「お前さえ、お前さえいなければ…!!!
消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!!!!」

春馬「うっ…あ……」

秋斗「死ねえぇぇぇぇぇぇ!!!」

真冬「はーい、そこまで〜」

(バチッ!!)【スタンガン】

秋斗「うっ……が…………」

春馬「うっ!ゲホっ!ゲホッゲホッ!!」

真冬「危ないとこだったね、春馬くん♡」

春馬「真冬……」

真冬「春馬くんを殺そうとするなんて、明らかな契約違反。あなた、もう要らないわ」

春馬「お前のせいだ……」

真冬「んー?」

春馬「お前が俺達の前に現れたから!!全てがおかしくなった!!!俺も秋斗も千春も!!!こんな事にはならなかったんだ!!!」

真冬「そうだね……春馬くんから見たら、私が輪を乱したように見えるよね」

春馬「事実だろ…!」

真冬「……いいよ。私が悪者になってあげる。抱えきれないその感情を全部私に吐き出して…!
春馬くんの為なら、私なんでも受け入れるよ……!」

春馬「なんなんだよ…!お前は!!」

真冬「私は春馬くんのことが大好きな普通の女の子、だよ…?」

春馬「ふざけるな!!!!!」

【倒れ込み、首を絞める】

真冬「っ……素敵…春馬くんが私を見てる……!私、だけが……春馬くんを、独占してる……!」

春馬「お前の!お前のせいで!!」

真冬「うっ…ぐっ……あ、あぁ……幸せ、だよ……すきな、人から…求められるの、って……こんなに……幸せに、なるんだ……」

春馬「うるさい!うるさいうるさい!!」

真冬「あっ……くっ……あい…してる、よ……
はる、ま……くん……」

春馬「あああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

【間】

千夏「静かになった……?」

春馬「……お前のせいだ…お前のせいだ…お前のせいだ……」

千夏「春馬……?…ひっ…!」

春馬「千夏……?」

千夏「春馬…そ、それ……」

春馬「……え?」
(視線落とすと俺の手の先には真冬のか細い首、そしてその先に…以前の端正な顔立ちは見る影もない、醜く歪んだ…真冬だった何かが こときれていた)

千夏「それ、もしかして……真冬…ちゃん……?」

春馬「違う…俺は……こんなつもりじゃ……はぁはぁっ…はぁっ…はぁ…はぁ!」

千夏「春馬!落ち着いて!大丈夫、大丈夫だよ……!」

春馬「なんで、こんな……こんなつもりじゃ、俺は…取り返しのつかない事を…うっ…!」

千夏「春馬…!春馬……!」

春馬(どのくらい時間が経ったのだろう、千夏の腕の中で自分が犯してしまった過ちが濁流の如く俺の心を蝕んだ)

千夏「大丈夫だよ…春馬だけに、背負わせないから……少し待っててね」

秋斗「ん…んん……俺は……?」

春馬「……」

秋斗「…………は?」

春馬「……」

秋斗「お前それ…真冬……?真冬、なのか?これが……?……おい…答えろよ春馬ぁ!!!」

春馬「……違う…俺はそんなつもりじゃ……」

秋斗「そんな言い訳で済むわけねぇだろぉ!!!真冬はっ…真冬はもう……!!!」

春馬「……殺してくれ」

秋斗「お前……!!…………わかったよ。望み通り殺してやるよ!!」

春馬(秋斗の手が俺の首にかかる。もうどうでもいい…何でもいいから、早く終わらせてくれ)

秋斗「うっ……」

春馬「……え?」

秋斗「あっ……がっ、はっ……」

春馬(唐突に秋斗が倒れ、苦しみ始める。その背中には包丁が深く突きたてられていた)

千夏「お待たせ、春馬」

春馬「ち、千夏……?」

秋斗「あっ…ぐっ……千夏、お前……!!」

千夏「ごめんね、秋斗。でも…これは私を犯した報いだと思って…我慢してね?」

秋斗「がっ……!!」

春馬(千夏はおもむろに取り出した2本目包丁で、苦しむ秋斗の首をかき切った)

千夏「ごめんね、春馬。これしか思いつかなかった」

春馬「ち、千夏…お前……」

千夏「これで、私達は同罪だよ。お互い身も心も汚れちゃったけど、ね」

春馬(そう言って千夏はいつもの太陽のような笑顔をこちらへ向ける)

千夏「まさかこんな事になっちゃうなんてなぁ〜、人生わかんないもんだねぇ」

春馬(にこやかに話す千夏の顔には大量の返り血が付いている)

千夏「やっぱり、引いちゃった?」

春馬(それはとても歪で……)

千夏「私の事……嫌いになった…?」

春馬(同時にこの上なく綺麗だと思った)

千夏「春馬……?」

春馬「愛してるよ、千夏」

千夏「ふふっ、私も…愛してるよ」

春馬「千夏……」

千夏「いいよ、春馬……しよ?」

春馬「あぁ」

千夏「全部、上書きして……」

春馬(こんな事をしてる場合では無いのは分かってる。2人の死体をどうするか、いなくなった2人の事をなんて説明するか、警察にはどう言い訳するか……そんな思考を全て忘れようとするかのように俺達は快楽を貪った。)

千夏「春馬……」

春馬(生暖かな快楽の渦に呑まれ、俺の意識は泥のように溶けていく。この心地の良いぬかるみにずっと浸かっていられたら…どれだけ幸せだろうか)

千夏「これからもずっと一緒だよ、春馬……」

〜Fin〜

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