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やまなし 〜エピソード0̸〜 【コメディ台本 男2】

やまなし(エピソードØ)
A→柿原 哲夫(かきはら てつお)
B→クラムボン

A:「俺、ここで死ぬんだ…」
(大型トラックの居眠り運転。テレビやマンガではありきたりな死が、目の前の現実に迫っている)

0:SE(キキーー!!)

A:「時間がゆっくりだ……これが走馬灯かぁ。まぁ…つまんない人生だったし、こんなもんだろ……」

0:【間】

B:「…おい」

A:「……」

B:「おい!」

A:「…んん」

B:「おいってば!!」

A:「はっ!!こ、ここはどこだ!?俺、死んだはずじゃ…」

B:「はぁ?何言ってんだよ、寝ぼけてんのか」

A:「…お前は、誰だ?」

B:「俺か?俺はクラムボン!」

A:「く、クラムボン……?」

B:「そう、クラムボン!お前はケンジか?」

A:「いや、違います」

B:「ケンジじゃないならなんなんだよ!!」

A:「え、いや…て、哲夫ですけど…」

B:「ふーん、ミヤザワ哲夫ね」

A:「違います。誰ですかそれ…」

B:「はぁ?なんなの??なんなん?お前なんなん??」

A:「いやなんなのって言われても…柿原哲夫です。としか」

B:「ミヤザワでもケンジでもなく?」

A:「はい…」

B:「ふーん……変な名前!」

A:「お前には言われたくない…」

B:「あ、もしかしてケンジ ミヤザワの方?」

A:「しつけぇよ!!何なんだお前!!!」

B:「俺はクラムボン!」

A:「うるせぇよ!聞いたよ!!宮沢賢治のクラムボンだろお前!!」

B:「俺はクラムボン!ケンジはお前だ!」

A:「ケンジじゃねぇっつってんだろ!!!」

B:「じゃあミヤ…」

A:「ミヤザワでもねぇよ!!!!!くそっ、なんなんだよここは…!!」

B:「山梨県だよ」

A:「そっちの山梨なんだ!!!」

B:「まぁ落ち着けって。」

A:「はぁ…お前のせいだろ…」

B:「サワガニ、食うか?」

A:「食わねぇよサワガニなんて…」

B:「だよな、俺も食わない」

A:「あーー殴りてぇーーークラムボンって殴っていいのかなぁーーー」

B:「うん、少しはマシな顔になったな」

A:「え?」

B:「お前、さっきまで死にそう…ってか死んだ直後みたいな顔してたからさ」

A:「まぁ…実際死ぬ間際だったし……
もしかしてお前、俺を気遣って…?」

B:「まぁな」

A:「……悪い奴ではないのかな」

B:「しかし、急に現れたもんだからびっくりしたよ」

A:「急に?そうなのか?」

B:「そう。1日1回そこの召喚陣から何かしら出てくるんだよ」

A:「デイリーガチャかよ…」

B:「お前はR(レア)ってとこだな」

A:「微妙なレアリティだな…反応しにくっ」

B:「…カプ」

A:「…え?」

B:「カプ…カプカプ…カプカプ」

A:「なに…?え、なに!?なにこれ!?怖!!なんなの!?!?」

B:「冗談だよ(笑)簡単に信じるから面白くてさぁ」

A:「笑ってた!かぷかぷ笑うんだ!!クラムボンは かぷかぷ笑ったよ!!!」

B:「とりあえず、今のお前じゃすぐ死ぬだろうから俺がこの世界での生き方を教えてやるよ!」

A:「えっ…ここってそんな殺伐とした世界なの?のどかな山梨県の山林って感じだけど」

B:「そうだぞ。お前みたいな原生人類はすぐに奴らの標的になるからな」

A:「ダークファンタジーだ…」

B:「この世界では、ほとんどの人類はサワガニにされてしまっている。」

A:「待って、お前さっき元人間を食わせようとしてたの?」

B:「繁栄を極めた人類は、地球を汚しすぎたんだ…。」

A:「いや無視かよ」

B:「結果として、防衛機能が働いた」

A:「なんでサワガニをチョイスしたの、地球君」

B:「残ったのは運良く難を逃れたごく一部の人類と、俺みたいな自律型アンドロイドだけ」

A:「クラムボンの正体ってアンドロイドだったんだ…!」

B:「このままじゃ絶滅の危機って事で異世界の人間をこの世界に呼び出してるんだ」

A:「それじゃ!俺以外にも同じ境遇の奴がいるのか!?」

B:「あぁ…サワガニになっていなければ、な。」

A:「わかった…この世界で生き抜く術を教えてくれ…!」

B:「まずは戦闘技術を身につけてもらう」

A:「あぁ、何をすればいいんだ」

B:「八極拳」

A:「中国拳法なんだ…」

B:「ぼさぼさするな!始めるぞ!」

A:(それから、俺とクラムボンは八極拳の修行に明け暮れた。俺には類稀な才能があったようで、数年が経つ頃には達人の域に達していた。
そして転移から5年後、遂にその日は訪れた)

