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No Till(不耕起)の話

The organic No-Till farmingは今や世界のオーガニックファームの土壌に対する取り組み方の一大ムーブメントといっていい。
No Tillとは直訳で"不耕起"。だけれども自然農法からイメージする不耕起とは違い、何も為さない(無為)のではなく積極的に不耕起にする為の様々なメソッドを実践する。これらのメソッドはここ10年くらいの間で急速に北米のMarket Gardenerたちによって成熟してきた。(近年、私たちのような小規模の有機農園で、CSA《community supported agriculture》主体のある意味似たスタイルの農園を北米ではMarket Gardenerと呼んでいる。) そして、メソッドだけではなくNo Tillのための様々な道具から資材まですごい勢いで発達し拡がりをみせている。

何故No Tillなのか。1番は土壌の健康のためである。健全な土壌が健全な食を育む。土や環境を疲弊させない土壌に対する取り組みは地球の自然環境のためにもつながっていく。農家であればあまり耕起しない方が良いとぼんやりとでも思う人が多い。耕起は微生物のコロニーをいとも簡単に壊し、せっかくの団粒化を崩す。土は太陽に晒され表層の水分はすぐに乾燥し有用微生物を表層から失う。強い風や強い雨によって土壌は流されやすくなり、更に大型機械は土壌に耕盤層と呼ばれる固い層を生み出す。自然界では砂漠以外で土が露出しているところは少ない。何らかの状態によって土は常にカバーされている。それが自然の法則の一つであるかように。

自然界では耕起ということが無かった。
人は耕起によって自然循環の流れを止めているという事実がある。

しかし具体的にどうすれば耕起せずに畑を維持できるのか。。草に覆われた畑では効率よく作業するには不都合な事が多い。
ぼんやりと良い事だけど。。
不耕起のための技術体系が今までは無いに等しく、みんなが簡単に取り組める一般的な技術で効率的な栽培とも言えなかった。

一方、いかにして不耕起を実現できるかの問いに対して様々な方法によって実践し可能であることを証明してみせた北米の先駆者たちの創意工夫には頭が下がる。
耕起しないということは土のレイヤーを変えないということ、水や空気を良い状態に保つ団粒化を壊さずにフワフワな土壌を守ること、何より土壌微生物の住みよい環境を整えることであり、土壌に持続性を与えることでまるで森の中の土の状態になる。繋がりが生まれ循環がある。耕起せず、様々な取り組みによって土を露出させないことでそれを成し遂げる。もちろん方法は農家によって様々なスタイルがある。急速な進化もまだまだ途上で各々のスタイルに合わせた技術がすごい勢いで開発されている。何千年続いたから農業はもう完成されているわけではない。進化があり、まだ見ぬ先がある。
学んでいて常に新鮮で本当に面白いのだ。

No Tillは実践することによって農作業の効率化と土地利用の最適化において向上する。
北米のデータでは、ほとんどの場合同じ面積において実践後に収量が上がる。同じ面積において収量が上がるということは収入も上がることを意味する。
この効率性、収益性がここまで世界に広がっている理由の一つだと思う。だからこそ近年北米を中心に見るのは小規模な農家の姿だ。
地球のためにも良いというだけではなく、地域の人々にも効率よくオーガニックの食を届けることができるのだ。大掛かりな設備、トラクターのような機械を必要とせず、小さい面積で営農するため新規参入がしやすい。それにより小規模な有機農園が北米中心にこんなにも広がっていることに感動を覚える。もちろんオーガニックや環境に対する関心も裾野が違うのだが。。
大規模化、企業化、輸出産業化、ブランド化などと天を仰いで騒いでいる日本の取り組みに違和感を感じているのは自分だけだろうか。足もとをみることの重要性。地域の食は地域で生産することの大切さ。そのありがたさ。手の届く距離で小さくあることの意味をいま一度みんなと共有していきたい。

No Tillはあくまで土壌に対する取り組み方の一つである。農に対するほんの一部のことであり全体を意味することではない。
その取り組みの中でこうでなければいけない決まりもない。もちろん農の形は自由でいいし、それぞれがそれぞれで良い。全てNo Till でなくてもLow Till でもいいと思う。


自由でいい。


しかしながら、この取り組み方が地域の食を充分に生み出す方法の一つであるならば、
人間だけがよければよい。環境を犠牲にしても目もくれず儲かればよい。
No Tillはそんな経済優先の農業に対する新たな答えであり、農の形だ。
小さくても満ち足りるのだ。



そのためには人々の意識の変容も必要だ。地域の食が地域の人々に選択される必要がある。食の選択でどれほどのことが変わるのだろうか。
コロナ渦を通じて痛感する。
このフードシステムが変わるだけでどれほどののことが変わるのだろうかと。

少しづつでも、畑のほんの一部からでも挑戦して実践することは今後につながる。
とにかく時間がかかる畑の土のこと。いつの日か畑で大きな変化が訪れていることだろう。
そして、この取り組みは農家だけではなくて家庭菜園でも簡単に実践できる。No Till にはトラクターのような大型機械は必要なくなる。誰でも少しのノウハウがあれば取り組むことができる。
数年後にはワークショップでも開きたいなぁと思います。



私たちはここ八雲の畑で
食、命、地球を見つめて
野菜をつくっています。
天人合一


TarpingはNo tillの立役者(^^)
うちの畑で目にする不思議な光景。

このトマトハウスも不耕起。

No Till Market gardenerの先駆者のひとりJean-Martin Fortier 言葉。

 multiplying the number of small ecological farms all over the world. This I believe, is how we can replace the poison and destruction of industrial agriculture with a food system based in nature and community. Food grown with care, by and for people who care.
— JM Fortier

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