B:「そろそろ、かな…」

A:「ん?何が?」

B:「人類の敵が現れるのが」

A:「それなんだけどさ、ここに来て5年は経つけどそんな奴1回も見た事ないぞ?」

B:「いや、何度も見てるよ」

A:「いやいやないって」

B:「見てるよ、ほとんど毎日」

A:「適当な事言うなよ、ここにはサワガニしかいないだろ」

B:「いるだろ、ちゃんと喋ってる奴が」

A:「いないって。だってここには俺とお前しか………俺とお前、しか………え?」

B:「……」

A:「いや…だって、そんな……」

B:「そう、俺だよ」

A:「う、嘘だよな?いつもの冗談だよな!?」

B:「この世界で『人間が創ったもの』は全て、俺に触れるとサワガニになる……人間自身も含めて、な」

A:「つ、つまんない冗談言うなよ!!!現に俺は何ともないだろ!!」

B:「お前はこの世界の人間じゃないからな」

A:「それはっ…!」

B:「人類は俺の能力の事を……
Crab metamorphose biological neuron
(クラブ メタモルフォーゼ バイオロジカル ニューロン)
って呼称した。
その略称でCrambon(クラムボン)って訳」

A:「クラブ メタモルフォーゼ バイオロジカル ニューロン……?」

B:「そ、直訳すると カニに変身する化学的な神経細胞。そのまんまだろ?」

A:「そ、それが仮に本当だとしても!!お前みたいな優しい奴がなんで…なんでこんなことしたんだよ!!」

B:「言ったろ?俺は言わば地球の免疫なんだ。有害な人間を無害なサワガニにする…それだけが俺の生まれた理由なんだよ。」

A:「……クソっ!!なんなんだよ!!!何の為に俺を呼んだんだ!!」

B:「俺を………殺してくれないか?」

A:「……え?」

B:「この世界から人間が消えてから、もう200年。俺が死なないと、新しい人類は生まれないんだよ。」

A:「し、知るかよ!俺を巻き込むなよ!!」

B:「自殺もできないし、老いる事も無い。外敵に襲われても自動で迎撃してしまう。だから、俺を殺せる存在を呼ぶしかなかった…」

A:「そんな…そんなの……!」

B:「……哲夫だけなんだ、俺には」

A:「っ!!!」
(いつも飄々として掴みどころのなかったクラムボンが初めてみせた、懇願するような…弱々しい言葉だった)

B:「…頼む」

A:「他に……道はないんだな?」

B:「あぁ…」

A:「…………恨むからな、一生」

B:「ごめん」

A:「………クソぉぉぉっ!!!!」
(俺とクラムボンの戦いは熾烈を極めた。三日三晩に渡る壮絶な死闘、その先には何の希望も喜びもない。そして……)

B:「外門頂肘(がいもんちょうちゅう)!!!」

A:「ウッぐっ……!!!」

B:「セェェェェイッ!!!!」

A:「その動きは……何度も見てきた!!」

B:「避けた!?!?」

A:「ハァァァっ!!!!!」

0:(SE)グシャッ

B:「グフッ!!!」

A:(俺の発勁(はっけい)がクラムボンのコアを撃ち砕いた)

B:「やっぱり…俺が見込んだけあるな……カハッ!!」

A:「はぁ…はぁ……」

B:「本当に…強く、なったな…哲夫……」

A:「…最期に聞かせてくれ、お前の手でサワガニになった人間は、昔の事を全く覚えていないのか?」

B:「?…わからない…けど……覚えてる個体も…いるかもしれない……」

A:「そうか…」

B:「それじゃ…元の、世界に……返すよ……俺の…最期の力で…」

A:「いや、いい」

B:「…え?」

A:「その代わり、最期の力で俺をサワガニにしてくれ」

B:「な、なんで…?」

A:「つまんない人生だったんだ。誰にも求められず、自分で死ぬ勇気もない。惰性ですごすだけの毎日。でも、ここに来て…お前と出会ってからの5年間は本当に楽しくて、充実してた…」

B:「哲夫……」

A:「元の生活に戻るくらいなら、お前が守ったこの世界を、見届けたいんだ」

B:「……カプ…カプカプ」

A:「死ぬ寸前の奴が何笑ってんだよ…」

B:「やっぱり…変な奴だな……哲夫は…」

A:「お前には言われたくない」

B:「似てるな、俺たち……。来てくれたのが、哲夫で…本当に良かったよ…これで、思い残す事は無い……」

A:「俺も………いや、俺はお前の事を一生恨むって決めたからな。お前が…クラムボンっていう最悪の奴がいたって事は、絶対に忘れないよ」

B:「カプカプ…そう、か………………ありがとう」

A:(クラムボンが最期の言葉を口にしたその瞬間、俺の視界は闇に呑み込まれた。肉体が根本から作り替えられていく不思議な感覚。自分という存在が溶け、別の何かに塗り変わっていく。薄れゆく意識の中で暖かな光が差し込んだような、そんな気がした…)

0:【間】
0:(SE 水中)

B:『クラムボンは死んだよ』

A:『クラムボンは殺されたよ』

B:『クラムボンは死んでしまったよ………。』

A:『殺されたよ。』

B:『それなら何故殺された』

A:「……………わからない。」

0:〜Fin〜

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